さて、俺たちの順番までもう少しだ
あてがわれた部屋から廊下に出て、女王様の寝室を目指す
その時悲鳴が聞こえた
この声は間違いなく女王様のものだ!
すぐに走って部屋の前に来ると、何やらすごい魔物を倒したと言われていた少女マナが、両腕を斬り落とされ、地面に倒れて腕がなくなったことに絶望し、泣き叫んでいた
その横にはガーディが短刀を構えて敵と対峙している
「来てくれましたかカズマさん! マナさんを連れて下がっててください!」
「あ、ああ」
俺は彼女の腕を二本とも拾って下がる
そして彼女の切断された腕を引っ付け、薬を飲ませた
「あ、ああ、私の手が」
「しばらく安静にしてて。引っ付いてすぐは多分痛みで動かせないから」
「ありがとうございます!」
ひとまず戦闘不能になった彼女を置いて俺たちはガーディの援護にまわった
かなり名の知れたマナという少女の腕をおとした相手だ
俺では敵わないに違いないが・・・
少女を傷つけるのは許せない
俺はフーッと息を吐いて剣を構える
ファンファンも大剣を、アネモネは手斧を構えた
ちなみにこの手斧、魔法発動装置としても利用できる、いわば杖斧だ
相手を見る
顔を仮面で隠し正体は男か女かもわからないが、この前女王を襲った暗殺者と同じ紋様の入ったフードを被っている
恐らく同じ組織の暗殺者なのだろう
それも相当に実力の高い者
「短剣術、霧季鮫!」
ガーディが先に動いた
あれほど緊張していた彼だったが、誰かを守るために本領を発揮できるんだろう
初見と打って変わっていい動きだ
「レヴォロ」
だが暗殺者のナイフから黒い靄が飛び出し、ガーディはそれに包まれ喉を抑えて倒れた
「毒霧!?」
俺たちは口元を布で覆う
「リヴァロ」
今度はナイフから赤い靄が飛び出し、それが大きな鎌となって襲い掛かって来た
必死で避け、ファンファンがそれを受け止める
「大剣術奥義、金剛木っ端!」
間合いを詰め、縦に大剣を振り下ろす
これは捕らえた!
地面がえぐれたことによる煙が晴れ、相手の姿が見えたが、仮面が割れただけだ
その仮面の下の顔は、顔の皮がなかった
身元を確認できないようにしているのか?
思わず吐きそうになる
「カノニア」
暗殺者はすぐに体勢を立て直してナイフをファンファンに向ける
今度は青い靄が飛び出し、大あごとなってファンファンの腕に噛みついた
「ぐあ!」
血が吹き出る
俺は剣を振ってその大あごを切り裂いた
「な!?」
暗殺者が少し驚いたような顔?をして後ろに飛びのいた
「なぜこれが斬れる? 魔法で作り出したものは普通の剣では切れん」
しゃがれ声だ
恐らく喉も潰しているのだろう
聞き取るのがやっとだ
「さあね。俺が打ったなまくらでも斬れるんだから、あんたの魔法がへなちょこだってことだろ」
こっちにヘイトを向けるために挑発してみた
「クソが!」
うまく誘いに乗ってくれ、俺の方に注視している隙を突きアネモネが動いた
「ファティマ!」
アネモネの作り出した魔法によって不意を突かれた暗殺者はまともにそれを受けて倒れた
「ありがとうアネモネ、助かったよ」
暗殺者は動かなくなる
恐る恐る近づくと、突然胸を押さえて苦しみ始め、だんだんと体が溶けて、暗殺者はドロドロになって地面のシミになってしまった
情報を漏らさないための処置だろう
徹底している・・・
「ガーディさん!」
俺は彼に薬を飲ませる
猛毒だったため呼吸が止まりかけていたが、なんとか飲み下してくれたおかげで呼吸が戻った
「あ、ありがとうございますカズマさんあなたがいなかったら」
「仲間なんだから当然です」
「おおおい!何があった! 大丈夫か?」
そこにダンたちが走って来た
どうやら悲鳴を聞いて駆けつけてくれたらしい
一足遅かったが、やはり彼は頼りになるな
合流し、すぐに女王様の様子を確認
取り乱してはいるものの、傷もなく無事だった
ひとまずは安心だが、こうも探知魔法をかいくぐられると、魔法を仕掛けている意味がないな
暗殺集団の本拠地を叩くか、侵入できないようにするしかない
本拠地は、暗殺者がドロドロで証拠が残っていないし、侵入できないようにしようにも、そこまで強力な魔法を使える魔法使いなんか・・・
ふとアネモネが視界に入った
「アネモネ、もしかして探知魔法って」
「使えますよ。ここにかかっていたものよりもさらに強力なものが」
「おお、じゃあやってくれるか?」
「もちろんですとも旦那様」
彼女のおかげでひとまずは安心だろう
取りあえずここの所眠れていない女王様のために何かできないかな?