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第78話

 なぜ俺はここにいるのだろうか

 数日前にレナの頼みで騎士団に料理を作りに来て、ギルドに顔を出して帰ろうとしたところ、ちょうどギルマスのフォウさんにあったから、挨拶をしようとしたらギルド内に連れ込まれた

 まあ丁度ラナの顔も見ておこうと思ってたところだからちょうどよかったんだが

「いいところに来てくれた。実は獣王国女王のラフィナ様が、命を狙われていてな」

「それならレナや騎士団の方たちから聞きましたよ。それで、俺は何をすればいいんですか?」

「話が早くて助かる。隠密薬というものが作れるそうだが、それを二本ほど買わせてくれないか?」

「そんなことで良ければ。今持ってるので」

「おお流石だカズマ殿。これは礼金だ」

 ガシャンと袋に目いっぱいの金貨を渡してくれるフォウさん

「ちょ、これは流石に多すぎます。銀貨二枚でいいんですって」

「む、そうか? しかしこんな薬は貴殿以外に作る者がいないんだが?」

「そうなんですか? 結構簡単に作れるんで今度ギルド付きの薬師にでも製法を教えておきましょうか?」

「はぁ、阿呆か貴殿は・・・。新薬の製法など簡単に教えるな! 特許を取れ特許を。あとで手続きしてやるから待ってろ」

「は、はあ」

 別に金に困ってないからいいんだが、フォウさんの親切はありがたく受け取っておこう

「それとだ、銀貨二枚というのも安すぎるな。最低でも金貨五枚だな」

「金貨五枚!? それはちょっと吹っ掛けすぎじゃあ」

「あのなぁカズマ殿。完全に気配を消し、匂いすらなくなる薬だぞ? これが広まれば暗殺し放題だし、探知魔法にも引っかからないと聞くに、危険薬認定もありうるんだ。だから特許を取る時は効果を極限まで抑えるんだ。匂いは消えないとか、数分で効果は切れるとか、探知魔法には引っかかるとかな。魔物を倒すには便利だが、要人暗殺には向かない。そんな風に劣化させて特許を取るんだぞ」

「そ、そこまでは考えが至りませんでした・・・。すみません」

「まあこの買った薬はギルドが管理し、秘密を守れる者にしか飲ませないから大丈夫だが、こんなものをホイホイ知らない人に渡すんじゃないぞ」

「あ」

「はぁ、もうやっていたか」

「だ、大丈夫です! 赤の山を見張っているエルフたちに製法を教えてサンプルを渡しただけですから」

「製法を・・・。ふむ、まあ、うん、あのエルフたちなら悪用はしまい。大丈夫だろう」

 取りあえずは落ち着き、奥に通されて椅子に座らされた

 まだ用があるんだろうか?

 いつの間にかラナが来て俺の膝の上にちょこんと座っている

「ねね、ファンファンお姉ちゃんどこー?」

「ああ、ごめんなラナ、今日は来てないんだ」

「そっかぁ・・・」

 耳を垂らしてしょげるラナ

「また近いうちに連れて来るから心配するなって。それと、今度会った時多分驚くぞ」

「うん! ラナ待ってるね」

 いい子だなぁラナは

 今はフォウさんの娘になっているから、ギルド内の受付嬢たちに可愛がられているらしい

 いずれは受付嬢として仕事を覚えてもらうようになるかもとのこと

 うんうん、それがいい

 この子は恐らく魔人だ

 でも、獣人としてここで平和に暮らせるならそれに越したことはない

「さてカズマ殿。もう一つ頼みがある」

「なんでしょう?」

 間もなく女王ラフィナ様はこの街に到着するのだが、カズマ殿にも警備に加わってもらいたいのだ」

「お、俺がですか!? ファンファンやアネモネの方がもっと役に立ちますって」

「それも考えたんだが、あの二人は何と言うか、パワー系で、隠密行動に向かないだろう? すでに報告にも入っているのだが、君はあの赤の山から無事生きて帰ったと聞く」

「・・・。だ、誰がそんなことを?」

「これでもギルドは情報通でね。ギルドに恩恵をもたらしてくれる者の行動は大体把握しているんだ」

「犯罪ですよそれ」

「その犯罪者を捕まえているのもギルド直轄の部隊や、癒着のある騎士団だ」

「あ・・・」

 要は監視されていても犯罪にはならないってことか

「安心しろ。貴殿のことを常に監視しているわけではない。大きく動いた時のみ分かるようになっているだけだ」

「はぁ、まあエルフたちにも監視されてたみたいだし、もう別にいいですけどね!」

「す、すまない。その代わりと言っては何だが、報酬も用意してある。君は細工師のスキルも手に入れたのだろう? そこでだ、なかなか手に入らない細工に使う鉱石や宝石類、これを大量に報酬として渡そう。それも前払いでだ」

 前払いってことは断らせないためなんだろうなぁ

 まあルカが帰るまで心に空いた穴、この気を紛らわすにはいいかもしれない

「分かりました。やりますよ。でも俺は何をすればいいんです?」

「貴殿は警備の騎士に交じって城を見ていてくれればいい。怪しい者が入り込んだりしていないかなどな。あ、別にそれを捉えてくれても構わないぞ。その時はさらに報酬を増やす」

「その口ぶり、噂の暗殺が本当に起こるって感じじゃないですか? まだ噂レベルって聞きましたが」

「ギルドの情報網を嘗めてもらっては困る。これは確実な筋からの情報だ。あの王兄は、本当に妹を、殺害しようとしている」

 獣人の国の女王なんて顔も見たこともないが、年齢は確か15歳。ラナやレナ、ファンファンとあまり変わらない

 そんな年代の子が毒牙にかかろうとしているのなら

「分かりました。騎士団に行けばいいのですか?」

「ああ、助かるよカズマ殿」

「報酬、期待してますからね」

「もちろんだ!」

 こうして俺は、また騎士団の方へと戻って行くのだった


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