いくらか部屋を見て回り、その部屋の奥の奥に一つの陰気そうな扉があった
そこにはセリと書かれている
間違いなくセリの部屋だな
俺はゆっくりと、音が鳴らないように扉を開ける
中を見るとかなりごちゃごちゃしていて、食べ物が腐った臭いやトイレのような臭いがする
飲みかけのカップが机の上に放置されていたり、何かよく分からない液体が入ったカップが床に散乱している
音を立てないように歩き、寝室と思われる部屋に気配があったため、そこの扉をそっと開く
そこには寝息を立てて眠るセリと、彼女を抱きしめて眠っているファンファンの姿があった
俺だってまだなのに
俺はゆっくりとセリに近づき、彼女の首根っこを捕まえた
「うぐ」
声を出したが、ファンファンは一度眠ると朝まで起きないのを俺は知っている
セリが苦しむ中、俺は彼女に声をかけた
「お前、本当に力がないんだな」
首を掴んだ手を放させようとポカポカと殴っているが、全く痛くない
「う、やめ、て、もう殺されたく、ない」
また失禁し、その目は悲しさに満ちて涙を浮かべている
「もう殺されたくないだ? 数千年前、さんざん人々を殺しておいてよく言う」
「あっしらは、そんなこと、していな、い。お願いだから、この子は返すから、だから、殺さない、で」
「なにを、している」
後ろで声がした
警戒していたつもりだったが、セリに集中しすぎていたせいか、気配を見逃してしまったのだろう
「近づけばこいつの首を折る」
「ひっ」
さらに漏らすセリ
だが構ってられない
「分かった。お願いだから、その子を放して」
俺は剣を抜くと、セリをベッドに置き、その首に剣を突きつけた
「解放してって言ってる」
「放しはしたぞ」
「屁理屈を!」
確かにこんないたいけな見た目の少女をいたぶる趣味はない
だが今は引くわけにはいかない
ファンファンを、家族を返してもらうまでは
「三つ約束しろ。ファンファンの洗脳を解くことと、俺たちを無事エルフの里まで返すこと。その後はエルフと俺たちに手出しをしないこと」
「分かった。約束は守るから、お願い、セリを解放して」
「先に洗脳を解け」
剣をさらに首元に近づける
「おひぃ、ああ、ああああ」
いよいよ布団がぐしょぐしょになっている
心が痛む
「わ、わかった」
セリは眠っているファンファンに手を翳すと、力を使ったのが分かった
「これで解けたのか?」
「あ、う、解いた! 解いたから! 殺さないでぇええ」
かわいそうなほど泣き始めたので、俺は剣を治めた
「うわぁああんミンティ!!」
走っておしっこまみれの体でミンティに抱き着くセリ
「うっぷ、さぁ出て行って下さい! セリの心を、これ以上、傷つけないで・・・」
俺は眠っているファンファンを抱え、彼女にも薬を飲ませて部屋を出ようと歩く
出る瞬間に
「すまなかった」
そう言って部屋を出た
その後は薬のおかげか、悠々と城を出て、赤の山を下った
ファンファンは途中で目を覚ました
「あれ、旦那様どうした? 俺、なんでこんなことになってるんだ?」
「寝ぼけたのかファンファン。さあ、帰ろう」
「おう!」
背中から降りたファンファンは元気よくうなづき、一緒に歩き始めた
「ごめん、ごめんよぉミンティ! せっかく強い魔人を手に入れたのに、あっしのせいでこんなことに」
「いえ、いいんです。セリが無事ならそれで」
あの男、全く気配と言うものを感じなかった
そこにいるのに、まるで、空気のように、存在が揺らいでいた
あれがもし、オレガ様の寝室に、行っていたなら、簡単にオレガ様を・・・
心臓がまだバクバクと脈打っている
あの男、初めて見たときは何の脅威にも感じなかったのに、あの鬼の魔人を、洗脳したとたん、人が変わった
あれはヒトなんかじゃ、断じてない
ヒトの皮を被った何か
逆鱗に触れてはいけない。関わってはいけないと、心の警鐘が大音量で鳴り響いていた
怖い
でも、オレガ様を脅かす危険がある以上、アレは何とかしなくちゃ
計画はまだ早いけど、アレを使うしか、ない
オレガ様やリアラスと約束、した、けど
それでも私がやらなくちゃいけないんだ
セリをなだめて、もう一度お風呂に入るよう促してから、私は自室である研究室に戻った
そこの封印された戸棚を開いて、一本の薬を取り出す
超進化薬
魔人の魂を燃やして、究極の進化をもたらす秘薬
これを使えば、私の魂は完全に消える
ネクロマンシーとしての力を使おうとも、私はもはやどこにもいなくなる
オレガ様、クーミーン、アロエラ、リアラス、ごめん。ね
私はその薬を一気に飲み干した
そのとたん体と、魂に酷い痛みが走り、私は気を失った