ひとまずは俺は家に帰ることにした

「何かあったらこれを」

　そう言ってイリュゥに渡されたのはイヤーカフスだった

「これは？」

「母が作った通信魔法が込められたマジックアイテムだ。いつでも連絡が取れるぞ。それとこの紙に製造法も書かれてある」

「ありがとうございます」

「なぁなぁ旦那様、あいつらまた来るんじゃないか？　帰っても大丈夫なのか？」

「大丈夫ですよファンファンちゃん。魔王は未だ姿を見せませんが、その力が戻ったなら必ず動いているはずです。伝承によると魔王は最前線に立っていたとありますから」

「つまり魔王が完全復活するまでは動かないと？」

「ええ、魔人ミンティはファンファンを取り返されたことで激昂して単独行動をしたと思われます。かつての戦いでは魔王と魔人は入念な準備をして戦争を仕掛けてきました。恐らくファンファンちゃんを連れ去ったのもその一環だったのでしょうが、カズマさんが単独で潜入して、取り返したためにミンティのプライドを傷つけたのかもしれませんね」

　なるほど、それは確かにありそうだ

　あの顔は怒りに満ちていたからな

「それと、これは秘薬とその製法が書かれた本です」

「分厚いですね」

「秘薬以外にも別の薬の製法も書かれてますから」

「ありがとうございます！　助かります！」

　見送りに師匠、それからイリュゥとフェナン、一緒に赤の山を見張っていたエルフたちや仲良くなったエルフたちもいた

　もし次に異変が起こった時にこのイヤーカフスで連絡をくれるらしい

　それにしても、魔王も魔人もなぜ蘇ったんだ？

　勇者ランスが倒して以来、魔王は生まれていない

　世界を恐怖に陥れた魔王

　勇者がいないこの現代に、俺たちは勝てるのだろうか？

　今は考えを放棄し、ファンファンと共に帰路についた

　家に帰ると美しい女性が出迎えてくれた

「旦那様！　お帰りなさい！」

「えと、どちら様でしょう？」

「何をおっしゃってるのですか？　アネモネです」

「はい？　え？　なんでその」

「進化したのです！　私も日々強くなっているのですよ！」

　驚いた

　見た目は牛の角と耳や尻尾のある獣人の女性にしか見えない

　大きかった体は俺と同じくらいの背の高さになったのだが、胸は相変わらずだった

「それと、わたし、魔術の腕も上がったんですよ」

「おお、それはすごいな。だがあまり危険なことはしてほしくないな。家族が危ない目に合うのは、辛いから」

「んにゃ！」

　少し暗い顔をした俺を慰めるかのようにルカがスリスリと頭を擦り付けてくれた

　可愛いやつだ

　ルカを抱きかかえ、撫でながら家の中に入った

　カズマが帰ってくる数刻前

　わしはヴェノムスライム討伐から帰って来たアネモネを出迎えた

「どうじゃった？」

「はい、なんの苦戦もなく、驚くほどあっさりと倒せてしまいました」

「そうじゃろうそうじゃろう。アネモネ、もう間もなくカズマが帰ってくる。わしはルカに戻るからしばらく修行を付けてやれんが、わしの言ったことを反復すればいずれ魔法へと至るじゃろう」

「はい師匠！」

　アネモネは進化したことで基盤が出来上がった

　あとは練習し、魔術を魔法へと昇華させる

　オリジナルで魔術を作り出せるんじゃから、コツさえつかめば何とでもなるじゃろう

　そして愛しいカズマが帰って来た

　わしはカズマに抱きかかえられ、撫でられるがままになって目いっぱい甘えておいた

　この先カズマに甘えられる日は、もう来ないかもしれない

　間もなくわしはいなくなる

　カズマには寂しい思いをさせるかもしれんが、奴を、暗躍している闇勇者セイヴを完全にこの世から消滅させたあかつきには、カズマに全てを打ち明けて、そのあとは、フハハハ

　夫婦となるのじゃ

　翌朝、わしはカズマ達に分かれも告げず、闇勇者探しの旅へと発った

　朝起きるとルカの姿がどこにもなかった

　いつもいる毛布の上、台所、棚の上

　外に出て畑を確認したがここにもいない

　作業小屋、物置と探す

　いない、どこにも

　ファンファンたちと手分けをして探した

　ファンファンがよくルカと行っている花畑にも、狩場にもいない

　街の方に行ったのかもしれないと探しに行ってみたが、街は広く、街猫もたくさんいるため困難だった

　ギルドとレナに一応探してもらえるよう頼み、俺は家へと戻った

　もしかしたら帰ってきているかもしれないと思い、また家の中を探し回ったが、ルカの姿どころかあの可愛い鳴き声も聞こえなかった

「何処に行ったんだルカ・・・」

　それから数日が経ったが、ルカは戻ってくることはなかった

　街でもルカらしき姿は見えない

　ギルドで捜索依頼を出しに来たところ、一人の褐色の美しい女性が話しかけてきた

「なんじゃ依頼か？　ふむ、猫の捜索か。ふーむ、大魔法使いのわしじゃが、探し物の魔法は苦手じゃからな。すまん役に立てそうもない」

「いえいいんです。あの、あなたは？」

「わしか？　わしはSランクの大魔法使い、アルク様じゃ！　覚えておくがよいぞ。世界に名をとどろかせる最強の魔法使いじゃからな」

　自信満々な彼女に握手を求められ、それに応じてから、俺は依頼を出してため息をついた

「まあそのなんじゃ、大切な者がいなくなるのは寂しい。わしも痛いほど分かる。じゃがその猫はお前に懐いていたのじゃろう？　大丈夫じゃ。必ず戻ってくる。わしの感は割とあたるからな」

「ありがとうございますアルクさん」

　変な女性だが、優しい

　彼女の気づかいに感謝しつつ、俺は騎士団にも顔を出して帰宅した