ならば晴風が父と、
(あぁ……そう言われてみれば、彼女はお母さまとよく似ている)
「家族の力になりたいと思うのは、当然のことよ」
そうして静燕にやさしくほほ笑みかけられたなら、早梅はもう、たまらなかった。
おのれの腕から抜け出す早梅を、
早梅はなだれ込むように、静燕へ抱きついた。
「どうしたらいいのか、わからなかったんです……っ!」
こころのこわばりをほどかれ、顔をのぞかせるのは、早梅が人知れず苦悩していた葛藤。
「
それだのに、飛龍は尊いいのちを奪った残酷な手で、早梅を愛撫していた。
そうだ、たしかに飛龍に愛されていた。あれは本能のままに食い散らかす、愛執なのだ。
「飛龍の血を引いた子を、愛せる自信がない……むしろ、嫌悪のあまりこの手にかけてしまうのではないか……それが、恐ろしくて……っ」
桃英も桜雨も、望まぬ婚姻だった。
ふたりも、こうして苦悩したのだろうか。
望まぬいのちを宿した未来に、絶望して。
(でも、お父さまもお母さまも、私を愛してくれた……)
葛藤を乗り越え、
「飛龍が憎い……だけど、この子には、なんの罪もないんです……」
懐妊がわかったとき、早梅は死のうとしていた。
考えるより先に、からだが動いていた。
取り乱していたのだ。正常な判断ができる精神状態ではなかった。
だが黒皇に引きとめられ、
毎日欠かさず腹をなでる自分に、気がついた。
「愛しく思うのは当たり前よ。あなたのこどもでもあるでしょう?」
小刻みにふるえる早梅の肩を抱き、静燕が腕を回す。
子を想う、母のぬくもりが、早梅にじんわりと伝わった。
「梅雪ちゃん、『なにが正しいのか』がわからなくなったら、『自分らしくいられる』選択をすればいいのよ」
「私、らしく……?」
「そう、後悔しないように。自分のこころにも、うそはついちゃ駄目よ?」
静燕は明確な答えを示すことはしない。
しかしながら、それは早梅にとっての指標となる。
飛龍とのこどもを、生むか否か。
(ごめんなさい、お父さま、お母さま……
たとえそれが、ゆるされぬことだとしても。
「私は──この子を、愛したいです」
心は、決まった。
だって、母なのだから。