かなしいやら、腹が立つやら、安心やらで、ぐちゃぐちゃに泣きべそをかいていたら、いつの間にか胡座をかいた
脳天に顎をのせられ、長い両腕をしっかりと巻きつけられているため、逃げられそうもない。
「……立派な翼だね」
「烏ですので。空を飛べる程度には立派です」
「……足が一本足りなくない?」
「仕舞っております。二本で充分です」
「足って収納できるものなんだ……」
「獣人族のみなさまの耳やしっぽだって、出したり引っ込めたりできるではありませんか」
「言われてみれば」
「はい。ですので翼も引っ込みます」
早梅はそのへんに放っておいた疑問を、あらためてぶつけてみた。
すると見目のととのった
これにて早梅の照れ隠しは、不発に終わる。
折りたたんだ翼はいずこに。手品か。
黒皇の応答の口調は淡々としていても、くり返し早梅の背をなでるやさしい仕草は、慈愛の情を隠しきれていなかった。
ずっと昔に転んで泣いてしまったとき、父も──
「ねぇ、黒皇」
早梅は黒皇のたくましい胸もとから、顔を上げる。
腕の力をゆるめた黒皇は、わずかに首をかしげ、上目遣う瑠璃のきらめきをじっと見つめ返した。
「痛かったでしょう。ごめんね」
早梅の白魚のごとき指が、赤黒い血のにじむ包帯の上から黒皇の右のまぶたへふれようとして、きゅっとこぶしをつくる。
「おひさまみたいに、きれいな黄金の瞳だったのに」
「ひとつで充分です。太陽が多すぎても、困るでしょうから」
「そういうものかな?」
「そういうものです」
黒皇の言い回しは、いつも独特だ。
「片眼をうしなっても、
──お嬢さまのせいではありません。
深いひびきをもった声音は、そう断言している。
宙に浮いたままの早梅のこぶしが、大きな手のひらに包み込まれる。
指の稜線をなでる親指の動きにこわばりをほどかれ、花ひらいた早梅の手に、黒皇の右のほほがすり寄せられた。
日向ぼっこが好きなこの烏は、羽毛をなでてやると、よくおひさまのにおいをさせながらすり寄ってきたなぁ、と早梅は胸がこそばゆくなる。
「ありがとう……黒皇」
たったのひと言では伝えきれないから、両腕をめいっぱいに伸ばした抱擁を交わして、早梅はからだを離した。