「ううううう、ぐ、ああああああああああ!! あぐ」
魔力の爆発が起きる
「痛い、痛い、痛い痛いイタイイタイイタイ!! イダィイイイイイ!!!!」
少女の体が急激に成長していく
魔物だったころの体に戻り、さらにその体も急成長を遂げた
「がっ、痛い、苦しい、だずげで」
口と鼻、そして目から血がどろりと流れ出る
「ミンティ!」
扉を開け、クーミーンとアロエラが入ってくる
「え? ミンティ、その姿は一体。それに魔力が、グチャグチャじゃない!」
「あぐぅ、ク、ミン、アロ、エエラァア」
ぼとぼとと口からドロドロの血液が流れ出る
「ああ、そんなミンティ、まさかあれを」
「あれはやべぇって話だったろ! なんで飲んだんだ!」
ミンティが飲み干した薬品は、自身に急激な進化をもたらす半面、命を削り、一日と持たずして体が灰になり消える
魂がすり減り、消え去ってしまうため、もし今後蘇れるようなことがあろうとも、彼女と言う存在は永遠に消えてしまうだろう
「いい、これで、いいの」
体は安定した
その姿は、元の蜘蛛魔物に人の体がついたもの
ミンティ・ビレオロンはスキュラリッチの魔人
糸を操り、死を操る
研究者としての姿は彼女の趣味であり、本来はネクロマンサーである
「アロエラ、クーミーン、ありがとう今まで。アロエラ、あなたに伝えていなかったことがある。私はあなたが好き。大好き。ずっと一緒に、いたかったよ」
ミンティはそう言うと蜘蛛の足を素早く動かし、二人の視界から消えた
「ミンティ!」
二人が彼女を引き留めようと追うが、すでにどこにも姿はなかった
時を同じくしたエルフの里にて
取り返してきたファンファンを俺は介抱していた
まあただ寝てるだけだからすぐ目が覚めるだろう
帰って来た途端に眠り始めたから最初は驚いたが、エルフの癒術師に見てもらったら、ただ単に寝足りなかっただけだった
全く心配かけさせて
俺はでかくなっても子供なファンファンの頭を優しく撫でた
その時突然おれの腕をファンファンがガシッと掴む
「うお!」
「ふっふっふ、やっと手を出してくれたな旦那様! さぁ、俺とつがいの儀式をしようぜ」
こいつ、流ちょうに喋れるようになったうえに、そんなことをどこで覚えたんだ
「やめろファンファン!」
「ほらぁ、いいから俺の隣で寝ろよぉ旦那様ぁ」
妙につやっぽい声を出しやがる
だが俺はその誘惑を振り払おうと掴まれている腕を振りほどい・・・
振りほどけない!! つよ! めっちゃ強いこの子!
「ほらほら、ここから、えっと・・・。どうするんだ?」
「知らん俺に聞くな!」
まったく、何年童貞やってると思ってるんだ
前世と合わせて約四十年だぞ!
「うう、ごめんよ旦那様。今度また勉強しとくからさ」
「しなくてよろしい!」
だめだだめだ、このままじゃ手を出してしまいそうになる
いくら大人とはいえ、この子は娘として引き取ったんだから、娘に手を出すわけにはいかん!
そんな平和?なやり取りもつかの間のこと
エルフの里全体が揺れた
「地震か!?」
俺は慌てて家から出て、外を見渡した
「なんだ、あれは」
エルフの里の中心にある広場
そこに巨大な蜘蛛が一匹、スラリと立っていた
その蜘蛛の上に、女性の上半身が乗っている
なんだあれは、人が蜘蛛にひっついて
ケンタウロスの蜘蛛バージョン?
いやそんなことを考えている暇はない
すでにその魔物はエルフを襲い始めていた
「出せ! あの男を! あいつは私が殺さないと! みんなが安心して暮らせないの!」
その声に聞き覚えがあった
「お前は、ミンティとかいう、あの女の子か?」
ぐるりと顔が動き、俺を見下す魔物
「見つけ、た、ゴボォッ、ゲホッ、グフッ」
いきなり血を大量に吐き出すミンティ
「ハァハァ、お前は、危険すぎる。私達魔人どころか、世界まで壊してしまいかねないほどに」
「何を言ってる?」
「だから私は、命を、魂を贄に、進化した。ネクロアルスキュラウス。新しく生まれなおした私、すぐに消えて行く壊れた命だけど、最後の灯火を持ってお前を討つ」
彼女が手に魔力を込めて地面にかざす
すると、地面からボコボコと何かが這い出て来た
それは骨
「まさか、この地で死したエルフたちを呼び覚ましたのか!?」
その骨たちが肉付けされていくと、まるで生前と変わらない姿のエルフの軍隊が出来上がった
「いけ! この男を、殺せ!」
蘇ったエルフたちは、涙を流しながら襲ってくる
「うわ! この!」
念のため身体強化の薬を飲んでいたおかげか、攻撃は避けれそうだ
「うう、ごめんなさい、ごめんなさい」
「ゆるしてくれ、俺たちはこんなこと」
「避けてくれ!」
蘇ったエルフたちは口々にそう叫ぶ
「お前、まさか、彼らには意識があるのか!?」
「ええそう。そうすれば生前と同じように戦えるもの」
死者エルフたちは泣き、叫び、謝罪しながら俺を襲ってくる
「やめろ! 俺の旦那様に何をする!」
ファンファンが大剣を振るって死者エルフたちを切り伏した
「ああ、ありがとう、そうだ。そうやって私たちを切って動けなくしてくれ。そうすれば君たちを襲わなくて済む」
切られたエルフたちはファンファンに感謝しながら土へと帰って行った
「っち、なら」
ミンティが魔力を死者エルフたちに注ぐ
「ブースト」
死者エルフの力が増したようだ
ファンファンの剣を止め、反撃に転じ始めた
「ぐあ!」
ファンファンを吹き飛ばしたが、彼女には目もくれず、一心不乱に俺だけを追って来た
「カズマさん!」
そこにこの里のエルフたちの援軍が駆け付けた
「フェナン! イリュゥ!」
二人は剣を手に、死者エルフを抑えてくれるが、死者エルフの方が力が強く止めきれない
どうにか、なんとかできないか?
考えろ、考えろ!
そうしている間にも俺に攻撃の手が迫って来ていた