二人は俺にペースを合わせてくれていて、藪や小枝を魔法で避けてくれるおかげで歩きやすい
この森を守るエルフだけあって自然を大切にしてるんだろう
やたらめったらに木々や植物を切ったりはしない
フェナンの魔法は植物を操るものらしく、彼女の意のままに動いているようだ
しかし順調に進んでいたのもつかの間、やはり魔物が飛び出してきた
こいつは知っている
確かムシャラゴという巨大な蚊の魔物
普通の蚊と違って甲殻があり、強靭な前足で獲物をガッチリつかんで、尖った口を体に刺して血を吸いつくす
ランクはCで、ファンファンなら倒せるだろう
「トルネード!」
イリュゥが風魔法を放つと、小さな竜巻が起きてムシャラゴを包み、バラバラに切り裂いてしまった
「私達は護衛も兼ねていますので、どうか安心を」
「すごい、ミリアの魔法と同程度かそれ以上だな」
「ミリアさんのことも観察していましたが、あの方はまだまだ魔法の制御が荒いようですね。そのうち制御方法をお教えしたいものです」
「それはミリアが喜びそうだな」
どうやらレナ、フィル、ミリアもエルフたちに監視されていたようだ
まああの三人、かなりの頻度で来てたからなぁ
その日は数体の魔物と戦闘になったが、どれもフェナンとイリュゥによって一撃で倒されていた
さすがエルフと言ったところかな
この辺りの魔物なんて問題じゃなさそうだ
日が暮れ始めたところで野営をし、ご飯を食べた
食事の片づけをした後二人が寝床を組もうとしていたが、俺は空間収納からテントを取り出した
いくつか入れておいたのが役に立ったな
これは冒険者時代に金をためて買ったものだが、すぐに冒険者を辞めたから使ってなかったんだよな
で、エルフたちの方には俺が作ったものを渡した
片手で持てるほど軽いが、強度はオークが全力でつぶしにかかっても潰れないくらいある
フェナンが結界を張ってくれたから、見張りは大丈夫だそうだ
この結界、この辺りの魔物なら一切通さないらしい
交代で見張りをしようと思っていたからこれはありがたい
テントだけだと寝る時に痛いので作っておいた布団も一緒に出す
全員に布団を渡して眠りにつく
ファンファンは俺に寄り添ってギュッと抱きしめて来た
ホント可愛いなこいつ
俺はこの子の頭を優しく撫でてゆっくりと眠りへといざなわれて行った
しかしその眠りを、フェナンの悲鳴が遮った
「キャァアアアアアアアアア!!」
闇をつんざく悲鳴に飛び起きると、フェナン達のいたテントが吹っ飛んでいて二人が地面に倒れていた
「あれは・・・」
フェナンの結界を破って入って来たのは真っ白なオーク
まだ生き残っていたのか
「グギヒヒ、やはり正解でした正解でした。死んだふりで生き延びた逃げ延びた。そしてエルフと言うこの上ない収穫。いずれあのミンティも我が手中に」
なんだこいつは、しゃべるオーク?
「これでも私様は礼儀をわきまえておりましてね。これから殺害させていただく相手には敬意を表し、名乗ることにしております。私様はオークイモータル。死なないのが取柄でして、おかげで失敗作と偽りミンティの手から逃れることができましたよ」
「ペラペラと、何をしゃべっている。邪悪なオークめ!」
イリュゥが立ち上がってレイピアを抜き、斬りかかった
「グヒギギ、いいですねぇ、ここまで上玉なエルフ2匹、連れ帰って減ったオークの繁殖に使いましょう」
「この、下劣がぁああ!」
ブツリとレイピアが心臓を刺し貫いた
「おお、急所をあんなに的確に! さすがエルフ」
俺は喜んだが、イリュゥは驚いた顔をしている
「言ったでしょう? 私様は不死不死身、その程度では死なぬのです」
イリュゥはそのまま掴まれ、ギュッと毘ぎりつぶされる
「アッガァアアア!」
ギシギシとイリュゥの骨がきしむ音が聞こえた
「くっ、ファンファン、一緒に戦ってくれ!」
「分かったぞ!」
フェナンは最初の一撃で頭を強打して気絶している
彼女も早く手当てをしないと
俺は剣を出し、ファンファンは大剣を構える
今回ファンファンに持たせたのはルドゥエドラという大きな聖剣
国が俺にくれたルーチェホークという魔物の魔石を組み込んで作ってある
能力はザ・ライト
光属性の攻撃を可能にし、魔物相手には絶大な力を示す
ルドゥエドラって名前は、なんか勝手についた
どういう理屈か分からないけどそこはまあいい
ともかくこの武器はファンファンに適していたようで、与えたその日のうちに使いこなしていた
「任せろ、オレはもう負けない」
あの時の敗北から、ファンファンはよく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休み、力を付けて来た
「大剣術奥義、一黙散(いちもくさん)!」
驚いた
あの50キロはある重い大剣を、まるで棒切れを操るかのように振るい、目にも止まらぬ速さで切り刻んだ
音すらも置き去りにして
「く、ぐぉおおおお」
細切れにする勢いで斬り続けるファンファン
いかに不死たるイモータルとも言えど、これなら
「舐めないでいただきたい。この程度! ぐぅうう」
口では強がるが、イモータルはどんどん押されて行き、腕は既に切り刻まれてなくなっている
再生が追い付いていないんだ
「う、もう、限界だぞ」
半分以上を切り刻んだところでファンファンの体力に限界が来てしまった
だがイリュゥは助けれた
腕が折れて気絶してはいるが、命に別状はない
俺はイリュゥを助けだし、背負う
すると背中にぷにっとした感触が
だが今はそんなことを気にしている余裕はない
「ファンファン! これを!」
イリュゥを助け出し、ファンファンに強化用のポーションを渡す
「ありがとうカズマ! これがあれば勝てるぞ!」
ファンファンは再生し始めるイモータルの隙を見てポーションを飲み干した
「ぷはぁ! 行ける、行けるぞ! ぬううああああ!! 大剣術奥・・・、あ、れ? なんか、体が、重・・・」
「ファンファン!」
突然剣をおとし、倒れ込むファンファン
何が起きてるんだ!?
