「ここが我々の里だ。族長が待っている。こちらへ」
「ファンファンさんはこちらへ来てください」
「お? 俺も旦那様と行きたいんだけど」
「だめです。族長は顔を見られることを極度に嫌がるので、人数は少ない方がいいのです」
「むー、じゃあ仕方ない。旦那様、俺はこっちで待ってるぞ」
「ああ、行ってくるよ」
ファンファンはフェナンに連れられ、俺はイリュゥに連れられて別々の場所へ連れていかれた
里の中を歩くと、エルフたちが不思議なモノでも見るかのような顔でこちらを見る
まあ人間族なんてここに入ってこないだろうからな
「あの、ここって外の世界と交流はあるんですか?」
「ええもちろん。定期的に行商人も街に行きますし、人間族と交わった勇者の子孫もたまに来ますよ」
「じゃあ人間族は珍しいってわけじゃないんですか?」
「はい、皆がカズマさんを見ているのはすでにあなたのことが伝わっているからでしょうね。カズマさんは、もしかしたら里を救う救世主になるかもしれませんから」
「きゅ、救世主? 一体何を」
「詳しい話は族長からありますので」
族長がいるという家へ入る
「族長、お連れしました」
「ええ、ええ、知っていますとも、見ていましたとも。よく連れて来てくれました。ありがとうフェナン」
「さぁどうぞカズマさん、こちらへ」
なぜか族長の女性の真横に座らされる
それにしても驚いた
族長と聞いていたから老人エルフを思い浮かべていたけど、とてつもなくきれいな女性じゃないか
「ふふふ、わたくしのことが気になりますか?」
「は、はい、とてもお美しい方だと」
「まぁまぁまぁ、お世辞など良いのです。あなたは老人を想像していたのでしょう? あまりエルフを知らないのならば正常な考えです。わたくしたちエルフは妖精族の一種、老けることはないのです。魔力が高ければ、千年以上生きる者もいるのです。フフフ、わたくしこう見えて数千年を生きておりますのよ」
「数千年も!? 気の遠くなりそうな月日ですね」
族長はフフフと笑い、話をつづけた
「わたくしはルニア。かつて勇者ランスと共に戦ったエルフの聖女リアラスの孫です」
驚いた
生き字引以上の生ける伝説じゃないか
と言うことはもしかして、勇者ランスや、聖女リアラスに会っているのだろうか?
「あの、勇者ランスはどんな方だったんですか?」
「残念ながらわたくしはお会いしたことはありません。わたくしが生まれる前におじい様もおばあ様も亡くなっていましたから」
そうか、、聖女リアラスはその命と引き換えにダークドラゴンの力を封じ、ランスはダークドラゴンとの戦いで相打ちになって死んだんだったな
「さて、世間話はこれくらいにして、実はカズマ様におりいってお願いしたいことがございます」
「俺ができることであれば」
「ああ、ありがとうございます! 実は、赤の山にて魔人の出現が確認されました。あの地はかつて魔王が討たれ、ダークドラゴンと勇者ランスの決戦の地でもありました」
魔人・・・
ランスが生きていた時代には魔王というものがいたらしい
その魔王が率いていたのが魔人と呼ばれる種族不明の者たち
それが、赤の山で確認された? 一体どういうことなんだ?
魔王の消滅と共に魔人たちも滅んだはずなのに
少なくとも、歴史にはそう記されている
「確定要素ではありませんが、あの魔力は、魔人で間違いないと思われます」
「ルニア族長は魔人の魔力を感じる力を持っているんです。おばあ様から受け継がれた力だそうです」
「なるほど、それなら信ぴょう性が増しますね」
だが問題はそこじゃない
そんな危険な魔人と言う脅威に対し、なんで弱い俺を頼ったのかって話だ
俺を監視していたなら当然分かっているはずだ
俺に戦闘能力は皆無だってことを
「カズマ様、どうか、わたくしたちに力をお貸しください」
「俺は、戦えません。でもポーションや武具を提供するくらいなら」
「まぁ! それでは協力していただけるのですね!?」
「はい、そんなことで役に立てるなら」
正直始めた会った彼女たちに突然力を貸してくれと言われ、はい分かりましたとは素直にはいかない
しかし俺にとってもメリットだとふんだ
エルフしか作れないという秘薬、それの製造方法を教えてもらえるかもしれない
それに彼らの細工技術も学びたい
あとはそうだな、ここまでの道中で誠実な二人のエルフを見てだけだけど、彼らは信用に値すると思ったんだ
だってそうだろう? 俺に言うことを聞かせたいなら力ずくで事足りるんだからな
俺を観察してきた二人なら、俺がいかに弱いかを知っている
道中でなくても家で取り押さえればいいんだ
二人の実力は今のファンファンには劣るが、進化前のファンファンなら圧倒していただろう
当然同じくらいの実力のアネモネもだ
無理矢理ではなく対話で交渉する
それなら臆病な俺も安心できるからな
俺とルニア族長は固く握手を交わし、ひとまずオレが手伝うことで後に受け取る報酬の話となった
そして俺が望む報酬はもちろん、秘薬の製造方法や金細工やその他細工へ魔力を込めてマジックアイテムに変えるやり方などだ
細工の方法はともかく、秘薬の製造方法は断られるかと思ったが、すんなりオッケーしてくれた
と言うことで、俺も全力で協力することにした
アネモネには悪いが、もう少し留守番をしてもらうことになりそうだ