数千年ぶりに姉妹であるアルビオナに再開してから数日が経過していた
完全にルカであることがばれてしまってからはカズマの家で共に過ごしている
一応アネモネには口止めしておいた
わしが人型になれると分かれば、カズマにいらぬ気苦労をかけるからな
そして、今日からはアネモネの回復スキルを磨くことに専念じゃ
魔法を教えることももちろんじゃが、こやつの本質は癒術にある
鍛えぬいて、死の淵にある者すら復活させるくらいにはなってもらわんとな
「それで、どう言ったことをすればいいのですか?」
「ふむ、こうじゃな」
わしは自身の心臓を、カズマの打った剣で貫いた
いくらダークドラゴンと言えど、核となる心臓を貫かれれば危うい
「師匠! 一体何を!」
「これでいい。さぁ、わしを治せ」
ドバドバと口から血を吐き出しながらそれだけ何とか言うことができた
「で、でもどうすれば」
「イ、 メージ、を、も、わし、だめ」
心臓の鼓動がなくなる
これは本格的にやばい
あとはアネモネの力を信じるしかない
まあ信じておるから、こんな、こ・・・
真っ暗な中にわしは立っていた
前も後ろも右も左も上も下も
どこがどうなっておるのか全く分からん
わしは歩きだした
「何でわしはここにいるんじゃ?」
真っ暗な中を歩いていく
すると、白い光が見えた
あれは何じゃ? 何か懐かしいものを感じる
その光に近づくと、幼き日のわしとアルビオナが遊んでいるのが見えた
その二匹を見守るのは、我らが母ティフォン
懐かしい母の顔と、あの頃は仲が良かった姉妹
「私の可愛いアルビオナ、ティア」
ああそうじゃった。母はわしらを愛し、それはそれは大切に育ててくれていたな
あの出来事さえなければ、わしは今でもアルビオナと仲が良かったのかもしれん
その記憶のかけらが消え、また白い光が見える
そこに向かって歩き、記憶のかけらを覗いた
「なんじゃと、母が!?」
「ええ、ヒト族に討たれました」
「なぜじゃ! 母は人々に友好的じゃった! 勇者に加護を与えるのが我ら聖竜の務めじゃろう? なぜその母が、殺されねばならんのじゃ!」
ああそうじゃ、この日は、わしらの母ティフォンが、ヒト族に殺された日
悲しみの中、アルビオナとたもとをわかったのじゃったな
「母を討ったのは邪悪に染まった勇者セイヴ。私は闇勇者を討ち、新たな聖竜として即位します。ティア、お前には私の補佐を」
「馬鹿なことを! あの優しかった母を殺したのだぞ! ヒト族に肩入れする必要などもうない! 戦争じゃ! ヒト族を滅ぼすぞ!」
「だめよ、ティア・・・。この世界はヒト族の手によって紡がれている。母はそう教えて来たでしょう」
「知らぬ! 知らぬ知らぬ知らぬ知らぬ! 大切な、わしらの大切な者を奪ったのだ! 許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ!」
この時じゃ
わしの白いからだが漆黒に染まったのは
記憶のかけらが消え、また次のかけらが光る
それに触れ、記憶を見る
「ティア」
「その名でわしを呼ぶな!! アルビオナァアアア!!」
これは、アルビオナとのすさまじい戦い
この時の戦いから数年後、勇者がアルビオナの加護を受けてわしを討ったんじゃ
記憶の時が進み、わしは勇者ランスと対峙しておった
「ダークドラゴン、なぜここまで人々を恐怖に陥れる」
「なんじゃ、アルビオナの奴から聞いておらんのか? ふん、些末なことじゃからどうでもよい・・・。わしはヒト族が気に喰わんから、全て消し去ろうとしておるだけじゃ」
「嘘だな」
「は? 何を言っておる」
「お前は確かに街や国を破壊しつくし、人々を恐怖に陥れている。だがその実、誰一人として殺してはいないだろう?」
「何が言いたい」
「お前は意図的に人々が逃げれるよう攻撃し、避難が終わってから全て壊している。お前は、本当は優しいんだろ」
