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第82話

 ビスティアに到着したが、この国は獣王国だけあって行き交う人々ほとんどが獣人だった

 まあ人間族や他種族もちらほら見るが、圧倒的に少ない

 鬼人に見えるファンファンが珍しいのか、かなり見られてるな

 人間族である俺はそこまで珍しくないようだ

 アネモネはまあ見るからに牛型の獣人だからな、かなり溶け込んでる

「俺、別の国に来るなんて初めてだ」

「私もですよ」

「そんなの俺だって」

 全員が初体験である

 街並みはシュエリアと変わらないな

 文化的に見てもそこまでの違いはなさそうだ

「あ! 屋台があるぞ!」

「そう言えば腹が減ったな。なんか食べるか」

「うん!」

 二人を連れて屋台へ行く

 大きな街なら屋台で食物や雑貨なんかを売ってたりするんだが、ここは食べ歩きできるような串焼き系の屋台が多いようだ

 肉串以外にも、野菜しか食べれない獣人にも配慮されていて、野菜スティックなんかも売っている

 ファンファンは肉串、アネモネは野菜スティックを涎を垂らして見ていた

 いくつかを買い、それぞれに渡す

「ファンファン、野菜食べるか?」

「食べる!」

 ファンファンには好き嫌いはないらしい

 元ゴブリンであるため、好き嫌いしていては生き残れなかったんだろうな

 俺たちはあっという間に全てを食べつくした

「さて、もう女王様も到着したころだろう・・・。これからどうしよう」

 勢いで来てしまったから、その後のことを考えていなかった

 いきなり城に行って女王様を守りに来ました、なんて言っても取り合ってもらえないだろう

「何じゃお前ら、奇遇じゃな」

「あなたは!」

 突如声がした方を見ると、アルクさんがふんぞり返るようにして立っていた

「お主の善性は聞き及んでおる。わしも丁度この国に用があったから、もしかしたら会うかもしれんと思っておったが、まさか本当に女王を守りに来たのか? なんのアポも取らずに? お人好しなところは好きじゃが、少し阿呆じゃのぉ」

「は、はぁ、返す言葉もないです」

 アルクさんの言う通りだ。困ってるから見過ごせないって勢いで、何もできないじゃないかこれじゃあ

「まあ任せろ。要はあのお嬢さんを守れればいいんじゃろ? ギルドに行ってみろ。さっき街の者から彼女の護衛を募集していると話が聞こえて来た」

「なるほど、ギルド! ありがとうございますアルクさん!」

「ちっとは情報収集もせい」

「はい!」

 アルクさんと別れ、俺はギルドへ走る

 ・・・

 ギルドどこだ?


 しばらく街を探索していると、冒険者らしき装いの一団が見えたので、そこへ向かう

 案の定ギルドがあった

「やっと見つけた」

「旦那様、普通に街の人達に聞けばよろしかったのでは?」

「あ・・・」

 こりゃアルクさんに阿呆と言われても仕方ない

 とんだ間抜けだ俺は

 ギルドに入るとすでにかなりの数の冒険者がいた

 まあ彼らが全員女王様の護衛をかって出ているとは思えない

 冒険者でも名の知れていて、人格者でなければ恐らく雇用はしないだろう

 俺はと言うと、隣国とはいえ異国から来た得体のしれない男だ

 まぁ、当たって砕けてみるか

 砕けた場合は別の手を考えよう

 俺は受付に行き、女王様の護衛を引き受けたい旨を伝え、ギルドカードを提示した

「あなたは、シュエリア王国の方ですね? ランクは、Fランクの最下位・・・。失礼ですがそれではあまりにも心もとなく」

「待ちなさいメレー。ここよく見なさい!」

 俺を受けてくれた受付嬢の後ろから、先輩受付嬢と思われる垂れ型の犬耳の女性が声をかけた

「ほら、シュエリア王のしるしがあるでしょう。この方は国が認めた冒険者と言うことよ。国に多大な貢献をしたということだわ。あなた一体何をしたの? Fランクでこのしるしは今まで見たことないわ」

 なんだそれ、いつの間に・・・

「いや、その、大したことじゃないんですけど、シュエリアでゴブリンとオークの襲撃があった時、錬金や鍛冶で作ったものを提供したくらいですね」

「それだけ? 本当に?」

「ええはい」

「おかしいわね、その程度じゃこれは押されないはずなんだけど・・・。まあいいわ。あなたがこのしるしを持っているということは大臣からの依頼を受けるに値するってこと。ほらメレー、受付しっかりしなさい」

「は、はい先輩!」

 メレーと呼ばれた羊獣人の少女が、依頼書にハンコを押し、俺に渡してくれた

「他にも何人かが護衛に着くことになっています。先に城へ行って待っていてくださいね」


 依頼を受けた俺は外で待っていたファンファンとアネモネの元へ戻った

 すると、二人は冒険者の男たちに絡まれていた

 いや、あれはナンパされているのか

「ですから人を待っているので無理なんです」

「しつこいとぶっ飛ばすぞ」

「まぁまぁそう言わずに」

 男の一人がそう言い終わった瞬間ファンファンに顎を殴られ吹っ飛んでいった

 そして間髪入れず、その他の男も、まるで歴戦のボクサーのように次々と殴り飛ばしていく

「ふむ、弱いな。旦那様の方がよっぽど強い」

「ファ、ファンファンさん。あまり人を殴らないように」

「でもこいつらしつこ鬱陶しいぞ。女の子にしつこい男は殴ってもいいってアルクが言ってた」

「あの人、何を教えてるんだ・・・」

 取りあえず騒ぎになりそうだったので走った

 目的地は、あのひときわ大きく見えている美しい城だ

 真っ白で、日に照らされて輝いている

 どうやらこの国の観光名所でもあるらしい

 ファンファンもウキウキしながら俺の後をついてきた

 さて、女王様はあの時少ししか見えなかったから、どんな方なのかは分からない

 聞くところによるとおしとやかな姫らしい姫だとか

 取りあえず緊張はしているな


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