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第66話

 赤の山を登り始めるとすぐに危険な魔物と鉢合わせた

 多分ワイバーンだろう

 幸いにも薬のおかげで全く気付かれていないが、匂いで気配を探っているのだろうか?

 しきりに周囲をキョロキョロしている

 だ、大丈夫だ。この薬は匂いも消してくれてるはず

 しばらくキョロキョロトした後、ワイバーンは飛び去って行った

「ふぅ」

 いきなりのことだったから緊張したが、この薬の効果は絶大だな

 ワイバーンが完全に見えなくなるのを見送ってから移動を再開した

 危険地帯と言われるだけあって魔物はどれもこれも強力なものばかり

 それどころか、魔人と思われる人型の魔物もいくらか見えた

 ここはもう魔王の領域だ

 決して油断してはならない

 ちなみにこのあたりにいた魔人は、あのミンティとかいう少女ほどの迫力は感じなかった

 魔王とミンティは魔人を作り出せるというから、その魔人のうちの何体かだろう

 ゴブリンなどの人型なだけの魔物と違い、知性はかなりありそうだったな


 昼まで歩いたところでひとまず休憩を取ることにした

 薬の効果もそろそろ切れる頃だろうと、俺は用意しておいた薬を飲み下す

 味にはこだわって作ってあるからかなりうまいとは思う

 そのまま昼ご飯の用意もした

 匂いが漂ってはいけないので干し肉とパンで即座に済ませ、また歩き出す

 山の上の方には城が見えていて、まるで血のように赤く染まっていた

 だからこその赤の山

 周りの木々も赤みがかっていてかなり気味が悪い

 この辺りは勇者と魔王、そして勇者とダークドラゴンが戦った地

 そのせいで今でも魔力だまりという魔物が発生しやすい場所になっており、その影響か植物にまで変な影響を与えているんだとか

 エルフたちが様々に研究して分かった結果らしい

 ともかく先を急ごう

 もしこの薬の効果が効かない魔人なんてものがいたら、俺なんてひとたまりもないからな


 二時間後

 身体強化の薬の効果もあってか、驚くほど速く城の前まで到着した

「ここが魔王の城か。元々ヒト族がたてた城だって聞いたけど、今じゃ見る影もないな」

 真っ赤に染まったその城は、元々は白く美しい城で、神竜アルビオナを祀っていた神殿のような役割も果たしていたらしい

 神竜アルビオナは実在していたという話だけど、勇者に加護を与えてから姿を見せていないらしい

 もはや伝承だけが残る実在していたのかも怪しい存在だが、こんな剣と魔法の世界だ

 げんにダークドラゴンらしき竜の痕跡や、オークたちから街を守ってくれた竜の存在もある

 まあその竜こそがアルビオナだって噂されてもいるが、神竜アルビオナは真っ白な美しい竜だったそうだし、目撃された真っ黒な竜ならばむしろダークドラゴンの方だろう

 だがそうなるとおかしいのは

 おっと、入り口付近に魔人が一人立ってるな

 あれは、門番か?

 俺は族長に借りた日誌で門番が誰なのかを確認するが、特徴から調べてもそこに合致する魔人は書かれていなかった

「新しい魔人ってことか?」

 他に忍び込める場所を探し回り込むと、壁面に穴が開いているのが見えた

 なんとか通れそうだ

 そこをくぐって中へ入ると、広場だった

 恐らく玄関ホールらしき場所か

 そこに人影はなく、俺はあたりを注意深く見渡しながらファンファンのいる場所を求めてさまよい始めた

 日誌によるとセリは引きこもり気質らしく、地下にいたらしい

 あの様子から察するに性格は復活前そのままなのだろう

 地下への階段を探してホールから奥へ入って行くと、いくつか扉のある廊下の先に、大きな扉があるのが見えた

 階段は見当たらなかったからここじゃあないんだろう

 寄り道していれば見つかるリスクも高くなる

 戻って別の道を探していると、魔人が歩いているのが見えた

 かなり背の高い女性型魔人だ

 背中に大剣と斧を背負っている

 筋肉がすごい

 俺なんか一撃でミンチにされるだろうな

 一応物陰でその魔人を探してみると、クーミーンという魔人と合致した

 どうやらパワータイプの魔人らしく、幹部魔人の中でも特質した筋力を持っているらしい

 そして風呂ギライと書かれていた

 その魔人に気づかれないよう横をすり抜けて奥へ行くと、階段が見えた

 通り抜ける際、こいつの臭いが漂ってきたが、チーズをさらに腐らせて古びたぞうきんを煮しめたものをブレンドしたかのような強烈さだった

 上と下へ続く階段だな

 ここから地下へ行けるだろう

「待ってろよファンファン」

 地下へ降りて行くと、研究室と書かれた部屋があった

 そこには、あのセリと言う魔人といたミンティという少女魔人がいた

 どうやらここで魔人を作っているらしい

 魔物何体かが薬物を投与されているのが分かったが、失敗したのか、魔物はどろりと溶けたり、苦しんで死んだりしている

 だがそこで驚くべきものを目撃した

 クーミーンの横にいて隠れていたからよく見えなかったが、もう一人、少女が立っていた

 その姿はまるっきり人間で、どこか神聖な気配を感じる

 その少女は死んでしまった魔物に手を翳し、なんと元通りの状態に戻してしまったのだ

 彼女がなんなのかを調べたが、情報は書かれていなかったため新しい魔人なのだと分かる

 あの力、恐らく幹部クラスなのだろう

 だが今まで見て来た魔人のように魔物から魔人に変わったようには見えない

 よく観察していると、彼女の耳が露わになった

 その長い耳の特徴から、彼女が元々エルフだったことが分かる

「エルフの魔人?」

 そう言えばミンティの二つ名、ネクロと書かれていたな

 まさか、エルフの死体を使って魔人を作ったのか?

 色々想像をしてみたが、今はファンファンを助け出すことが先決だと考え、その場を後にしてセリを探し、地下を歩き回った


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