「
「あの、お嬢さま」
「だっこ!」
これには、さすがの黒皇も頭をかかえた。
(……愛らしすぎでは?)
残念なことに、着目すべき点はそこではない。
が、それに黒皇が気づくことはないだろう。
「あのさぁ、黒皇」
「はい、お嬢さま」
「『
「はい。え……あ」
──
──
──
──
黒皇に、
けれど黒皇の慈しみのこころが、
それが結果として早梅の体内の気を高め、生命力となったのだ。
「黒皇の想いが伝わってきたの。あったかかった。ありがとう、黒皇」
黒皇は込み上げてきた熱を、形容できる言葉が見つからない。せめてもと、早梅を抱き上げる。
早梅をひざに乗せたそばから、黒皇の首へ、細腕が回された。
「君は私のおひさまだね。ぽかぽかだぁ」
すっかり
「
「わわっ、くるしいよぉ」
黒皇の胸にうもれ、困ったように眉を下げる早梅だが、まんざらでもなく。
「たくさん心配かけてごめんね」
「どうってことはありません」
「私やっぱり、黒皇がいないと駄目みたいだからさ……ぎゅってして、なでなでしてほしいかなぁって」
「いくらでも。お嬢さまがお望みでなくても、黒皇はぎゅってして、なでなでしたいと思っていますから」
「食い気味。こりゃ末期かね」
「お嬢さまだけです」
「とんだ殺し文句だ。いいだろう、
「では、遠慮なく。なでなで」
「……うわぁああ、へいふぁああんん!」
瞬殺だった。黒皇の手にかかれば、早梅なんぞイチコロである。
「ふふっ……」
黒皇はなんだか可笑しくなってきて、おのずとほほがゆるんだ。黄金の隻眼を細めて、ほほ笑む。
対して、なにが起きたのか、早梅はすぐには理解できない。
「黒皇がわらった……っ!?」
「黒皇も生きているので、わらいもします」
「真顔で言うことじゃなくない!? もう一回! もう一回だけさっきのちょうだい、黒皇!」
「任意でわらうのは苦手です」
「がんばれ黒皇! 負けるな黒皇の表情筋!」
「黒皇はなにと闘ってるんですか」
平静をよそおっていたが、黒皇は内心、わらいだしたくてたまらなかった。
くるくると変わる早梅の表情が、あんなにも切望した笑みが、目の前にあるのだ。
(黒皇のだいすきな、お嬢さまのえがおです)
気を抜くとだらしない顔になってしまうだろうから、すまし顔を張りつけようとする黒皇だけれど。
「ようし黒皇、私とにらめっこ対決だ」
唐突すぎる早梅の言葉は、完全なる不意うちだった。
額と額をくっつけて、一瞬の沈黙。
それからどちらともなく、吹き出した。
嗚呼。
ささいなやり取りのひとつひとつが、こんなにも愛おしいことを、早梅も、黒皇も、やっと思い出せた。