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第65話

 懐かしい気配と、弟子のピンチにさっそうと駆け付けるわしかっこいいのお

 というかこいつ、何しに出て来た?

 あの時以来世界に関わることをやめたアルビオナ

 わしと双璧を成す白い竜

「アルビオナ、ここは去れ。わしの顔に免じてな」

「いいえ、私の眷属たちを殺した罪は償ってもらわなければ」

「ならばここで戦うか? 久しぶりにな」

「・・・。ヒト族に被害が出るのは本意ではない。わかった、ここは引くとしましょう」

「ふん、お前のことは好かんが、長い付き合いだ。不穏の種とやらが顕現したときは、協力するのもやぶさかではないぞ」

「どういう風の吹き回しですかティア? 貴方そんな竜じゃないでしょう?」

「わしも丸くなったというわけじゃ。といか、これから先わしの夫と共にこの世界で暮らすなら、できうる限り平穏に暮らしたいのよ。それと、わしをティアと呼ぶな。わしの名はルカじゃ!」

「その夫とやらに与えられた名ですか。いいでしょうルカ。種が芽吹くときまた会いましょう」

 聖竜アルビオナ

 いや、今は神竜と呼ばれているのだったな

 勇者ランスの守護竜、か

 わしはそうはなれなんだ

 わしがやったことは、ヒト族を恐怖に陥れたことだけ

 だからこそ勇者ランスに討たれた

 いずれ世界を支配しようと思っておったが、過去を思い出した

 ランスは、わしを救おうとしておったんじゃろうな

 げんにわしは死ぬことなく封印されただけじゃった

 聖女と勇者の犠牲によって

 次は間違わぬ

 あの男と共にわしは

「ん、うう」

「目が覚めたかアネモネ」

「師匠? えっと、確か白い竜が」

「うむ、わしが追っ払った!」

「さすがです師匠!」

 こやつには危険なことをさせてしまったな

 しかしまあこのワイバーンどもの肉を食えば忘れるじゃろ

 ワイバーンを全部収納すると家にまで戻った

「私が料理しますね」

「うむ、腹が減ったな」

 今日は本来ならSランクに上がるために依頼をこなそうと思っておったが、弟子のピンチじゃったからしょうがない

 宝珠が役に立ったな

 アネモネに渡した宝珠はわしと通信もできるが、危険に陥った時分かるようになっておった

 そのおかげでアルビオナにこやつが殺される前に来れたというわけじゃ

 まあわしもまさかあのワイバーンどもがアルビオナの眷属だと思ってはおらなんだが

 あやつ、力は落ちておったがやはりわしと双璧を成しておっただけある

 あのまま戦っておったらどちらかが死んでいたじゃろう

 わしの姉、アルビオナ

 強さは同じであったが、あやつはわしにないものを持っておった

 仲間、というやつじゃな

 まあ加護を与えておった関係じゃから仲間と呼べるのか分からんが、加護を与えられた者達は信じられん力を発揮しておった

「できましたよー」

 かつてのことに思いをはせておったらアネモネの料理ができた

 焼いただけ、ステーキじゃな

 じゃがかかっておるのはカズマ特性のソース

 これがまたうまいのじゃ

「いただきます!」

 カズマがいつも言っている挨拶をしてがっついた

「やっぱり、そうなんですね?」

「ん? どうしたアネモネ」

「その言葉、それは、旦那様しか言いません。この国の人達はご飯を食べる前、アルビオナ様に祈りを捧げますが、いただきますという言葉は言わないのです」

 な、しまった

 まさか、こんななんとなく言った言葉で

「師匠、あなたはルカなのですね」

「なんじゃ、ばれたか」

「師匠、あなたは何者なのですか? 何故猫のふりを? いえ、猫が人のふりをしているのでしょうか?」

「どちらも違う。わしは、かつて、ダークドラゴンと呼ばれた竜じゃった

 なぜかこいつになら話してもいいと思ってしまった

「ダーク、ドラゴン・・・。そんな」

「ああそうじゃ。ほれ」

 わしは翼と、竜の手を出す

 驚き目を見開くアネモネ

「わしは遥か昔に勇者によって討たれた。じゃがこうして復活し、カズマの力によってここまで力を取り戻した」

「では、完全に力を取り戻したときは、また世界を壊すのですか?」

「いいや、わしはカズマの嫁になるのじゃ。世界なぞもういらん! お前のおかげではっきりとした。わしはカズマと共にのんびり余生を過ごすのじゃ」

「それは」

 こんな夢を語ったところでわしの悪名はアネモネを恐れさせるだけじゃろう

 受け入れられなければ、カズマの元を去ろう

 そして、一人でひっそりと死のう

「それは大変に良いことです! 応援します師匠!」

 なんとこやつ、受け入れおったか

「いいのか? わしはあのダークドラゴンじゃぞ?」

「今思えば、あのオークの群れを倒してくださったのも師匠ですよね?」

「む・・・」

「師匠はご自身で思っている以上にお優しい方です。かつての伝承と言うのは曲解されて伝わることも多いものです。もしかして師匠も」

 なにも答えなかった

 あの頃のわしは確かに恐れられ、危険視され、嫌われておった

 こんな眼差しを向けられることもなかった

 アネモネの優しい目はカズマと同じだ

 そうじゃ、わしはこの目、この優しい目に惚れたのじゃ

 わしは、カズマを守りたい

 あやつの平穏を、壊したくない

「さぁ、ご飯を食べましょう師匠」

「う、うむ!」

 そこから何も話さず、ただ二人でワイバーンの肉をかっくらい、むしゃぶりつき、口の周りをソースでベトベトにしながら食い尽くした

 待て待て、あれだけあったワイバーン肉が、半分以上なくなったんじゃが・・・

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