「ハァハァ、一体何が?」
「イリュウさん! よかった目を覚ましたのね」
「私は確か、心臓を貫かれて」
「カズマさんの力、です」
「カズマさんの!?」
あの時のカズマさんは異常と言わざるを得なかった
あの優しいカズマさんから流れ出ていた不気味な気配
神性なものも感じたけど、それと同じ総量はありそうな、死の気配
ヒトが触れてはならない領域の物を感じた
カズマさんの体には今のところ異常は見当たらないけど、あれはカズマさんなんかじゃ絶対ない
今カズマさんもファンファンちゃんも気を失ってる
ファンファンちゃんに至っては、完全に上半身が潰れていたのに、それすら綺麗に再生されてる
私達が監視していた時ですらそんな力を見せたことはなかった
正直私は怖い
このまま彼を受け入れていていいのかな
取りあえず族長には報告して、指示を仰がないと
幸いにも魔人は村をそこまで破壊はしなかった
むしろ彼女は、私達を傷つけないように行動していたように見える
最後にはまるで暴走しているようだったけど・・・
魔人を生み出すことのできる魔人ミンティは消滅した
魔王が動かない限りは魔人は増えることはないと思う
「フェナン、二人を私の家に運ぼう。カズマさんのおかげで、私は生き残ることができた。感謝してもしきれない」
「う、うん」
イリュウには言った方がいいのかな?
でも、あんなの見てないと信じてもらえるかわからない
カズマさんの、異次元の力を・・・
とりあえずは本人にも黙っておいた方がいいかも
もし自分の力を理解したとき、彼がどう動くのかが怖いもの
目が覚めた
俺は、また生き残れたのだろうか?
起きあがろうとすると、体がきしんで激痛が走った
「ぐっ、いたたたた」
「目が覚めたんですねぇ」
この声は、細工職人の師匠、ラーニアさんの声だ
「あ、あれ?」
目は開いているはず、だが、真っ暗なままだ
「どうしたんですか?」
「あの、俺たぶん、目が・・・」
言いかけたとき、徐々に暗闇が晴れて視力が戻って来た
「いえ、なんでもありません?」
恐らく吹っ飛ばされた時頭にダメージが行って、視力を一時的に失っていたのだろう
ポーションを飲み、完全に視力は回復した
「だいじょうぶですかー? まだ寝ていてもいいんですよぉ」
「いえ、里の様子を見て回りたいんです。あの後どうなったのか」
「そうですかぁ、イリュウちゃんとフェナンちゃんは族長の家に行ってますよぉ」
「ありがとうございます師匠」
筋肉痛のように痛む体を引きずり、俺は何とか立ち上がって外に出た
家屋や里は思ったほど壊されていなくて、すでに修繕がされていた
そう言えば俺はどのくらい寝ていたんだろう?
「イリュウたちに話を聞くか」
族長の家を訪ねると、すぐに通してもらえた
「目が覚めたのですね」
「はい、それで、魔人はどうなったんですか?」
「魔人は消滅しました。彼女が使ったのは進化の秘宝とも呼ばれる秘薬。それであの姿になっていたのでしょう」
「そんな、じゃあなんでこの里は無事なのですか?」
「その秘薬は、爆発的な力を得る代わりに、魂を贄とし、体がどんどん崩壊していくのです。それで、恐らく里を破壊しつくす前に魂が燃え尽きてしまったのでしょう」
なるほど、それで里は無事だったのか
運が良かった・・・
「そういえばファンファンの姿が見えなかったのですが、彼女は、その・・・」
「安心してください。あの子は無事ですよ。今は元気に動いて、狩りに行ってくれています」
「本当ですか!? よかった・・・」
不吉な音がしたから、彼女はやられてしまったのではないかって内心気が気じゃなかった
「今回は敵の自滅のおかげで何とか里は無事でした。しかし、次もこううまくいくとはいきません。そこでカズマさん。貴方には街との橋渡しになってもらって、私達と協力して来たるべき戦いに備えて欲しいのです。あれほどの力を持った魔人はそうはいませんが、幹部の十二人は一人を除いて別格です。ミンティも進化の秘宝をつかわなくとも、十分に強かったのですが、復活した際に弱体化していたのでしょう」
初めて会った時の絶望的な力の差を感じていたって言うのに、あれで本来の力じゃなかったって言うのか
「分かりました! 任せてください」
「頼もしい限りです。よろしくお願いします」
レナ達、いや、団長さんに頼めば何とかしてくれるだろうな
それにギルド長にも
まあ魔王なんて人類の危機だ。協力は惜しまないだろうな
これでよかったのかしら?
カズマさんは納得してくれたけど、いずれ自身の違和感に気づく時が来る
その時彼は、どう動くのかな?
それが本当に恐ろしい
もし彼が敵に回ったなら、この世界の誰一人として、魔王も、聖竜アルビオナ、ダークドラゴンも、勇者ですら、誰も敵わない
そう思えてならないの