からころと。
宝玉の共鳴する
黒皇はおもむろに片ひざをつくと、左手で袖をおさえ、岸辺から右腕をのばす。
ひろい手のひらが、雫をからめた瑠璃の玉を浅瀬からすくい上げた。
黒皇の欠けた黄金の隻眼が、透きとおる
「
すべての音が、つむがれることはない。
唇を引きむすんだ黒皇は、言葉の代わりに、ついばむような口づけをひとつ、瑠璃の玉へ落とした。
* * *
『
晴風のノリこそ軽いが、スイートルームばかりを取りそろえた高級ホテルを、まるっと貸し出されたようなものである。それも無償で。
これは笑っていいのか、困っていいのか。
「難しいことは抜きにして、くつろいでいいのよ」
早梅の心情を察したかどうかはさだかではないが、
静燕自身も北に宮をもつが、勝手知ったるわが家とばかりに青涼宮に出入りし、縮こまる早梅の肩をほぐしていた。
「『桃花四仙』は、
早梅がすこし考えて思いついた談笑の材料といえば、それくらいだった。
「えぇ。
「元君……風おじいさま以外は、みなさま女性なのですね」
「なんたって
「花の園ということですか? それがどうして、風おじいさまは仙としてお登りに?」
「王母さまが、それはもう気に入っちゃって」
外見的な話だろうか。たしかに
「朱天元君は恥ずかしがりで宮にこもりきりで、逆に白雲元君は、流れ雲のように下界をまわっているの。顔を見られたらいいことがあるかも、くらいに思ってていいわ」
珍獣かなにかだろうか。
冗談めかす静燕が、早梅の正面にまわり、「さぁ、できた」と満足げに
「似合ってるわよ。お花よりきれいなお嬢さんね」
「言いすぎです、燕おばあさま……」
今日も朝一番に、静燕が荷物をかかえて早梅の寝所へやってきた。
手にしていたのは、白にも薄緑にも見える、上下ともに絹の
普段なら腰で帯を締めるが、
現代的にいうなら、ふわりと
淡いミントグリーンとピンクの春色パステルカラーにつつまれて、静燕に櫛で髪を梳かれるなんて。おとぎ話のお姫さまにでもなった気分の早梅だ。
「いよいよ、琵琶を弾けなくなってきたわね」
「そうなんです……刺繍に精を出せということですね」
胸と腹が出てきた。普段の装いではきつくなってきたため、腹を圧迫しない格好へ衣替えをしてくれた静燕には、感謝しかない。
腹が大きくなると、琵琶もつっかえて弾けなくなる。前もって静燕にたのんで用意してもらっていた刺繍道具と、これから仲良しこよしになりそうだ。
「
そんなとき、朗々とした呼びかけがある。扉越しでもよく通る声の主は、晴風だ。
「あら兄さん、女の子はまだ支度中よ」
「おっ
「私になにかご用でしょうか、風おじいさま」
「やー、たいしたことじゃねぇんだけどなー!」
「最近は調子もいいみたいだし、散歩でもしようぜ。いいとこに連れてってやるよ!」