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第76話

 お父様が亡くなってから悲しむ余裕もなく数ヵ月が経ってしまったわ

 あれほど元気だったお父様が日に日にやつれて行って、最後は立つことすらできなくなっていた

 あれは病によるものではない

 きっと兄様の陰謀によるもの・・・

 優王レルオンと呼ばれたお父様から、あんなモンスターが生まれるなんて

 数年前に亡くなったお母様も兄様はきっと改心してくれると信じていたはずなのに

 私が小さなころは兄様と仲が良かったはずなのに、なぜあそこまで歪んでしまったのでしょう

「ラフィナ様、そろそろ出立のお時間です」

「ええ、行きましょう」

 二日後に開かれるシュエリア王国、メイガ王国との会合

 初めての公務に緊張はしているけれど、それよりも兄ロウドが私の暗殺を企てていると聞いて、内心心臓が恐ろしいほどに脈打って、恐怖してる

 本当に、兄様は、もう元には戻ってくれないのでしょうか?


 馬車に乗り、揺られながら私は会合の開かれるシュエリア王国王都シェーリーを目指した

 護衛のためなのか、我が国の誇るSランク冒険者、トールロッドさんがついて来てくれてる

 彼の本名は知らないですが、自分の背の倍もあるロッドを振り回して戦う武道家です

 種族は蛇の獣人で、長い首と長い尾が特徴的で、その鱗は白く美しい輝きを放っています

 他にもAランク冒険者が数名ついていてくれます

「ラフィナ様。不安なのは分かりますが、トールロッドがついていれば問題ありません。いかにあのロウド様が策謀を練ろうとも、彼の武術の前には稚戯も動議ですぞ」

 大臣のエンモが私を落ち着かせようと声をかけてくれる

 彼はおじい様の時代から仕えてくれていて、私にとってもおじい様のような存在

 小さなころから可愛がってくれて、私も大好きな人

 そんな彼の優しい笑顔のおかげで、私も安心できた


 馬車に揺られること半日

 隣国シュエリア王国へと到着

 王都までもう半日かかるけど、ここまで私を暗殺しようと襲って来た者は皆無

 それが逆に、なんだか恐ろしい

 そこから半日かけて王都シェーリーに来たけれど、道中に魔物に襲われた以外はすんなりと到着

 その魔物もAランクの冒険者たちが大した時間もかけずに討伐してしまった

 私の杞憂、考えすぎだったのかな?

 暗殺もただの噂だけで、実の妹である私を兄様は殺そうとは考えていないのでしょう

 確かに王座を狙っていて、私が即位した際には罵詈雑言を浴びせて来たけれども、昔あれほどまでに私を可愛がってくれていたあの兄様が・・・

 かつての優しかった兄の姿を思い出し、少し涙が込み上げてきた

 いけないいけない

 今からシュエリアの王様に会うのに、こんな顔

 私は涙をぬぐってから馬車から降り立った

「ようこそラフィナ女王、我が国シュエリアへ」

 そこにはにこやかに笑う、多分シュエリアの王様であるディオス・シュエリアさんの姿が

 王様自ら出迎えてくださったのね

「この度はお招きいただき、ありがとうございます。お初にお目にかかります。ビスティア女王、ラフィナ・ビスティアです」

「ふむ、初めてではないんじゃが、まあ小さなころに会ったきりじゃったからな。初対面といってもいいじゃろう。お父上のこと、その小さな身にはさぞかし辛いことじゃったろう」

「お気遣いありがとうございます。私はこの通り、もう前を向いて歩み出しております」

「うむ、レルオンは良き娘を持った。しかし、兄がいたであろう? 幼いながらよくできた子であったが、彼はどうしたのじゃ?」

「それが・・・」

 私は兄がおかしくなったことを一部始終ディオスさんにお話した

 15歳になった二年前を境に、兄は王座に執着するようになり、傍若無人で、横柄な人柄に変貌してしまった

 本当に、なぜあそこまで変わってしまったのかが分からない

 まるで何かに変えられてしまったかのように

「そうか、辛い思いをしたのだな。この国にいる間は我が国の精鋭たちがあなたを守り、信頼のおける者が調理を行う。安心して滞在して欲しい」

「ありがとうございます」

 王に案内され、あてがわれた部屋へ入ると、すぐにベッドに腰を下ろして一気に寝転がった

「ふーー、ここ、すごく安心できるかも。なんだか懐かしくて幸せになれるような感じ」

 ずっと気を張ってたからか、途端に眠たくなって、着ているものもそのままにゆっくりと眠りに落ちて行った


 目が覚めると、辺りは真っ暗で、もう夜になってることが分かった

 窓から外を見ると綺麗な星空が

 その星と月の明かりの中、影が差して、何者かが音もなく窓から入ってきて、私の後ろに一瞬で回り込んだ

「ひっ、誰かっ」

 叫ぼうとしたとき、のど元に冷たいものがあたる

「騒げば殺す」

 低い声なのに、男性なのか女性なのか分からない

 恐怖で涙目になりながら相手の顔を見る

 そこに顔はなくてただ真っ黒な何かがいた

 魔法か何かで姿を隠しているのかも

 このままじゃ私は殺され・・・

 そこで意識を刈り取られて、私は多分攫われてしまった


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