ふむ、アネモネの力は大体わかった
魔法には未だ至ってはおらんが、魔術に関しては新しいものを開発できるほどにうまい
これは魔の法を操るうえではかなりのアドバンテージとなるじゃろう
回復だけではなく、真の魔法使いとしての素質まであるとは思わなんだ
しかしまあ、わしからすればひよっこもひよっこ
卵ですらないわ
「さてアネモネよ。今日から一日に10匹ワイバーンを倒してくるのじゃ」
「分かりました師匠。でもなぜワイバーンなのですか? 他の魔物ではだめなのでしょうか?」
「ふむ、まずワイバーンは亜竜の一種じゃからな。魔力への耐性が高い。魔術の中位から上位レベルを扱うのにちょうどいい。それと、肉が上手い」
「確かに! さすが師匠です」
う、純粋な目やめてほしいのじゃ
じゃが今言ったことは本当じゃ
魔術の練習にはもってこいの魔物なんじゃよ
「では行ってまいります!」
「ま、待て待て、一応これを持っていけ」
「これは?」
「わしが作った通信用宝珠、要はマジックアイテムじゃな。遠くにいてもわしと話せるぞ。まあないとは思うが、もしもの時のためじゃな」
「ありがとうございます!」
わしはアネモネを見送り。早々にAランクになるためギルドへ依頼を受けに行った
あの時の三つの依頼で無事Bにはなったが、わしレベルともなればすぐにSランク、いや、それ以上のランクでもいいはずなんじゃが、そう簡単に認証できんのがヒト族の難儀なところじゃのお
魔物の世界なんぞ強いか弱いか、それだけじゃ
めんどくさい、本当にめんどくさいわ
師匠に言われ、走ってあのワイバーンの生息地へやってきました
このくらいの距離、元レッドホーンクイーンの私の脚力をもってすればあっという間です
あら? 私も師匠の慢心癖が移ってしまっているようです
師匠の強さともなると、慢心してやっと周りのレベルに、ようやく、本当にようやく落ちると言ったところでしょう
私なんかが慢心してはいけないのです
ワイバーンたちをおびき寄せるため、師匠に習った魔力をエサにする方法を試します
少し魔力を放出しただけで大量のワイバーンがこちらに向かって飛んでくるのが見えます
「ばんごは・・・、私の修行の糧になってもらいますよ!」
十数頭のワイバーン
群れと言うには少ないので先遣隊か何かでしょう
「ホワイトレイン!」
私は少し前に開発した魔術で迎え撃ちました
それは氷柱を雨のように降り注がせる
一匹だけ倒しきれませんでしたが
「ていっ」
蹴りで倒しました
私の蹴りは岩をも砕きます
さらに魔力を放出すると、今度は先ほどのものより大きな個体がニ十匹ほど飛んできました
明らかに今倒したものよりも強いワイバーンです
それらは今倒したワイバーンたちを見て怒り、こちらに咆哮をあげています
「弱肉強食、あなた達は焼肉定食ですけど。クリムゾン!」
真っ赤な炎がワイバーンを包み込みます
ジュワァとお肉の焼けるいい匂いがしますね
こんがりと、いい塩梅に焼けたワイバーン
「調理の手間が省けましたね」
何匹かは死にきれずにもがいていたので、苦しまないようとどめを刺しました
焼けたワイバーンを手早く解体して、美味しくいただきながらもう一段階魔力の放出段階を上げました
すると、今度は今まで見たことのないほどに巨大なワイバーンが登場したのです
あれはワイバーンに間違いなさそうですが、あの大きさは今まで見たことも聞いたこともありません
ですが、魔力の感じからして丸焼きにしたワイバーンより少し強い程度でしょう
「お食事になっていただきます!」
これほどの大きさのワイバーンともなると、身も熟成されていて、それはそれは美味しいに違いありません
「ブラックホール」
空中に黒い穴が出現して、魂を喰らう闇の魔術です
少し危険な魔術ですが、この相手にはこれくらいの力でないと対抗できないと感じたのです
しかし、なんとこの大きなワイバーンをそれを耐えて、私を一瞥しました
「矮小な。我が眷属をこれほどまでに殺戮したのだ。覚悟はできているのでしょうね?」
「あ、ああ」
私は気づきました
このワイバーン、否、竜は
この竜は
力をまるで出していないのでした
そして今少しだけ魔力を流れ出させました
これは、底が知れない
「ああ、ああああ、私は、ここで、死」
白い竜は私に向けてブレスを吐きました
確実に死を覚悟し、全てを諦めたその時、目の前に大きな黒い影が現れたのです
「久しいなアルビオナ」
「お前かティア」
「その名はもう捨てた。それより、長きにわたって沈黙していたお前が、なぜここにおるんじゃ」
「ふん、お前も知っているのでしょう。またしても不穏の種が動き出していることを」
「そのことか。それなら心配いらん。わしの夫となる男が解決するじゃろうて」
「は? は? お前何を・・・、え? ちょ、理解が追い付かないのだけれど」
「わしの伴侶となる男ができた。あれは強いぞ。お前よりもな」
「ふん、お前お得意の戯言か? 話を濁すなティア」
「その名でわしを呼ぶな! わしは・・・」
「まぁよい、それよりもだ。なぜそこな魔人を助ける? そやつは不穏の種の手下やもしれないのだぞ?」
「こやつはわしのものじゃ。お前にはやらん」
「餌か?」
「知れたこと」
目の前の出来事に頭がついて行かず、私は気を失ってしまいました