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第80話

 翌朝目が覚めた俺は大慌てで起きあがった

 周りを見ると騎士団の人達はレナを含めて全員眠っている

「お、おい! 起きてくれレナ!」

 すぐにレナの頬をペチペチと叩いて起こす

「ふぇ? カジュマしゃん。おはようごじゃいます」

「寝ぼけてないで! もう朝だから! 王女様! 王女様は無事なのか!?」

「ふあああああああああ!! なんで!? 何で寝てたんですか私! それに、あれ? 他の騎士団員まで」

 涎を拭き取りつつ状況確認をするレナ

 そして、俺と同時に異変に気がついた

「こいつ、誰だ?」

「いかにもにいかにもな恰好をしてますねぇ。これは取り調べる必要が・・・。なんで縛られて気を失ってるんでしょう?」

 そんなことを言い合っていると、塔の上から声が聞こえた

「すまない! どうやら集団で催眠魔法にかかっていたようだ。対策をしていたはずが、相当の使い手がいるようだぞ。女王様は無事だが、警戒してくれ」

「それがその! ここに怪しい人が縛られてて、なんか気絶してます」

「なんか気絶してる? 団長か副団長は?」

「あ、今来ました!」

 いそいそと走ってくるハール団長

 到着した彼に事情を説明する

「なるほど、対策していた結界を無視できるほど強力な催眠魔法を使われ、あわや女王様を攫われるかもしれない。そんな時に、見知らぬ誰かが女王様を救い、襲撃犯まで捕まえてくれたと。確かに女王様は攫われかけたとの証言をされているからな。分かった。とりあえずその襲撃犯の身柄はこちらで預かろう」

 縛られていまだ目を覚まさない襲撃犯のフードを取ると、若い男だった

 特に特徴もなく、集団に紛れれば分からなくなるような顔だ

「アサシンらしいアサシンと言ったところだな。おい起きろ」

 団長が気付けの魔法をかけると、男は目を覚ました

「ぐう、お、くそ、俺は失敗したのか」

 男はそれだけ言うと、ニヤリとこちらに笑いかけ、そのまま突然倒れた

「な!?」

 団長がすぐに起こすが、男はすでにこと切れていた

「即死魔法を仕掛けていたのか・・・。恐らく失敗が引き金となるようにしていたんだろうな」

「そんな危険そうな魔法もあるんですか?」

「ああ、あまり知られてはいないが、こういう風にアサシンが使う場合も多い。闇魔法と呼ばれることもあるんだ」

「だったらなぜその魔法で女王様を襲わなかったんでしょう? 暗殺が目的ならそれですんでいたはずなのに」

「誘拐しようとしたんだ。何か聞きだすことがあったかあるいわ」

 ともかく女王様の警備はさらに厳しくなるだろうな」

「すまないカズマさん。もうしばらく警備を続けてくれないだろうか?」

「え、ええ、俺で良ければ」

 これも乗り掛かった舟だ。最後まで付き合おう


 数時間後

「やはり彼が」

「はい、ですがこれは」

「なぜ女性に?」

「分かりませんし、こんな魔法見たこともありません。それに、彼はこの時の記憶を持っていないようです」

「・・・、謎だ。まるでここに写るカズマさんはカズマさんではないようだな」

「確かに」

 女王様の安全のために、塔付近にはいくつもの監視用アイテムを仕掛けておいたんだが、思わぬ映像を捉えていた

 カズマさんが眠ったかと思うと突如起きあがり、優雅な女性のしぐさで体を完全に女性に変化させ、攫われんとする女王様を颯爽と救い出した姿だ

 襲撃犯を縛り、そのまま眠りについたカズマさん

 本人はこの出来事はまるで覚えていないだろう

 まるで彼ではない誰かが、彼の体を使っているかのように

 彼は二重人格、なのだろうか?

 いや、そうなれば彼のこの性別を変える訳の分からない魔法の説明がつかない

 それに、以前の彼の力の目撃証言の中に、性別が変わったなどという証言はなかった

 まあ何にせよ、その誰かもカズマさんと同じような善性を持っていると考えるべきだろう

 女王様を優しく気遣うように塔の中へ戻す姿は、まるで子供を見守る母親のような安心感があった

 彼の力を見れば見るほど、彼が一体ナニ、なのかが分からなくなる

 とんでもない力を持つのは確かだし、それは周知の事実となって来つつある

 彼自身は未だ自分の力に気づいていないという鈍感な側面はあるが、やはりこのまま見守り続けるのが最善の策かもしれない

 俺はあの時死にかけていて、彼の力を目の当たりにはしていないが、目撃した者が言うには、まるで神が降臨したかのような神々しさだったと聞く

 何にせよ、善性の塊のような彼が街に、国に、いや、世界に危害を加えるとは考えづらい

 今はただ、彼を見守るにとどめておこう

 現に私達は彼に救われている

 きっと彼は、神竜アルビオナ様が遣わした御使いに違いないのだろうな


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