「僕にかまっていたせいで、
──あぁもう、うるさいっ!
──あいつのところに行けばいいだろ、ばかっ!
「落ち込む君をはげまそうと、使用人が
あぁそうだ、それで。
「……そのせいで、君は猛毒に倒れたんです」
茶葉に毒が入っていることを、
「混乱する
そうだ……思い出した。
三毛なのに雄なのがめずらしいって、やかましくさわいでいたじゃないか。
「君を救ったのは旭月。僕は最後まで、なにもできなかった。そもそも僕がいなければ、君が死にかけることもなかった。僕は……どう足掻いても疫病神なんだ。だってそうでしょ? 僕が愛そうとするほど、君が傷つくだけなんだから」
それが、一心のいう罪。
決してゆるされぬ大罪なのか。
「だから僕は、君のもとを離れることにしました。死ぬまで、この想いをかかえていようと」
愛を知った一心は、一族へ戻り、やがて長となった。
早家を追われた紫月を、むかえ入れてくれた。
「君とは、二度と会うつもりはなかったんです。でも二年前、
百杜が焼け野原になった二年前。
一心がさがしていたのは、紫月だけではなかった。
「それでも、遅かった……また君を助けられなかった。いくらじぶんを責めても、僕は無力だった……そうやって、失意のどん底に突き落とされた僕の前に、ひょっこり君があらわれたんです。もう意味がわからないですよね」
一心はわらう。ぎこちないけれど、彼の本心からの笑みだった。
「君のえがおを見た瞬間、抱きしめたくてたまらなかった。僕を呼ぶその唇を、唇でふさぎたくてたまらなかった。君のそばにいる未来を、思い描くようになってしまったんです」
あぁ……とため息をもらした一心は、
「君を僕のものにしたい。愛し愛されたい……そればっかりで、頭がいっぱいになります。ははっ……重いですよね」
「重いかもしれませんが、簡単に押しつぶされるほど、私は弱くはないですよ、一心さま」
「っ……」
身を引こうとした一心のほほを、早梅は手のひらでつつみ込む。
とたん、一心の笑みが、くしゃりとゆがんだ。
「……もう、離れたくない」
「はい」
「すき……好きです、梅雪さん。愛しています」
「……はい」
「あぁもう、何度言っても足りない……っ」
好き、大好き、愛してる。
一心はうわ言のようにこぼしながら、濡れたほほを早梅へすり寄せる。
腕いっぱいに抱きすくめ、密着したからだは、熱いくらいだ。
「君がだれを愛していてもいい。ただ、僕が君を愛していることを知っていて。君を、愛させて」
そういって泣き笑う一心の表情は、見惚れるほどにきれいだった。
雨上がりの空に、虹が架かったように。
「梅雪さん、君は僕のすべて。このいのちは、もう君のものだよ」
甘い声をひびかせた唇が、そっとほほにふれ、ぺろりと舐められる感触。
早梅がくすぐったさに身をよじれば、追い討ちをかけるようにぺろり、ぺろりと。
「逃げないで。もうすこしだけ、このままでいさせて?」
早梅へほほをすり寄せる一心の頭には、ひょこひょこと動くふわふわの耳があった。
背後には、ゆらゆらと揺れるしっぽがあった。
「ねぇ……僕を見て?」
ダメ押しのごとくささやかれたら、もう。
「困った猫ちゃんだなぁ……」
苦笑いで敗北宣言をして、あとは甘えたがりな猫の気のすむまま、されるがまま。