腕で早梅の背を支え、具合を問う
早梅はもう十日以上ろくに食べていない。このままでは、衰弱することが目に見えている。
「
懇願する黒皇に、薄い笑みを返した早梅は、かすれた声でつぶやいた。
「……
「ございます。
黒皇は赤いうろこ状の表面に爪で切り込みを入れ、軸が残らないよう薄皮をきれいに剥く。
中にある種も取りのぞき、早梅の口もとへ添えた。
ぷるりとした白い半透明の果肉を口唇ではさむ早梅だが、咀嚼までには至らない。
瑠璃の瞳は焦点が合わず、意識が朦朧としているようだった。
もう、手段をえらんではいられなかった。
黒皇は
早梅の下唇を親指の腹で指圧すれば、すきまから赤い舌がのぞいた。
黒皇はすかさずおのれの唇でふさぎ、瑞々しい果肉を、舌先で早梅の口内へ押し込む。
「んっ……んぅ」
早梅が茘枝を噛んだら、顔を離す。
早梅がゆっくりと咀嚼し、白い喉が上下したことを確認して、黒皇はまたひとつ茘枝を口にふくむ。
早梅の唇をそっとついばみ、ふれあいをくり返すほど、黒皇の胸に想いがあふれゆく。
(梅雪お嬢さま……おねがいです、どうか)
どうか、はやくお元気になってください。
えがおが、見たいです。
黒皇はただその一心で、梅の実よりちいさな果肉をさらに噛みちぎり、口うつしで早梅へ食べさせ続けた。
「……もう、おなかいっぱいだよ」
そんなとき、ふいに奏でられたのは、鈴の声音だったろうか。
茘枝へふれた黒皇の手に、ちいさな手がかさねられた。
「黒皇ってば、過保護なんだから。もう……」
目下に、ほんのりほほを朱に染めて、気恥ずかしげにうつむく早梅の姿がある。
黒皇はつかの間、思考を停止する。
「……青風真君の茘枝は、想像を絶するものでした」
「なんで?」
「お嬢さまが、たちまちに元気になられて……」
「だから、なんでそうなるんだい。いやまぁ、茘枝は甘くておいしかったけれども」
噛み合っているようで、噛み合っていない会話が交わされる。
なんともいえない空気に先にしびれを切らしたのは、早梅だった。
「黒皇のばか!」
「……
「ほら無自覚じゃない、このにぶちんめ!」
どうやら、早梅に悪口を言われているらしい。
そっちの語彙がすくない早梅のため、なにやらお嬢さまがかわいらしいことを言ってるなぁ、くらいにしか、黒皇は思わないのだが。