「わしが、優しい?」
ああそうだ。ランスのこういうところが気に喰わなかったが、わしのことを見抜いていたのはこやつだけじゃったな。いや、もう一人おったな。ランスの妻、聖女リアラス
この二人になら、わしは討たれても良いと思えた
記憶のかけらが消え、ひときわ激しく輝くかけらが現れた
それに触れる
「ダークドラゴン、あなたの名前を教えて下さい」
「知ってどうなる?」
「覚えています。ずっと、ずっと」
「わしを封じるんじゃろう? その命と引き換えに」
「ええ、あなたの力を封じます。そして、未来へ希望を残すのです」
「行くぞリアラス、俺たちの最後の仕事だ」
「ええランス」
「ハハハ、未来に希望をじゃと? わしを封じてか? わしが未来で世界を滅ぼすかもしれんぞ?」
「そうはならないさ」
「・・・、ティアじゃ」
「ありがとうティア。もしもがあるなら未来まで、さようなら」
「ふん、さっさとやれ」
「いいかティア。あいつはまだ滅んでいない。未来を頼んだ」
「あいつ? おい、それはまさか」
ここでわしの記憶は途切れた
思い出した、全てを
ランス、リアラス
お前たちは気に喰わんが、好きじゃった
じゃから、一つだけお前たちの言うことを聞いておいてやろう
わしらの宿敵を、倒すという目的をな
目が覚める
「師匠!!」
わしに抱き着くアネモネ
胸を見ると、傷口すらなくきれいに治っておった
それも、核となる心臓が綺麗に再生しておる
やはりか
「アネモネ、よくやった」
そうしてアネモネをしっかりと見ると
「おまえ、その姿」
角が一回り小さくなり、体も普通の人間サイズになっている
からだは小さくなっているが、魔力の保有量が数段上がっていた
「はい! 私も先ほど気づいたのですが、また強くなったようです」
進化、じゃなこれは
魔人としてかなり洗練されてきておるが、見た目には亜人にしか見えん
やはりわしの眼に狂いはなかったか
これはファンファンよりも一つ頭とびぬけたのぉ
「どうじゃ、体の調子は?」
「すこぶる順調です! それよりも、師匠の方は?」
「うむ、元気も元気じゃな。それに、色々思い出せたおかげで、わしのやらねばならないことも分かった」
「やらなければならないこと、ですか?」
「うむ、まあおまえには関係ないことじゃから気にするでない」
「何か隠していますね?」
わしはそのまま何も言わず、とりあえず腹が減ったから、残っていたワイバーンを二人で平らげた
そして翌日のこと
「アネモネさーーーん、アネモネさーーーーーん」
扉を叩く声がした
この声は間違いなくあの小娘、レナの声じゃ
「どうしたんですか? 旦那様ならまだ戻って来ていませんよ」
「アネモネさんの力が必要なんです! 騎士団の見回り隊の一団が、ヴェノムスライムに襲われて、瀕死の重傷者が数人出てるんです! というかアネモネさんなんか小っちゃくなってないですか?」
「先ほど進化しまして」
二人がとぼけたやり取りをし始めたので割って入る
「なんじゃ、ヴェノムスライムごときに騎士団が破れるとは情けないのぉ」
「そうは言われても、特殊個体だったんです・・・。あれ? 貴方は確か今話題の大魔法使い、さん?」
「ほぉ、わしを知っているとは、ファンか?」
「いえ、ミリアがあなたのファンでして」
「おお、騎士団のあの魔術師か。見込みがありそうじゃから目を付けておった。今度連れて来い。わしが見てやる」
「それは彼女も喜びま・・・ってそれどころじゃないんです! アネモネさん、どうか来てもらえませんか?」
「もちろんです!」
「どれ、わしが送ってやろう。急ぐんじゃろう?」
わしは転移魔法で二人を街まで送った
まぁ特殊個体じゃろうと今のあやつなら、死んでいなければ大丈夫じゃろう
大手を振って送り出し、わしはわしのやるべきことのため、動き出した