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第54話

 アネモネ聖女への道


一日目、カズマ宅


「き、今日からよろしくお願いします!」

「うむ、まず初めにお主、どこまで回復魔法を使える? いや、回復魔法の知識自体そもそもあるのかのぉ?」

「えっと、それは、漠然と使っていましたので呪文や種類なども知らないのです」

「やはりか。じゃが先も言った通りお主には回復魔法の才能がある。溢れておる。だからこそ漠然とでも使えておったのじゃ」

「才能ですか? でもわたしはミノタウロス族です。本来そのような力はないはずです」

 この体になってからたくさん本を読んで勉強しました

 その中には私のようなミノタウロス族に関してもです

 ミノタウロス族で魔法を使える者は希少種と呼ばれ、炎魔法を得意とするそうですが、他の魔法は確認されていないと

 つまり回復魔法を使うミノタウロス族はいない

 まあ私は正確には正式なミノタウロスではないのでしょう

 何せ元々はレッドホーンだったのですから

「なにを沈んでおる。喜べ、お主の力をわしが引き出し、世界でも類を見ない回復術師にしてやろうと言っておるんじゃ。だからそんな顔をするでないブチなぐるぞ」

「ひっ」

「冗談じゃ」

 冗談じゃない顔でした

 何だかこの魔法使いさん、魔力だけではなくて得体のしれない力を感じます

 それでいて、いつもそばにいてくれたかのような安心感もあるのです

 不思議な方です

「さてと、ほれ」

 アルク様はポンと何かを放りました

「え、角兎、ですか?」

「ああそうじゃ。使いこなすには実践あるのみじゃからな。そやつの足を折っておいた」

「そんな! 食べもしない獲物に危害を加えて苦しめるなんて!」

「いやじゃからお主が治すんじゃろうが」

「それでもです! 可哀そうに・・・。今治しますからね」

 私はいつものように、ただ漠然と魔力の塊を手に作り出して角兎の足を治し、森へ放ちました

「ほほう、いつも見ておるが大したもんじゃ」

「いつも?」

「いやなんでもない。その力はどうイメージしておる?」

「イメージといっていいのか分かりませんが、ただ治れと念じています」

「それだけでここまでの回復魔法を・・・」

 アルク様は考え込んでしまいました

 やはり何かやり方を間違っていたのでしょうか?

「よし、呪文や一般的な回復魔法の練習はいらん! そのイメージをもっと伸ばすんじゃ」

「イメージを伸ばす?」

「ああ、お主のその力は魔力を使っておるが魔法ではない。スキルに近いものじゃろう。おそらくじゃが仲間を守りたいなどの思いが関係しておる」

「そういえば・・・」

「思い当たる節があるようじゃな」

「はい、信じてもらえるかは分かりませんが、私は少し前までレッドホーンという魔物でした。しかしこの家の主様である、旦那様が私を進化させてくれたのです」

「まぁ魔物には進化する者もおる。大昔に猛威を振るった魔人たちもそうじゃったからな。つまりお主はミノタウロス族ではなく、ミノタウロス型の魔人と言うわけじゃ」

「魔人・・・? 魔王と共に世界を恐怖に陥れたというあの」

「ん? なるほどそう伝わっておったか。まあヒト族の尺度ではそうなるのかの」

「あなたはなぜそこまでのことを? 歴史書や伝承にそのような話はありませんでした」

 この方は、一体何者なのでしょう?

 邪悪な気配はありませんが、私が魔人だと理解し、かつての魔王を知る

 数千年前のことなどエルフでもなければ知りようがありません

 あ、そう言えばこの方は魔族でした

 数千年生きていても不思議では、ないのかもしれません

「ふふん、わしは初めに言っておったじゃろう。大魔法使いじゃと。魔法とはその名の通り魔の法。魔を自在に操る存在じゃ。現在魔術師共が使うものは魔法とは言わん。魔術じゃ。そういう意味で現代には魔法を使う者は数少ないと言えよう。魔族やエルフ、魔人くらいじゃろうて」

「ではあなたは、その魔法を使う者と言う意味での魔法使い、だと?」

「そう言っておる。わしは大魔法使いアルク。誰も知らぬ大魔法使いじゃ!」

 か、かっこいいです!

 わたしは決めました

 この方を師として仰ぎ、必ずや主様と旦那様をお守りしてみせます

「ふふん、どうやら完全に決心は固まったようじゃな。では次へ行くとしよう」

「次ですか?」

「うむ、街に行くぞ」

「え!?」

「先に大きな戦いがあったじゃろう? まだ傷の癒えていない者や、部位欠損などで戦いの場から退いた者もおるはずじゃ。その者達を治せ。魔力が尽きる一歩手前まで治し続けろ」

「ええええ!?」

「やれ、やらなかったら殴る」

「は、はい」

 アルク様は強引です

 でも、それでこの力を使いこなせるなら、やるしかありません!

 思い立ったら吉日と言いましょうか?

 私は主様達が帰って来ても心配ないように書置きもしておきました

「安心せい、わしの魔法で移動は一瞬じゃ。日帰り可能じゃからして、庭の手入れもできるぞ」

「はい、ではお願いします!」

「いい面構えになったのぉ。わしはそういう者が好きじゃ」

 待っていてくださいね主様、旦那様

 必ずお二人のお役に立つ力を手に入れて参ります

 アルク様の魔法は繊細で、一部の魔力の乱れもないように思えます

 やはりこの方は、とてつもない魔法使いなのでしょう

 移動は心地よく、一瞬でしたもの


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