「
「私に? なぜでしょうか?」
「素敵な琵琶を聴かせてもらいましたから。
「ほめ言葉としてお受けいたします」
「んま! 言うようになったじゃない」
突然向けられた矛先に、黒皇はいつものごとく、淡々と返答する。おそらく言葉どおりの意味で、含みはないだろう。
この
(これは、なんの罰だろうか……)
黒皇に抱きしめられるならば大歓迎の早梅ではあったが、このときばかりは羞恥に身を縮める。
静燕を前にしてなお、黒皇はひざに乗せた早梅を後ろから抱擁し、離そうとしないのだ。
早梅の腹のあたりで巻きついた腕の力は苦しくはなく、かといって簡単にほどけるものでもない。
黒皇はこのところ、「おからだを冷やしてはいけません」と、
そういうことではないのだが、静燕のほほ笑ましげな瑠璃のまなざしに気づき、早梅はかぁっとからだの芯から火照る。
ある意味、黒皇の思惑どおりだ。
(
黒皇が連れてきたから?
それだけの理由で、人の子でしかない早梅に、仙人のなかでも高い地位を築く
「あなたの琵琶を聴いていたら、なんだか、むかしを思い出しちゃって」
ふいの静寂。墜ちることのない陽光に水面が煌めき、からころと、宝玉のこすれ合う音がひびく。
遠い彼方へ想いをはせる静燕の横顔を、早梅はそっと見やる。
「『
「その兄妹の名前は、『晴風』と『静燕』というのかしら?」
「……はい」
いつの間にか、静燕の瑠璃のまなざしは、早梅へ向けられている。
「梅雪ちゃん、あなたが考えていることは正しいわ。私と
静燕はすべてを見透かしていた。その上で、決定的な言葉をつむぐのだ。
「それは真実の愛の物語。そしておとぎ話などではなく、本当の物語でもあるわ」