「それで、
「じゅうさんさい!」
「へぇ、十三歳かぁ……十三歳!?」
つまり、現在が十二歳ということである。
待ってほしい。切実に待ってほしい。
「八藍だけじゃないよ、ぼくもだもん!」
「
「うん、だってふたごだもん!」
「あら、そうなのぉ」
八藍だけ早梅に贔屓されそうなのが、
言われてみれば、顔立ちはさほど似ていないが、おなじ薄緑の瞳をもつ八藍と九詩だ。二卵性双生児なのだろう。
ほほをすり寄せてくる九詩の茶と黒の頭も、なでてやる。
すると八藍は八藍で、「おれがさきにおねがいしたもん! おれがさきにおいわいしてもらうの!」と駄々をこねはじめた。
「こら、困らせたらだめだろう」
ここで、聞き慣れない男性の声が。早梅が声のほうを見やれば、黒髪の青年が歩み寄って来るのがわかった。
背は高いほうで、細身ながら筋肉質なからだつきが、
見目だけで言うなら十七、八歳ほどで、
「
「ううん、とうさん」
「んっ、お父さん!?」
「お初にお目にかかります、八藍の父、
「こっ、これはご丁寧に……
「存じ上げておりますよ。息子と遊んでいただいてありがとうございます、梅雪さま」
恭しく
「九詩も、意地をはってたら格好悪いよ」
「むぅ……」
そうこうしていると、茶髪に黒毛のまじった、九詩とよく似た青年がやってくる。
こちらも長身。糸目のため、つねに笑っているような表情をしたその青年が、六夜に並んで頭を垂れた。
「梅雪さまにごあいさつ申し上げます。九詩の父、
「ちょ、ちょっと待ってください!」
なんだかさらっと、とんでもないことを告げられた気が。
(藍藍と詩詩は双子……だから母親はおなじなんだよね? でも父親がちがう……それって、つまり)
いやいや、そんなまさか……
思わず晴風をふり返ると、静かにかぶりをふられる。
「
そのまさかだった。
「八藍と九詩は、正真正銘の双子の兄弟ですよ。父親はちがいますがね」
ダメ押しのごとくつむがれる、おだやかな声音がある。
ここで登場。言わずもがな、満面の笑みをたたえた
* * *
古くより
「生まれにくいとは、具体的には?」
「男子が四十人生まれて、女子がひとり生まれるかどうか、でしょうか」
「なんてこった……」
それはぶっちゃけ、現代でいう中学だか高校だかの1クラスに、女子がひとりだけ放り込まれているようなものだ。
「ですから、俺たち猫族は一妻多夫制をとっていて、できるだけ多くの血筋をのこせるように尽力してるんですよ」
「猫族の男は、こどものときから叩き込まれるのです。武功と、女性はお姫さまだということを、ね」
六夜と五音の補足があり、余計に衝撃を受ける。
それならば八藍と九詩が初対面の早梅を「お姫さま」と呼んでいたことの説明はつくが、いかんせん内容が内容である。
(黒皇《ヘイファン》が言ってた『猫族は、貞操観念が私たちと決定的にちがう』って、このことか……)
言わば、『みんなで奥さんシェアしちゃおうぜ』という意味である。現代語ではそれを逆ハーレム、略して逆ハーなどと呼ぶ。
それだけではない。六夜も五音も、どう見たって現代男子高校生ほどの外見だ。とても十三歳になる息子をもつ父親には見えない。
(一心さまもそうだけど、猫族はみんな若々しすぎる! 私の脳がバグったのかと思ったよ!)
千年以上生きている仙人と烏のことは、棚に上げている早梅である。あちらは究極の特殊例なので、ノーカウントだ。
「むさ苦しくってすいませんね。汗を流してきます」
「もうすこしだけ、うちの子たちをおねがいしますね、梅雪さま」
「あっ、もちろんですー」
毎朝の鍛錬終わりだという六夜と五音は、そう爽やかに言い残して去っていった。さながら、部活帰りの高校生である。マイナスイオンしかない。
終始圧倒されっぱなしの早梅のもとには、いまだにくっついて甘えている八藍と九詩。
そのとなりに、腰かけてほほ笑ましく見守る一心。
さらに