「ファンファン! どうしたんだ! く、助けないと!」
再生がもう終わりそうなイモータルの前に飛び出す
「ふむ、あなたは、ハハ、弱い、弱すぎますね。潰れなさい」
イモータルの拳が迫る
俺は倒れて動けないファンファンを守るように背を向けた
衝撃が・・・、襲ってこない?
「オレの旦那に何してんだ。ぶっころ!」
「・・・、ファンファン?」
「ああ旦那様! 俺が守るからな!」
片腕でイモータルの拳を受け止めているのは、白銀に輝く髪に、白い角
白銀褐色の美しい鬼人がそこに立っていた
「大剣術秘技、覇星(はせい)」
まさか、このタイミングで進化した?のか
たった一振りでイモータルは粉々に砕け散る
「ハッハー! 見たかよ旦那様! これが俺と旦那様の愛の力ってやつだ!」
「これもう、娘として見れないな・・・」
そうぽつりとつぶやいたが、ファンファンには聞こえていないようだ
イモータルは倒したが、エルフ二人の怪我を治さないとな
二人にポーションを飲ませると、すぐに目を覚ました
「ハッ! あのオークは!?」
「え、鬼人? 一体どこから。あなたが助けてくれたのですか?」
「二人共落ち着いてください。こいつはファンファンです」
「えええ!?」
二人共驚くのも無理はない
ヒト族はそう簡単に進化出来ないからな
「この方が、あの可愛かったファンファンちゃん、ですか?」
「うむ! 俺は相も変わらず可愛いファンファンだぞ!」
中身は変わってないな
だが成長著しすぎる・・・
そこでハッと気づいた
「あ、あの、イリュゥさん。その、胸が」
「はい?」
イリュゥの目が自分の胸元に行く
「あ! こ、これはその! 別に隠していたとかではなく、動きやすいようにさらしをまいていただけで! あの、えと、そもそもですね、、女性が行った方が受け入れられやすいと長が、あっとえっと、まあ男性に見えたのは、しょうが、ない、かと・・・」
この人女性だったのか
ハスキーな声だし、言動が男性っぽいから勝手に男性だと思ってたよ
あと、男性に勘違いされるのは慣れているが、やっぱりショックみたいだ
うん、しっかりとフォローしておこう
すっかり夜も明け、テントを片付けると出立した
翌朝
「あと少しだ。今日中には到着するはずだ」
すっかり落ち付いたイリュゥは地図を取り出してみている
「おお、なんですかこれ! 現在地が分かるようになってるし、ここが俺たちがいる地点ってことですか?」
「そうだ。これは私の家に伝わる秘宝でな。半径50キロまでの地点の地図を勝手にマッピングしてくれるんだ。そして現在地と、私達がどこにいるかを示してくれる」
マジックアイテムのことは知っている
魔物から出る魔石ではなく、鉱石に魔力を宿した魔石を使って作られたものだが
「これも魔石が?」
「いや、これは羊皮紙に直接魔力を通す特殊なものでな。この地図の持ち主と認定された者が魔力を通せば地図が使えるようになるという代物だ。だから盗んでも使えんだろうな」
「なるほど、そういうのもあるのか・・・」
今度何か作る時試してみるか
武具ばかり作っているし、そういうマジックアイテムを作ってみるのも面白いかも
それに必要なのは、鉱石か
いや、通常の道具をマジックアイテムに変える方法があるみたいだし、もしかしたらエルフたちに製造方法を聞けるかも
ひとりブツブツと考え事をしていると木に思いっきりぶつかって顔面を強打してしまった
「だ、大丈夫ですか!?」
「旦那様、俺が背負って歩こうか?」
「いや大丈夫だよファンファン。ちょっと打っただけだから」
鼻血を垂らしながら言っても説得力はないが、ポーションですぐ回復できる
そう言えば魔物に鉢合わせる回数が減っている気がするな
「魔物があまり出てこないんですけど、もしかして」
「ええ、もうすぐ里につきます。結界の力が強くなっているんです」
里全体を覆う結界を張ってるってことかな?
そういえばアルビオナ聖国では街自体を結界で囲ってると聞いたことがある
エルフならそのくらいできるのかな
「見えてきました、あそこです」
いや見えて来てないんだが・・・
どうやら彼女たちは視力もいいらしい
「あと1キロほどだからしっかりついてきてくれ」
二人の後ろを歩き、そしていよいよエルフの里へとたどり着いた
「おおお! すごいぞ旦那様! なんてきれいなところなんだ!」
そういえばファンファンは女の子らしく花が好きだったな
ここはたくさんの花々が咲き乱れた美しい土地だった
魔法で木々を操って家を作っているらしく、木を切らずに作っているため木は成長を続けれている
自然と調和した場所のようだ
エルフは俺にとってまだまだ謎の多い種族だ
あまり会ったことないからな
そもそも話したことがないからなぁ
さて、エルフの生活はどんな感じなんだろうか? 楽しみだ