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第74話 瑞花咲けり【中】

「お待ちしておりました。さぁ遠慮はいりません、この胸へおいでなさい」

「ちょっと待て、ばあちゃん」

「あら小風シャオフォン、なんですの?」

「いきなりすぎるだろ。梅梅メイメイが引いてんぞ」


 いきなり熱い抱擁をかましてきたあなたがそれを言うのか、と思ったりもした早梅はやめだが、ややこしいことになりそうなので空気を読んだ。


「ひどいですわ。愛情たっぷりにこの母が抱きしめるのは、道理ですのに」

「お気持ちはわかりますけれど、ごあいさつもまだですからね、王母おばあさま?」

「まぁわたくしとしたことが、うっかりうっかり!」


 晴風チンフォンの言葉にほほをふくらませていた少女が、静燕ジンイェンにたしなめられて飛び上がる。


金王母こんおうぼさま」


 そこではじめて、早梅の後ろに控えていた黒皇ヘイファンが歩み出る。

 黒皇は胸の前で右のこぶしを左手で包み込む拱手きょうしゅによって、少女へ礼を示した。


「うふふ、おかえりなさい、小鳥シャオニャオ。そしてはじめまして、愛らしいお嬢さん。さぁ、こちらへどうぞ」


 黒皇、次いで早梅へと新緑のまなざしを移ろわせた少女は、笑みを浮かべて手を差し出す。

 そこでようやく、晴風が早梅を地面へ下ろしてくれた。行け、ということなのだろうか。


 早梅は差しのべられた少女の手を、ためらいがちに取る。

 早梅よりも低い目線で、少女のまばゆい笑みがはじける。その少女に腕を引かれたかと思えば。


「……えっ?」


 たちまちに目前へせまった石碑を、早梅はすぅ……と透過していた。


(通り抜けた? なんで? どうやって?)


 いまだ理解をなさない早梅の頭上に、晴風の声が降る。


「この石碑こそ。ばあちゃんがゆるしたやつしか、通ることはできねぇ」

「入り口って……えっ!」

瓏池ろうちがあるのは金玲山こんれいざんの麓さ。いいかい梅梅、よく聞きな。天上天下てんじょうてんげ三界十方さんかいじっぽう、仙として登った女子は、例外なくみな金瓏聖母こんろうせいぼ──金王母元君こんおうぼげんくんのあずかりとなる」

「妾はここ金玲山に住まう、すべての母です」


 早梅よりも見目の若い可憐な美少女が、金玲山のあるじ。悠久の時を生きる聖母にして、女神。


「そなたはみずからの足でこの地を踏み、道を得ました。歓迎いたしますわ。ぜひ『王母おばあさま』とお呼びになって?」


 女仙にょせんを統べる女王に認められること、それはすなわち。

 仙として天へ召し上げられる、ということだ。

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