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第85話

 歓声がけたたましく鳴り響く

 耳が痛いほどに

 はぁ、なんで俺こんなとこに立ってるんだよ・・・

 俺は木剣を腰にぶら下げて相手を見る

「でかいな・・・」

 相手は身長2メートルはある

 熊だ。熊でしかない

 たとえ真剣を持っていたとしても対峙したくないヤバい相手だ

「さて、どんな力を見せてくれるんだ? おチビちゃんよ」

「アハハハ・・・。あの、棄権は」

「それでも男か!?」

 くそ、一応試合前にありったけの薬を飲んできた

 ドーピング? 知らん! そんなルールここにはない

 相手はSランクの凄腕

 だがよく思い出してみろ、俺が立ち向かってきた相手は、彼の比じゃないほどに怖かった

 あれに比べれば、そうだ。怖くない

「まあ胸を借りさせてもらいます」

「ふん、一撃で決める」

 俺だって鍛錬は、一応怠ってはない

 合間を見ては剣を振るったし、魔物も倒した

 技術も上がっているはずなんだ

「試合開始!」

 審判の声と共に試合が始まり、直後吹っ飛ばされて俺は意識を失った

「なんだ、てんで弱いじゃねぇか」

 意識を失う前に二つの声が聞こえた

 一つは相手のもの、もう一つは・・・

「はぁ、なぜ自分の力を使わぬ」


 イクサスキル発動

 タケミカヅチ


 急に目の前の、俺がぶっ飛ばしたはずの小柄な男が・・・

 あり得ない、あれをまともに食らって立つはずがない

 カズマとかいう男はバチバチと雷を体にまとっている

「ふっはぁ! 戦い戦い! たぎるたぎる!」

 カズマは剣を構えた

 見たことのない構えだ

「おいお前、俺を楽しませれるほどの実力はあるか?」

「楽しむ? 雑魚の癖に粋がってんじゃねぇ!!」

 何だこの違和感

 さっきまで全く力のないひ弱な男だった。軟弱な男だった

 それが今は歴戦の風格を持っている

 その力がどんどん膨れ上がって行った

「カグライカズチ」

「なっ!? 消えた?」

 視界からカズマの姿が消える

「遅い」

 後ろから声がし、俺はすぐに剣で後ろをガードした

「良いぞ、反応はなかなかだ」

 振り返るがすでに姿はなく、慌ててまた後ろをガードした

「ふむ、お主研鑽を積んでおるようだな。では少しだけ力を解放しよう。イナズマ」

 バチィと激しい音が響いた

「この! 馬鹿に住んじゃねぇ! アースブレイク!!」

 これは斧スキルだが、俺ほどになれば剣でも使える

 地面を穿って周囲を巻き込む衝撃波を発生させる技

 だが無駄だった

「雷脚」

 腹部を思いっきり蹴られ、俺は痛みを感じる暇もなく壁に叩きつけられ、どうやらそのまま意識を失った


 気が付くと歓声がひときわ大きく鳴っていた

「あれ? なんだこれ?」

 俺は吹っ飛ばされたと思ったんだが? なんで相手の方が壁にべちゃりとぶつかって気絶してるんだ?

