まぼろしの霊山とされる
水底には、色とりどりの無数の宝玉。
霊力のこもったそれらがこすれ合い、溶けだして、澄みきった透明な霊水を生み出す。
目をみはるほど美しいその光景が、
晴風は仕事もそこそこに、特に用もなくやってきては、腕によりをかけて育てた
そんな晴風の日常に、ひとりの少女がやってきた。
正確には、ずいぶんと大昔に行方知れずとなっていた
少女の全身真っ白な
だれか、たいせつな人を亡くしたのだろう。
友も、太陽のようだった黄金の瞳を、ひとつ失くしていた。
だが、なにがあったのかと無遠慮にたずねるほど、晴風は馬鹿ではない。
「突然の訪問、申し訳ございません。お邪魔はいたしません。どうかわたくしのことは、いないものとしてお考えくださいませ、
少女は
梅雪の言葉は、晴風を「うぅん……」とうならせる。
気軽に
晴風はちょっとと言わず、さびしい気がした。
そもそも、梅雪を前にすると妙に胸がざわつくのは、なぜだろうか。
たしかに、彼女の翡翠の髪と瑠璃の瞳は、自分とよく似ているけれども。
(放っておけねぇ
漠然とした感情の理由がわからないまま、晴風は瓏池をおとずれる。
明くる日も明くる日も、梅雪は鈴の音がひびく池のほとりで、白い琵琶を奏でていた。
白い服を身にまとい、喪に服す早梅がつむぐ旋律は、鎮魂歌のようだった。
その光景を、晴風は離れた木の幹にもたれ、ながめる。
(大方、弱った娘さんの養生のために連れてきたんだろう。
そう推測する晴風だったが、予想外の展開をむかえる。
清浄な霊力と神力に満たされた金玲山にあって、梅雪の容態は、日に日に悪化していったのだ。
もともと、梅雪が食事をしているようなそぶりはなかった。
そんな中、琵琶を演奏していた梅雪が、突然からだを折って嘔吐した。
(あぁ、そういうことか……くそ)
唐突に腑に落ちる。なにもかも。
翡翠の髪を掻き回した晴風は、どうにもたまらなくなって、駆け出していた。
「ちょっと顔貸せ、黒皇」
晴風がそうとだけ言えば、梅雪を抱きとめた黒皇の意識が、こちらへ向く。
晴風は瑠璃のまなざしを落とし、ぐったりと意識のない梅雪の額、ほほへと相次いで手のひらをふれあわせる。
「おまえじゃねぇとは思うが」
そして白い衣越しに、梅雪の下腹部へとふれた。
「この
晴風の決定的なひと言に、顔をゆがめる黒皇。
それは悪夢が現実となったような、絶望の面持ちだった。