「そうですか、使ってしまったのですね、あの秘薬を」
あれは魂を贄にして極限までの進化を促す力
それ故に燃え上がった生命力は一日しか保てず、灰となって消えてしまう
ミンティは、もう私達のようによみがえることはない
あの日、私達が蘇ったあの日に、ミンティは二度と始めには死なないと言った
また、約束を破ってしまったのですね・・・
ミンティ、優しく仲間思いのあなたがそうすることは分かっていたはずなのに、あの秘薬を捨てさせなかった私が悪いのです
「オレガ様、すぐにでもあの人間族の男を、私達の手で討たせてください」
「ああ! 見ていたが、力を使わせなけりゃ雑魚も雑魚だ! 一瞬で殺しちまえば力なんて使えねぇ!」
二人の悲しみも痛いほどわかる
けれども、これ以上仲間を失うわけにはいかない
勇者ランスとの戦いで、痛いほど思い知らされた
元々私達魔人は、虐げられてきた
ヒト族とは違い魔物から発生する私達は、その特性からヒト族と同じ歩みを進めることができなかった
魔物とヒト族との隔絶はそれだけ深いもの
でも、言葉を紡いで声を上げ続ければ、きっと私達の立場も向上すると思っていた
甘い考え、今となればそれがよくわかる
優しかった勇者ランスはもういない
彼だけが、分かってくれていたけど、私達は彼の手を拒絶してしまった
現代に彼が蘇ってくれていたなら、きっと私達は彼と共に
でもそれはもう願えない
ミンティが死霊魔法で呼び覚ませたのはリアラスだけ
勇者ランスの魂は、もうすでにこの世界を去っていたみたい
「アロエラ、クーミーン。あなた達まで、私の前から、消えてしまうのですか?」
「いえそのようなことは、決して・・・」
「ああそうだぜオレガ様! 俺たちがあの男に負けると思ってるのか?」
「その男は、見たこともない力で死者すら蘇らせたのでしょう? それも、頭を完全につぶされていたはずの者まで」
「それは・・・」
そんな話は聞いたこともない
即死した者を回復させる手立てはない
それは魔法では不可能な領域で、現代の魔術ならなおさら
神の所業と言わざるを得ない
そんな力を前に、私達では絶対に勝ち目はないでしょうね
でも、たとえ最終的にその彼に討たれるとしても、私達という、魔人がいた記憶を刻み付けられる
いいえ、いいえ
それは本当の望みではないわね
私達は、一体どうしたのでしょう?
ランス、教えて
私は、魔人は、どう生きればいいの?
「オレガ様・・・。分かりました。ですが、いつか必ず、ミンティの敵は討ちます」
「もっと力を付けて、あいつすら凌駕しちまえばいいんだ!」
「ええそうね。私がもっと、動ければいいのだけれど」
この足が思うように動かないのが妬ましい。長い呪文を発せないこの肺が心苦しい
私も、動けるようにならなくては
ドクターに、もっと強い薬の調合をお願いしないと
「そういえば、今日は誰かしら?」
「今日はリリです」
「呼んで頂戴」
「はい」
アロエラが扉の外で待機しているリリを呼んでくれた
バジルーシャ・ロロララリリ
ケルベロスだった魔人で、私の付き人兼護衛
ロロはしっかり者の長女、ララはおっとりした次女、リリは元気な三女
三人が一つの体を共有している
その日その日で体の主導権が違うため、誰が主導権を握っているかで戦闘スタイルも変わる
今日はリリだから、今の落ち込んだこの気持ちを元気づけてくれそう
「呼びましたかオレガ様!」
「リリ、ドクターを呼んできてほしいの」
「承知しましたぁああ!!」
いい終わるか終わらないかで扉を出て行って、あっという間に行ってしまった
「毎度騒がしいですねリリは」
アロエラとクーミーンも部屋を出て行った
リリが呼びに行ったドクターは、悪妖精の魔人
ペパロ・モルガナ
黒く染まった蝶の羽は、クロアゲハを思い起こさせるような漆黒の美しさがある
私以外には陰険だけど、治療のうでは確かだから頼りになる
しばらくするとリリがペパロを連れて来た
「ぺっぺっ、こいつまた毒盛ってきた! 何とかしてくださいよオレガ様!」
「だめよペパロ。魔人たちはあなたを虐げた妖精族とは違うのよ?」
「でもぉ。あたし的にはこいつらがいなくなればぁ、オレガ様と二人っきりになってラブラブなわけでぇ」
「こいつ何も反省してない! このこの!」
コツコツと頭を小突くリリ
「痛いなこいつめ!」
それに対抗して毒物を注射するペパロ
「痛っ! 毒効かないけど痛いんだってば!」
二人を見て少し元気が出たかも
「それで、オレガ様、何の用でしょう? あたしと一夜を過ごしたいんですね分かりましたすぐ準備します」
「違います。調合する薬を強力なものにしてほしいの。それと、回復魔法も最大限のものにして。私も、動かないと」
「そそそそそれは駄目です! ただでさえあたしの調合する薬は体に負担がかかるんです! ゆっくり体に慣れさせるための調合をしてるんです! それに回復魔法だって、今の状態でかければさらに負担が。命を削る行為です!」
「いいからやって。一度死んだ身だもの。あなた達魔人が受け入れられない世界なら、この世界の方が間違っている。だから、変えないと」
「う、う、でもぉ」
ペパロの反論を遮って私は首を横に振る
「・・・分かりました。ですが異常が起きたらすぐに辞めますよ」
「ありがとうペパロ」
私は、恵まれている
こんなにいい仲間たちに会えたんだから
それでもこの世界は、魔人にとって生きにくい
生きにくいのよ、ランス・・・