 少し考え、結論に至る

 そうか、突進してきたが、勢い余って転んで壁にぶつかり、気絶したのか

 運がいいな俺は

「ハ、アハハ、あの、相手も動けないみたいですし、俺、宿に帰りますね?」

 そして俺は逃げるようにして闘技場を後にした

 なんかいろんな人が追って来たが、ファンファンとアネモネと合流し、スタコラと逃げたのだった


 翌日、俺の前にあのダンという熊獣人が土下座のようにして謝り倒していた

「すまなかった。まさかあんたがあそこまで強いとは思わなかった」

「よしてくれ、俺は強くない。あの時はたまたま」

「たまたまなものか! 一瞬だったんだからな」

 困ったもんだ。自滅を俺の実力だと勘違いしているらしい

 まあこれで絡まれたりしなくなるのはいいか

「ともかく、これからは共に女王様を守る仲間なんだから、仲良くやろう」

「ああ! あんた確かカズマとかいう名前だったな。これが終わったら俺たちのパーティーに入ってくれないか?」

「遠慮しておく」

「ははは! そうかそうだな。そんな可愛らしい嫁たちがいるんだもんな!」

 豪快に笑うがこの子達は嫁じゃなくて娘、なんだよなぁ

「それじゃあ俺は先に城に行ってるから、後で合流しようぜ」

「ああ」

 ともかくあの熊獣人ダンとも和解できたし、俺も用意して城に行くかな

 ちなみにファンファンはまだ寝てる

 こいつよく寝るからなぁ


 用意を終えてすぐ城へ向かう

 門兵にあっさりと通され、俺は大臣のいる部屋へと通された

 すでに俺意外全員揃っている

「おお、これで揃いましたな。わしは大臣のオズワルド。女王様の先々代から仕えておる。まあ大臣と言っても女王様のじぃみたいなものじゃ。立場は気にせんでくれ」

 オズワルドさんはナマケモノの獣人のようだ

 長く力強い爪がしわくちゃの指に伸びている

「こちらにおわすのが女王ラフィナ様じゃ」

「み、皆さん、この度はわたし、わたくしを守りに来てくださってありがとうございます」

 緊張しているようだ

 まあ知らないメンツに囲まれているからな

 オズワルドさんが護衛の任について説明してくれ、俺たちはその通りに持ち場についた

 一応交代制で、最初はダンたちワイルドハウンドが受け持つ

 次がガーディとマナの二人

 二人共まだ若いが、中々に風格が・・・

 あ、ガーディは緊張してるな。足が震えてたわ

 そして最後は俺たち

 ファンファンは起きなかったから置いてきたが、夜に俺たちの出番だからちょうどよかったな


 半日後、ガーディたちから護衛を引き継いで女王の部屋の前へ来た

 女王は既に就寝しているらしく、部屋の中から物音はしない

 件の暗殺者のこともあったので、さらに強力な感知魔法を仕掛けているらしい

 悪意のある者や、女王の命を狙う者を感知して警報が鳴るようだ

「ふわぁ」

「大丈夫かファンファン?」

「大丈夫! しっかり寝たからな!」

 元気よくうなづくファンファン

 心強いな

 まあ先の二組が何事もなかったんだから、今夜は大丈夫だろう

 かといって油断はしない


 それから数時間経ったが、警報も鳴らず、アネモネの気配察知から女王も無事だと分かっている

 こりゃ本当に今日は何事もないのかもな

 そう思っていた矢先にアネモネの気配察知に引っかかる何者か

「主様、何かがいます」

「警報はなってないが?」

「恐らく相当な実力者です。これに引っかからないのですから」

 アネモネはアルクさんとの修行でSランクと言ってもおかしくないほどに魔法の腕が上がっている

 その彼女が言うんだから誰か侵入してきているんだろう

 すぐに部屋に入ると、黒い影がごそごそと動いているのが見えた

 女王はまだ少女だ。怖がらせないためにも薬で気配を完全に消して陰に近づく

 アネモネの防音魔法のおかげで声も漏れない

 その何者かを捕まえると、ムニッと柔らかい感触がした

「ヤン、なんだカズマ。そんなにわしと、フフ、いいぞお前なら」

「アルクさん、何してんですかこんなとこで」

「わしか? わしは単独で王兄のことを探っておってな。女王の部屋にも何かないか調べておった。夜の方が調べやすいからの」

「はぁ、今の状況分かってます? 犯人にされちゃいますよ」

「む、それはいかん」

「取りあえず後日俺の仲間として紹介しますから、堂々と調べてください」

「おおそれは助かる! わしは今回この依頼に応募してないからな」

 結局この日は不法侵入いしたアルクさん以外何も来なかった

「もしかして護衛がいることが漏れておるんじゃないか? いやまぁ狙ってるのが王兄ならば漏れていてもおかしくないが」

「それが、今王兄はこの国にいないらしいです。護衛何人かを連れて鬼人の国に行っているとかで」

「ふむ、その情報はわしも知らなんだ」

「大臣が教えてくれたんです」

「なるほど鬼人の国、キガシマか。あそこなら、ふむ・・・。悪いがカズマよ。わしは護衛につけん。キガシマに行ってくる」

「分かりました。気を付けて」

「うむ」

 知り合ってそこまでたっていないが、なぜか心許せる存在のアルクさん

 彼女なら恐らく大丈夫だろうけど、なぜか俺には不安が付きまとったんだ


 そして翌日、また夜に交代した俺たちは、女王の部屋の前で護衛の任についた

 ファンファンの目はギンギンと輝き、いかなる危険も排除してやろうという気概が見受けられた


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