ふりふり、と。
綿毛のような緑色の花穂がゆれている。
「
「
「ぐはぁっ!」
早梅を猫じゃらしで釣ろうとした六夜が、自爆した。
ひざからくずれ落ちる六夜。たたた、と
鍛錬を装って早梅を外へ連れ出した六夜が、駆けつけた
六夜をかばう者は、だれひとりとしていなかった。
さわぎを聞きつけてすっ飛んできた
「うちの馬鹿が申し訳ありませんでした」
いつも笑っているような糸目の五音が、眉を八の字に下げ、早梅へ頭を下げた。
五音の右手は六夜の後頭部をわし掴んでおり、有無を言わさず直角に腰を折らせている光景そのもの。
(悪い方ではないと、わかってはいるのですが)
おのれの胸にしがみつき、ぐすぐすと鼻をすする早梅の頭をなでながら、黒皇はそっと嘆息をするのみにとどまった。
言いたいことは、瑠璃の瞳でじっと六夜たちを見つめる桃英が、代弁してくれるだろうから。
「郷に入っては郷に従えという。だが妻子ある身で、突然交際をせまるというのは、いかがなものか。先に説明をされるべきではなかったか、六夜殿」
「いやもう、まったくその通りです……」
猫族は子を成しにくい種族であるがゆえに、男女共に重婚が認められている。
そのことを、六夜に半ば襲われるかたちで知ったのだ。少なからず、早梅はショックを受けている。
しかも「妊娠させる気しかない」云々の話を、桃英に聞かれている。控えめに言ってアウト。
「優しすぎんじゃねぇか、
先ほど桃英から鳩尾への容赦ない一撃を食らった六夜を、追い討ちとばかりに
「そんなぁ、お祖父さまぁ~!」
「てめぇにお祖父さまと呼ばれる筋合いはねぇ!」
「梅雪お嬢さま、お茶をお淹れしましょうか。こちらへどうぞ」
桃英、そして晴風からにじみ出る物々しい空気に、黒皇は早梅を避難させるが吉と判断。室の奥へ誘導する。
「……ごめん、黒皇」
「どうなされました?」
「こわいとか、嫌いに思ったんじゃないの……ちょっと、びっくりしちゃって。あんなに『好き』って、言われるとは思わなくて……」
いまだすすり泣く早梅の言葉は、ところどころ要領を得ない。
しばしの思案をはさみ、あぁ……と黒皇は納得する。
(早梅さまは、六夜さまに申し訳なく思ってらっしゃるのですね)
気持ちを受けとめきれず、泣いてしまったから。
それが原因で桃英や晴風から激しく非難される六夜に、罪悪感すらいだいているのかもしれない。
濡れた瑠璃の瞳で、ちらちらと六夜の様子をうかがっているのがその証拠だ。
「梅雪ちゃんがかわいいのは事実じゃん! いずれ好きな子に手は出すだろうがよ、男なんだから!」
「六夜、悪いけど私ではもう、かばいきれないよ」
しまいには開き直った六夜と、ついに見放した五音。
(面白く、ないですね)
六夜の、想いびとへ対する愚直なほどの実直さは、黒皇にとって恨めしくも、羨ましくもある。
つまるところ、黒皇は嫉妬していた。経緯はどうであれ、今現在の早梅からの視線を、ほしいがままにしている六夜に。
「にゃん小僧はどこだ!?」
「
「だーっ、どいつもこいつも話にならねぇな!」
監督不行き届きを指摘しようと一心の所在を問う晴風だったが、五音の返答で不発に終わる。
ちなみに、そうこうしている間も「てか梅雪ちゃん、泣き顔もめちゃくちゃかわいいな、滾るんだけど!」と六夜が口走っているため、桃英が無言でこぶしをにぎり直している。
「
「んお? なんだ黒皇、神妙な顔しやがって」
我慢強い黒皇としても、いろいろと限界をむかえているころだったので、早梅の背をそっと押して室の奥へ避難させたあと、晴風へ声をかける。
「今晩は、おぼっちゃまをおねがいしてもよろしいですか」
晴風は、まばたきをひとつ。すぐになにを言われたのか理解し、
「しかたねぇな、ほどほどにしろよ」
と肩をすくめるついでに、うなずいてみせる。
黒皇は言葉少なに、「善処します」とだけ返した。