目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第55話

 フェナンに連れられて移動してきた

 ファンファンには集落の護衛として残ってもらうことにした

 どうやら進化したことで里のエルフよりも強くなったようで、もし何かが襲ってきたとしても対処できるだろうとの判断だ

 そして赤の山だが、結論から言うと赤の山は瘴気が発生していて、ヒト族では入れない

 魔物の因子があるなら何とかなるそうだけど、そんなヒト族は存在しない

 かつて魔王が率いた魔人という人型の魔物ならば難なく入れるとのこと

「私達も監視するのが関の山です。年々ほんの少しずつですが、浄化はされているのですが、魔王との戦いやダークドラゴンとの決戦で赤の山は不毛の地となりました。勇者の死因も一部では瘴気症と呼ばれる症状に蝕まれ、ダークドラゴンとの戦いで彼の心臓を止めるほどに瘴気が体に蓄積されたからだと言われています」

「じゃあどうやってその目撃された魔人を探すんですか?」

「その魔人は特定の場所からしか出現しません。ですのでそこで張ります」

「ところでイリュゥさんの姿が見えないんですが」

「ああ、彼女は先にその場所へ向かって監視してくれています。私達、監視が得意なので。それと、カズマさんに女性と思われていなかったのがショックだったみたいで、着替えに時間がかかってるようで」

「う、それは、本当にすみません。でも確かに、気配を感じなかったもんなぁ」

「それを言ったらカズマさんのあの気配を消す薬もすごいですよ。何せ私達が気づかなかったんですから」

「ハハハ、もしよかったら今度提供しますよ」

「それは族長も喜びます! ぜひ!」


 赤の山が見える場所からその魔人出現場所へと移動した

「来たか。今のところ魔人は出て来ていない」

 イリュゥは女性らしい可愛い服に着替えていた

 太ももまで隠れるフリル付きのスカートワンピースに、リボンを付けてポニーテールにしている

 こうしてみると可愛い女性だ

 顔も童顔だからリボンが良く映える

「その服、よく似あってますね。可愛いです」

「う、あ、その、あ、ありがとう。見返りは出ないぞ」

「ハハハ、そんなつもりで言ってませんよ。それより魔人はそんなにしょっちゅう出て来るんですか?」

「ああ、小柄な魔人だが、魔力はすさまじいものだった。私達では対処できんほどの力をもっているんだ」

 この二人は俺から見てもかなり強い

 剣や魔法の腕だけならレナより上だろう

 そんな二人をしても勝てないと言わしめる相手と言うことは、あの黒いオークたちより強いということか

 白いオークはたまたま竜が倒してくれたと聞く

 うーむ、魔人の強さの底が知れないな

「それで、魔人が出てきたらどうするんですか?」

「ひとまずは後を付けて、何を企んでいるのかを知ります。今後の傾向と対策を練るためですね。魔人は出てきた後必ず赤の山へと戻って行きます。何をしているのか分かれば次に出てきたときに対抗できますからね」

「まあ何をしているのかは想像がつく。そちらのファンファンさんやアネモネさんは元々魔物だろう? それが人型へと進化した。これをかつては魔人化と呼んでいたんだ」

「魔人化?」

「ああ、魔王が生きていたころだな。魔王は魔人を増やすすべを持っていたんだ」

 衝撃的だった

 じゃあファンファンもアネモネも、ヒト族じゃなくて魔人?

 ならアネモネも進化をさせられたということなのか?

「通常魔物は人型へと進化しない。ヒト族が進化してより強いヒト族になることはあるが、それは魔人化とは違う」

「ファンファンさんたち二人は恐らくここの魔人に何らかの実験を施されたのではないでしょうか?」

 心当たりがあった

 ファンファンやラナが言っていた小柄なヒト

 それがこの赤の山から来た魔人だったとしたら

 ん? だがそれだと一人おかしいな

 アネモネは、誰に進化させられた?

 彼女から怪しい人物に会った話は聞いていないし、旦那様のおかげでと・・・

 どういうことだ?

「あの、アネモネはその魔人に会ってないみたいなんだ。それってもしかして」

「あ、そ、そ、それはその」

「もしかして、魔人がファンファン達を進化させた薬品をこぼしてた?とか?」

「そそそそうです! そうに違いありません!」

「なるほど、それなら確かにアネモネだけ魔人化したのにもうなずけるか」

 ともかくファンファンたちが魔人ってことは絶対に隠した方がいいな

 魔王の伝承を読んでいたから分かる

 人々を恐怖のどん底へと叩き落し、多くの犠牲者を出し、人類せん滅をもくろんで世界に戦争を仕掛けた大悪の根源

 その配下だった魔人たちも残虐で、極悪非道だったと言われている

 危険だ

 もしその魔人がこの赤の山で生まれている?もしくは復活しているんだとしたら、これは世界の危機なんじゃないか?

「その顔、理解したようだな。この件がいかに危険かということを」

 俺はごくりと生唾を飲み込んで深くうなづいた

「引き続き監視を続ける。あなたも警戒しておいてほしい」

「分かりました。それならこれを」

「これは、もしかして気配遮断用の」

「はい。よほど警戒心が強く気配察知に優れた者でない限り見破られないはずです」

「確かに私達も見破れなかった。ありがとう助かる」

 渡した薬を二人はごくりと飲み干した

 この薬、同じ薬を飲んだ者同士なら気配が分かるよう細工してある

 そのためお互いを見失うことはない


 その後三時間ほど監視を続けていたが、とうとうこの日魔人は現れることはなかった

「今日はもう遅い。明日また監視を続けよう」

「カズマさんとファンファンさんのために部屋を用意しています。お風呂もありますから、今日はゆっくりと休んでくださいね」

「ありがとうございます」

 もしかしたら長丁場になるかもしれないな

 アネモネは大丈夫だろうか?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?