アネモネ聖女への道
二日目、王都のギルド内
「ふむ、ほれ見よこれを」
「これは?」
「これはクエストボードと呼ばれる、冒険者への仕事依頼が書かれた掲示板じゃな。ここにある回復系のクエストを全部受けるぞ」
「え!?」
「なーにを驚いとるんじゃ。数をこなせまずは」
「はい!」
ふむ、素直じゃな
ん? わしがなぜ冒険者のことやクエストボードを知っておるかって? そんなものちょいちょい人間に化けてやってたからに決まっておろう
まぁ化けれるようになったのがここ最近じゃからな
冒険者としてのランクはCじゃ
異例の速さと言われたが、なぜわしがこんな下位のランクなのかと不満ではある
じゃがまあヒト族のルールに会わせてやろう
わしは器が大きい竜じゃからな
「あらアルク様、そちらの方は?」
「ああ、こやつは大魔法使いたるわしの弟子じゃ! 回復魔法の才能があるからそれを伸ばしてやろうと思うてな」
「それは素晴らしい考えですね! しかしですねぇ、この方・・・」
「アネモネじゃ」
「アネモネさんはまだ冒険者登録がお済みではないようです。まずは登録をお願いできますか?」
「もちろんです」
アネモネは受付嬢に言われるがまま冒険者登録を行った
種族の欄はミノタウロス族と書いて置けと指示しておいた
「これで登録完了です! 最下位のFランクから始めていただきますが、アルクさんのお弟子さんならきっとすぐランクも上がりますね」
「うむ、師匠は大魔術師で超一流の先生でもあるからな。明日にはわしともどもSランクにはなるじゃろう」
「アルクさんなら本当になってしまいそうです。では頑張ってくださいね!」
「すぐ依頼を受けたいんじゃが」
「はい、どれですか?」
アネモネにクエストボードから剥がした依頼書を渡させる
「ふむふむ、治療所がメインですね。それから・・・。あ、これは駄目です。Aランクの依頼ですのでアルクさんでも受けれませんね」
「む、わしじゃぞ? 稀代の天才大魔法使いアルク様が受けると言っておるんじゃ。なんとかならんのか?」
「だめです。規定ですので」
「ふむ、じゃあ今日中にAランクになるぞ」
わしは受けれなかった依頼以外の依頼書をかっぱらうと、アネモネの腕を引っ張ってさらにクエストボードでBランクの依頼書を数枚引きちぎって来た
「ほれ、これとこれとこれじゃ」
一応自分のランクの一つ上なら受けれるらしいからな
これだけ受けて成功すればAには上がるじゃろう
「助かります。あの戦いでの負傷者は多いですし、奇跡の光の範囲外で治癒されなかった方たちも多いですから」
奇跡の光、か
これはカズマの力によるものじゃ
あやつの謎スキルによって光の範囲にいたものは、部位欠損や死の淵からも回復しておる
幾人か意識があった者が、その光のことを奇跡の光と称したらしい
じゃがその奇跡の光にも範囲がある
街全体を包めるほどじゃなく、他の街の負傷者にしても、わしだけでは治しきれんかったからな
現在絶賛人手不足と言うわけじゃ
加えてまだまだ魔物の活性化が収まっておらん
原因自体が取り除かれておらんのじゃから当たり前なんじゃがな
「では受付完了いたしました。でもこれ一日でできます? 相当大変ですよ?」
「わしじゃぞ! 任せておけ!」
「アルク様、私はどうすれば?」
「お前は今すぐこれとこれとこれ、それからこれ、これ、これ! 全員治してこい! いいか? イメージじゃイメージ。お前は元々他者を助けたいという気持ちが強い。ならばその気持ちを形にしろ。お前ならできる」
「はい!」
適当なこと言ったがなんか納得してくれたのぉ
まあ実際数をこなさねば強くはなれん
それに今渡した依頼書の治療依頼くらいなら今でも十分できるじゃろうて
まあ魔力は絶対もたん
いかに魔力を制御してこの依頼を一日でこなすか?
それも修行の一環というわけじゃ
わしってほんといい師匠じゃな
さて、わしはわしのやるべきことをしようかのぉ
この三つの依頼
レッサーキマイラの討伐、マッドゴートの乳しぼり、アースリザードの皮の納品
どれもこれもわしにとっては雑魚も雑魚じゃ
注意点はマッドゴートの乳しぼりじゃな
力加減を間違えて殺してしまっては乳は搾れん
あとは殴り一撃じゃな
「それじゃあ行ってくるからの! アネモネ、わしはお前に期待しておる。お前ならできる! 頑張れ!」
「はい!師匠!」
ふむ、昔のわしならこんなことは言わなかった
いや、仲間なぞ、あの頃には・・・
ランスよ、あの時わしは・・・
わしは過去の記憶を振り払うかのように頭を振って、アネモネの背中をポンポンと叩いてギルドを出た
アネモネの案内はギルド職員がしてくれるじゃろう