妊娠中も、適度な運動は必要である。
ひどい
食事の支度をするという
晴風に手を引かれ、えっちらおっちら歩くこと十数分ほど。信じられない光景を目のあたりにした。
風にそよぐ木々、色とりどりの花とたわむれる蝶々。
あたたかい陽気とかぐわしい香りにつつまれた色彩ゆたかな景色が、どこまでもひろがっている。
「すごい、桃源郷みたい……!」
「ははっ、桃源郷か。言い得て妙だねぇ。ここは俺自慢の庭さ。そいで、あっちのほうは果樹園。よく育ってるのは
「『翠桃園』……ですか」
早梅は、晴風が指さした方角を見やる。
晴風の大好物の茘枝をはじめとしたさまざまな果実が栽培されているようだが、とくに目を引くものがあった。
ところ狭しとならんだ、金の葉が繁る立派な苗木だ。
「あっちには、ぜんぶで三千六百本の桃の木がある」
晴風はさらに続ける。
手前にある千二百本は、三千年で熟す。
ちいさな実で、これを食べると不老長生を得られる。
中にある千二百本は、六千年で熟す。
ほどよいおおきさの実で、これを食べると仙人になれる。
奥にある千二百本は、九千年で熟す。
一番おおきな実で、これを食べると天地が続くまで生き永らえることができる。
「いわゆる
あれだけの数の桃の木を、ひとりで世話しているのだ。
なるほど、晴風がなかなか宮にいないわけだ。
「
「あはは……まったく想像がつかないです」
「めちゃくちゃ美味いんだけど、青梅みたいに実がちっこくてなぁ。花の見た目も、桃っていうか梅だよ。
──翠い梅花。
晴風の何気ない言葉が、早梅からにわかに思考を奪う。
「そういや、
「黒皇はそんなことしません」
「冗談だって。すねるなよ、梅梅~」
早梅が押しの強い晴風に圧倒されるのはいつものことだが、このときばかりは、ご機嫌とりにほおずりをされても上の空だった。
(翠い梅花……偶然か? いや)
──この世のすべては必然です。
脳裏に
「てか、黒皇はどこほっつき歩いてんだよ。あんだけ梅梅にくっついてたくせに」
「う……それはその、私のせいです」
「ほう、なんか面白そうなこと企んでんな。どういうことか説明してもらおうか」
「……手づくりの贈り物をしたいんですけど、完成するまで内緒にしたくて」
サプライズプレゼントができないため、それとなく黒皇の添い寝を断るようになった。
それから、多くは訊かずに適度な距離を置いてくれる黒皇がありがたくもあり、申しわけない早梅である。
「ははぁ、なるほどねぇ。あいつも隅に置けねぇな」
にやりとあごをさする晴風の、悪い笑みったら。
変なちょっかいをかけに行き、真顔の黒皇に淡々とあしらわれる未来が見えたが、早梅はあえて口にはしない。
「ばらさないでくださいね」
「わかってるって!」
釘を刺し、「ふくれた顔もかわいいなぁ、梅梅~!」とデレデレなおじいちゃんに、苦笑する早梅だった。