エルフたちの里の事件から二週間
ルカがいなくなってから一週間が経った
エルフ族長に見せてもらったリアラスの手記によると、あの頃から魔人が増えていなければ残りの幹部魔人は11人ということらしい
だが今の俺にはそんなことはどうでもいいくらいに心に空いた穴が大きい
いつも俺と一緒にいたルカが、いないんだ
この世界で一番俺に寄り添っていてくれた可愛い俺の猫が、いないんだ
俺のため息は周りを暗くしているらしく、アネモネとファンファンも元気がない
すまない・・・
「なんじゃなんじゃ! 暗いのぉお前は! わしが客人として来てやっとるんじゃ、もっと愛想よくふるまわんかい」
「そうは言われましてもね・・・」
この人は魔族のアルクさん
本人曰く大魔法使いで、アネモネの師匠になってくれた人だ
確かに魔法の腕はあのミリアや、エルフたちの比じゃない
Sランク冒険者だって言うのもうなづけた
変な人だが、アネモネが慕ってるし悪い人ではないのはその性格からもわかる
俺を気遣ってこうして元気を出させようとしているんだろう
そんな最中のこと、久しぶりにレナが家へとやって来た
「はぁ、聞いてくださいよカズマさああん」
「どうしたんだ? なんかつかれてるみたいだけど」
レナは少しやつれていて、目の下にくまができていた
「えっとですね、実は一週間後に獣人たちの国である獣王国ビスティアの王と、この国の王様の会談があるんですけどね。その警備のための打ち合わせに加えて、未だ活性化し続けてる魔物の対処に追われて、なかなか休めないんです」
「それは大変だな。俺で良ければ騎士団に料理でも作りに行こうか? ポーションとかも提供するけど?」
「それは助かります! あ、ポーションはちゃんとお金を払いますし、料理もこちらで材料を用意しますね」
「よし分かった。気晴らしに作りに行くよ」
「ありがとうございます!」
レナも元気が出たようだ
それにしても、獣人の王か
ビスティアには行ったことがない
そもそも俺はこの国から出たこともないんだが、獣人が多い国で、代々獣人の王が納めている
そしてビスティアの王は兎獣人らしく、かなりおしとやかな性格なんだとか
おしとやか、というのは、女王だからだ
先代の王が病に倒れ、早くに亡くなったため、娘の王女が即位したそうだ
ちなみに女王は王が亡くなる三年前に、こちらも病死している
年齢はかなり若く、15歳で、婚約者もまだいなかったそうだ
隣国であるため、この国と国交を結んでいて、行き来がかなりある
げんにこの国で働く獣人や、冒険者になってる獣人は多数見かける
ギルマス補佐も狐獣人だしな
ただ、やはり即位したばかりの女王だからか、政治に疎く、外交も今回が初めて
そのため一応補佐もつくらしい
まあこの国の王は優しいし、子供が少し粗相を働いたくらいで怒るような小さな器じゃない
悪いようにはならないだろう
「でですねー、問題はこれだけじゃないんです」
なんてこった、まだ問題があったのか
「実は女王様暗殺の噂がありまして、そのため今回の警備は厳重に厳重を重ねて行われるんです。そのせいかみんなピリピリしちゃってるんですよねぇ」
「まあ、俺は料理くらいしか役に立てないけど、それでいいなら頑張るよ」
「お願いします。ほんとに」
それから二日後、俺は街に来ていた
もちろん騎士団で大量の料理を作るためだ
この日は騎士団が唯一休みを取れた日らしい
俺は気合を入れ、腕によりをかけて料理を作った
思ったより早くできたな
騎士団の食堂いっぱいに料理が並べられ、団員たちが歓声を上げる
大げさだな
レナはすでに涎を垂らして料理を見ていた
「カズマさん、ありがとうございます。これ料理の報酬と、ポーション代です」
団長が俺にお金の入った袋を渡してくれた
ドサッという重さが・・・
「あのこれ、多いです」
「ああ、魔石も入ってるんだ。毎度毎度君には助かってるからね。お礼だよ」
「それは、ありがとうございます」
今武具を作る元気もないが、ありがたい限りだ
「そういえば、警備の方は順調なんですか?」
「ああ、それね・・・。まあ現女王は即位の際に色々と問題が起こってたからね。あの方には兄がいるんだけど、それがまた性格に難があってね。とてもじゃないが優秀とは言えないし、身分を笠に着て問題ばかり起こしてるんだ。だからこそ彼女が担ぎ上げられたわけだけど、国民人気も高くて賢く、優しいからね。ただ臆病だから、兄にはいつも怯えてたらしい。暗殺も、王になれると思っていた兄が仕向けたものだろうと噂では言われているんだ」
なるほど、いつの世もそういった問題は起こるんだな
何にせよ、獣人国とは良好な関係が続いているから、その兄とやらが即位すれば、この国にも悪影響があるかもしれないし、この国は現女王をバックアップするつもりなんだろうな
一仕事終えた俺は、一応ギルドに久しぶりに顔を出すことにして、騎士団たちに別れを告げてからギルドの方へ向かった