どこまでも高く、どこまでも澄みわたる蒼天に、厚い入道雲が浮かんでいる。
昼下がりは路上の野良猫もあくびをもらす時分だが、街はずれの屋敷内では、緊張の糸がぴんと張りつめていた。
「彼女を離宮へつれてゆく」
「お断りします。お引き取りください」
風ひとつ吹かない回廊で対峙するは、漆黒の艶髪をもつ華奢な少年と、柔和な笑みの奥に有無を言わせぬ気迫をやどした、三毛の青年である。
「貴様! 皇子殿下の御前にありながら、なんという厚顔な!」
「控えよ、
憤慨する
「時の皇子殿下は、生まれつきおからだが弱くて、ろくに都から出たことがないって聞いてるけど?」
「なぜ
うろたえたその瞬間に、飲み込んでしまうぞとばかりに。
梅雪自身も、
「彼女が
しかれども、間髪をいれずに返す
「そうだ、私は生まれながら虚弱体質に悩まされてきた。宮廷医官たちもさじを投げるほどのな」
刺すほどの視線を一身に受けてもなお、暗珠は
「だが遠い
「では、殿下が一方的に梅雪さんをご存知だったと?」
「相違ない」
真実に織りこまれた巧妙な嘘。
それは暗珠が一方的に梅雪を想っていたという宣言であり、一心らの追及を一手に引き受けるものであった。
「そらぁお熱いこって。若気の至りにも限度ってもんがあるぜ。──
平生の快活な表情をひそめ、険しく瑠璃の瞳を細めた
「お断り申し上げる。私とて、積年の情をやすやすと手放すつもりはない」
「しつこい男は嫌われるぜ?」
「ならば問題はないな。わが姫は、私を拒絶してはいないのだから」
正論だった。早梅は暗珠を突き離すことができなかった。彼の肉体にやどった『クラマ』という存在が、強引にいだかれても、嫌悪感をおぼえさせてはくれない。
それどころか、安堵にこのままくずれ落ちてしまいそうなほど。
「……殿下と、お話をさせてください」
「ですが、梅雪さん」
「おねがいします」
早梅がこのまま沈黙していても、状況が改善しないことは明白だ。
「私は、大丈夫ですから」
きつく搔きいだかれているせいで上手く頭を下げられないから、こちらを案じる一心たちに向けて、せめてもの笑みを浮かべてみせる早梅だった。