「話が逸れちゃったけど!
「お心あたりがございませんか、ほんとうに?」
「ちょ、声ひっく……顔もこわいって」
ゴゴゴ……と背後にとんでもない気迫をまとった黒皇の様子から察するに、
「……きのう、
なぜだか早梅は、出会ったその日にプロポーズをされてしまったが。
黒皇はそのことがたいそうご不満なようだが、早梅としても、一心がどんな心境でそんな行動に出たのか、想像もつかない。
「一度断ったくらいで、はいそうですかと諦めるような方ではありませんよ」
「えっ、一心さまってそんな面倒なひとなの?」
そうは見えないけどなぁ、と早梅が続けるより先に、黒皇が強い語気で主張する。
「悪い方ではありません。ですが色恋に関して、猫族の方々はわれわれとは貞操観念が決定的に異なります」
「えぇっと……つまり?」
「一心さまに限らず、猫族の男性とは、ぜったいにふたりきりになられませんよう。昼夜かまわず、十割襲われますので」
「それダメなやつじゃん!」
つまり黒皇が言いたいのは、「ビジネスライクはOKだが、プライベートは気をゆるすな」ということらしい。
「というか『襲ってくる男』なら、君も大概じゃないかい?」
「私はいいんです。ちゃんと『まて』ができますから」
「もー、口が達者になっちゃって」
なけなしの反撃をしてみたが、それも論破されてしまった。
早梅に信頼されている、愛されているという自信が、黒皇をわがままな甘えん坊にさせる。
もっとも、生真面目な
「ところで早梅さま」
「もう、今度はなんだい!」
「愛しています」
「んなっ……」
「本日は、まだお伝えしていませんでしたから。愛しています、早梅さま」
「わ、わかった、わかったから!」
歯の浮くような台詞をサラッと口にするのが、この烏の恐ろしいところだ。
このまま口づけなんてされようものなら、
「ちょっと
唇を食まれる寸前で、なんとか黒皇のたくましい胸を押し返した早梅は、すかさず言い放った。
「ちゃちゃっと着替えをすませるから、髪を結ってちょうだい!」
熟れた柘榴よりも赤い早梅のほほを目にしたなら、不満げだった黒皇も、口もとをゆるませる。
「それでは、早梅さまによくお似合いになる花をさがしてまいります」
ちゅ、と口の端をかすめるだけの口づけを落とし、黒皇は寝室をあとにした。
「だーかーらー……君ってやつはーっ!」
残された早梅は、悪びれもしない黒皇の愛情表現に、今日もまんまと赤面させられる。
最大限声をひそめて発狂する早梅をよそに、なにも知らない蓮虎が、くぁ……としあわせそうなあくびをもらした。