ふぅ、このでかいのと留守番か
まあわしがいれば何物をも寄せ付けはせんがな
アネモネは鼻歌を歌いながら庭の花や作物の手入れをしとるわ
こやつの回復魔法をもう少し底上げしてやりたいんじゃが、どうしたもんかのお
アネモネには回復魔法の才能があるんじゃが、本人が伸ばそうとしておらん
使えることは理解しておるようじゃが、伸びるということは分かっておらんみたいじゃな
まぁ何とかしてやろう
わしは散歩に行く要領でアネモネから離れて森の方へ走る
「あらルカちゃんお散歩? 行ってらっしゃい、気を付けてね」
「なん!」
なんとまあポヤポヤしたやつじゃ。じゃが覚悟するがよい、お主を超一流のヒーラーとして育て上げてやろうではないか!
家から離れた森の中でわしは変化の魔術を使った
そう、今猫に化けているのもこの魔術じゃ
とはいっても猫の姿は魔力消費が非常に少ないからずっと猫でいられるんじゃが
今なら人型にも化けれよう
魔術を発動してわしは人型へと変化した
「ふむ、なかなかにいいぞ、動きやすいわい」
わしは水魔法で鏡を作り出し、自身の姿を見る
長い黒髪に真っ赤な瞳、褐色の肌のヒト族のメスになれたな
人間族じゃが、ふむ、魔法の扱いと言えばエルフか魔族がいいか
わしは捻じれた角を生やして魔族のメスへとなり切った
ちなみにバインバインじゃ!
わし? 元々メスじゃよ?
今の魔力なら一週間は人型を保てるじゃろうが、通いのような形で教えるのがいいじゃろうか?
いやできればあそこに泊めてもらう形がいいかもしれんな
そうじゃな、たまたま森に来ていた冒険者で、アネモネの力を見抜いた魔法使いとでも名乗るか
名前はどうするか・・・
そうさのお・・・、アルクとでも名乗るか
ルカのアナグラムになっておるし、魔族たちの名前に似た響きになったわい
わしは意気揚々と家へ戻り、たまたま家を見つけた体を装ってアネモネに話しかけた
「もし、そこの御仁」
「はいー、えっと、どちら様でしょうか?」
「わしは旅の魔法使いアルクじゃ! 少し困ったことがあってな、森で魔法薬の材料を探しておるんじゃが、もしよければ採集し終える間泊めてはもらえんかのお」
「街でしたらすぐ近くなのでそちらにどうぞ」
「あ、うん・・・」
そういやおっとりしとるように見えてこやつしっかり者じゃったわ
まあ怪しい魔族を泊めることはせんじゃろう
「わかった、街の方へ行ってみるとしよう。どっちじゃ?」
「あちらです」
「ふむ、ありがとう。してお嬢さん、お主回復魔法が使えるな?」
「ええまあ、あまり強力ではありませんがある程度なら」
「ふふん、お主には回復魔法の才能がある! 魔法の研究をして数百年のわしが言うんじゃから間違いない!」
「数百年、そんなに・・・。魔族の方はエルフの方と同様長命種と聞きますから変な話、ではないですね」
「うむ! そこでじゃ、お主、回復魔法をわしから習ってみぬか?」
「え!?」
「無理にとは言わんが、強力な魔法は大切な者を守る力となる。どうじゃ?」
「・・・」
考え込むアネモネ
まあ答えは分かっておる
じゃからこそ、大切な者を守る力と言ったんじゃからな
「あの、あなたは一体」
「言ったじゃろう? しがない旅の大魔法使いアルクじゃ! ふふん、わしから魔法を学べるなぞ、今までそんな輩はおらんかった。お主は運がいい!」
詐欺師のような口調で言っておるが、これは本当のことじゃ
竜の、それもダークドラゴンからの教えを乞えるのじゃからな
「・・・。旦那様を、守れる・・・。お願いします!」
「うむ! いい返事じゃ!」
わしはとりあえず街に泊まると言って街の方へ向かい
1時間後に戻ることを約束した
フハハハ、わしの部下として働いてもらう予定なんじゃ
そのための投資は惜しまんぞ
アネモネの回復魔法は教会の癒術師などとは比較にならんほどに強力じゃ
そして才能もある
このわしが育て上げれば世界に名を轟かすような、あのエルフかそれ以上の聖女になることじゃろう
ん? わしの手で聖女を生み出す、のか
ふーむ、いやまあよい!
この世界を手に入れるためにも、わし一人では成せぬ
それはあの時痛感した
勇者ランス
やつは仲間や、出会って来た人々との絆というものを力にしておった
当時のわしからすれば、なんと弱者らしい言葉を吐く男じゃと思っておったが、仲間の力、絆や愛と言った力は侮れん
その力に、かつてのわしは破れたんじゃからな
ランスよ、わしは、お前に教えられたのじゃ
1時間後
アネモネの元へと戻るわし
「あの、あなたが本当に大魔導士なのかも、良い人なのかも分かりません。ですがあなたからは、何か母親のような優しさを感じます。ですから、その、私を鍛えてください!」
「よく言った! わしの修行は厳しいぞ」
「はい!」
母親のような優しさ、じゃと?
このわしがか・・・
だいぶ毒されたようじゃ、この終末を呼ぶ竜と言われたわしが
じゃが・・・
悪くは、ない