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第62話

 突然また出て来たあの少女と、もう一人、引きこもりのような見た目の少女

 やはりファンファンを連れて来ていて正解だった

 必ずファンファンを連れて帰るため、また来ると思っていた

「ヒュプノヘライト」

 一瞬の油断が命取りだったのかもしれない

 その少女が放った何かがファンファンを直撃してしまった

「ファンファン!」

「く、ううう、ああああああ!! 来るな、旦那、様」

 ファンファンがガクリと首を垂れる

「ファンファン?」

「ウェヘヘヘヘヘヘヘ!!! だああいせぇえいこおおお!」

 そいつは大笑いし、飛び跳ねて喜んでいる

「何をした!」

「うぇへぇ、怖いなぁ、急におっきい声出さないでよぉ。うう」

 何なんだこいつは

 まるっきり、弱虫な少女そのものだ

 なのに、今の攻撃で、ファンファンから得体のしれない気配が漂ってきている

「こいつはもうあっしのもの! 二度と戻ってこないってこと。お分かり?」

「フフ、こいつは幹部にする。私達と同じ、新しい、仲間」

 ファンファンがゆっくりと頭を上げて、こっちを見る

「ファンファン?」

「誰? お前」

 俺はその言葉にショックを受けた

「邪魔」

 ファンファンに手を伸ばしたが、その手をはたかれる

「ファンファン、どうしたんだ? 俺は、お前の旦那様なんだろう?」

「は? ふざけてんのかよ? 俺が人間の妻? 殺すぞ?」

 威圧が俺を襲う

「ぐう・・・」

 エルフたちはその威圧で動けなくなっていた

「ファンファン!」

「ウェヘヘヘヘヘヘ!! むーり無理―。二度とは帰らないあの夏の思い出! お前のお嫁さんはあっしが頂いた次第でして。ではこれにてあっしらはお暇をいただきたく」

「戻せ」

「へ?」

 俺は何も考えられなくなり、気づいたらその少女の目の前に立っていた

「ひぃ!」

 少女は尻もちをつき失禁している

「あ、あああ、やめ・・・」

「セリ!」

 もう一人の少女がその少女の名を呼び、そしてファンファンが、二人を抱えて、赤の山まで走り去って行ってしまった

「ファン、ファン・・・」

 俺は深い喪失感の中地面に膝をついた

「カ、カズマさん」

 ギロリとエルフたちをにらむ

「きゃっ」

 怒りのぶつける先が見当たらない

 俺は今、どんな顔をしている?

 恐怖に震えるエルフたちをみて自分がどんな顔をしているのかを理解した

 ひとまず落ち着くため、深呼吸をする

 あの少女の失禁した臭いが鼻をついてきた

「許さない。俺の、大切な家族を」

 怒りは何とか抑えたが、もう一度あのセリとかいう少女に会ったとき、冷静でいられる自信がない

「ファンファンを元に戻す方法を、知らないか?」

「あ、えっと、その、もしかしたら族長様なら、知っているかもしれません」

「じゃあ教えてくれ」

「は、はい、すぐに」

 すっかり怯えているエルフたち

 だが今はフォローしていられるほど穏やかではいられない

 すぐに里に戻り、族長の元へと走った


「ひぐっ、えぐっ、ごわがっだーーー、ああああん」

 泣きじゃくるセリ

 でも彼女は目的を果たしてくれた

「なにあれぇえ、あれなにぃいい」

「私も、分からない。あんなのがいるなんて、知らなかった」

 あの人間、前に見たときは明らかに人間で間違いなかった

 それが、あの禍々しい力

 アレは、なに?

 私達魔人と同等の力・・・

 あのまま戦ってたら、セリは確実に、死んでいた

 あんな、あんなの・・・

 アレは、一瞬だけだったけど、人間じゃなかった

 もしアレともう一度対峙することがあるなら、私が倒さなきゃ

 私も未だに、体が震えてる

「大丈夫か? 俺がいい子いい子してやろうか?」

「うう、そうしてくれたまいたまえぇ」

 仲間になったファンファンに抱きかかえられ、頭を撫でられるセリ

「何かお前臭いぞ。風呂入れ風呂」

「あ、そうだねぇ、一緒に入ってぇ」

「いいぞ」

 ファンファンという鬼魔人

 洗脳されているにもかかわらず、かなりの自我が残ってる

 でも洗脳自体はしっかりと、かかってるみたい

 セリのこの力は弱点がほぼないと言っていい

 セリが死んでも、その洗脳は解けることが無くて、私達のいう通りに動く

 しいて言うなら、セリが洗脳の力を、使う前に倒されれば、洗脳できないってことくらいしか、弱点がない

 つまり、このファンファンという鬼魔人は、完全に私達魔王側になった、ってこと

 私の力じゃできなかったけど、魔人を増やすという目的は、達成された

 オレガ様も、きっと喜ぶ

「私、オレガ様に報告してくる」

「んにゅ、あっしはこの子とお風呂ってくるねぇ」

 ファンファンを連れてセリは自室へと戻って行った

 私は鼻歌交じりにオレガ様のいる、城の最上階へ

 オレガ様の部屋は、毎日、お付きのメイド兼、右腕の、バジルーシャが、綺麗に整えている

 彼女はオレガ様の部屋のま隣に部屋を構えていて、献身的にまだ力の戻らない、オレガ様を支えている

「オレガ様に、報告」

「ミンティか、成果はあったんだろうな?」

 今日は、ララか

「うん、私の手柄じゃないけど、セリが、うまくやってくれた」

「なんだ、あいつもう落ち込んでないのか?」

「うんもう大丈夫」

「そうか、オレガ様はまだ疲れておられる。先ほどまで歩く練習をしておられたのでな」

「大丈夫、お体に障らないよう、手早く済ませる」

「そうしてくれ」

 オレガ様の部屋の扉をそっと開ける

 そのご尊顔を見れるだけで、私達魔人は、天にも昇るかのような、気持ちになれる

 オレガ様は、相変わらずお美しかった

「ミンティ、大丈夫? つかれていない?」

「はい、オレガ様も、お顔色がずいぶんと、良いようですね」

「ええ、皆のためにも、早く復帰しなくちゃいけないもの」

「もったいないお言葉です」

 私はすぐにオレガ様に今までのことを報告した

「そう、鬼魔人のファンファンちゃんね。仲良くなれそう?」

「・・・。所詮は洗脳です。心を真に、掌握などできません」

「ええ、分かっています。でもそれは、悲しい、とても、とても・・・」

 オレガ様は、優しすぎた

 だからあの時・・・

 この方は一見すると女性か男性か分からない見た目をしていて、その実、どちらでもない

 性別というものは、この方にとって些末なもの

 神のような力を持ち、女神のような慈愛を持つ

 それが、魔王オレガ・ノーティラウス様だった

「それで、その男性というのは」

「はい、私が対処します」

「そう・・・。絶対に無理はしないで。私の、前で、もう二度と」

「分かっています。決して、あなたの前から、またいなくなったりしません」

 最初に死んだ私は、オレガ様を一番悲しませたと、聞いた

 もう二度と悲しませない

 だから私は、あの男を、危険なあの男を、なんとしても、倒して、無事帰ってくる


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