王都シェーリー王城内
「なるほどのぉ、その男の協力と、竜による気まぐれが無ければこの国は滅んでおった、か。ハールよ、その男は此度連れて来てはおらんのかえ?」
「はい女王様。彼は人目を嫌う賢者でして」
「ふむ、では報酬を渡しておいてはくれぬかえ? わらわも感謝の気持ちを直接伝えたいものじゃが、今はここを離れれぬものでな」
「はい、必ずや!」
「何がいいかのぉ? 王よ、何かいいものはないかのぉ」
「その者は魔石を武具に取り付けれるという話であったな。であれば、魔石を大量に提供するとともに、提供した武具の代金に貢献度に対する上乗せ、出来れば爵位を与えたいが、それは本人の望むところではなかろう?」
「ええ、彼は他人のために動き、非常に好青年なのですが、欲が無さ過ぎるのと、人とのかかわりをあまり持ちたがらないのです。こちらが心配になるほどに」
「はっはっは、なれば信頼できる者に持って行かせるがいいじゃろう。王妃、それでよいかな?」
「ふむ、一度会ってみたいものじゃが。まあ機会があれば連れてまいれ」
「はっ!」
シュエリア王国は王政ではあるが、実権を握るのは女王様だ
あの方は歴代でも名君と称えられている
民のことを第一に考えているため、自分たちは質素倹約
本当に、私達は恵まれているな
「では一番信頼を得ているレナ達を向かわせます」
「うむ、それで彼は今どこに?」
「はい、力を使い果たしたためか、彼の家で療養をしています。まだ体が重くて思うように動かないとのことです」
「ふむそうか、。しっかりとねぎらってやるがよい。この国を救ってくれたのじゃからな」
「はっ!」
後日、報奨金を用意し、それをレナに頼んで持って行ってもらうことになった
カズマ宅
目が覚めると見慣れた天井と、心配そうに俺の顔を見るファンファンの姿があった
「起きた! よかった、死んだかと思ったぞ!」
ファンファンは俺に抱き着いてくる
ふわりとした花のいい香りがする
どうやらあの花畑で花束を作って来てくれたらしく、それごと俺を抱きしめてる
「目が覚めましたか旦那様、これを」
「あ、ありがとう」
まだ体が重く、頭痛もする
アネモネが渡してくれたコップにはミルクが注がれていた
それをゴクゴクと飲み干す
心と体に染みわたる味だ
いつも飲んでるブラッドホーンのミルクより美味しい、気が、する・・・
「あの、アネモネさん? これって」
「はい! 体力回復や魔力回復、滋養強壮にもいい私のミルクです!」
「ああ、やっぱりか」
ブラッドホーンのものだと思っていたから不意打ちだったが、ものすごく、おいしかった
だが
「頼むアネモネ、気持ちはありがたいんだけど、やっぱり、その」
「うう、だめですか? 旦那様に喜んでもらえると思いましたのに」
「あいや嫌ってわけじゃなくて、恥ずかしくて・・・。そのなんだ、君は今亜人なんだ。つまり俺たちと同じヒト種だから、あまり女性が男性にそういったことをだな」
「分かりました、控えますね」
「分かってくれてよかったよ」
それにしても、途中から記憶がない
あの後一体・・・
「そういえばレナ達は!? 街は、国はどうなったんだ!?」
「それでしたら皆さんご無事です。冒険者や騎士に多少犠牲は出ましたが、レナさんたちは大丈夫ですよ。それに、街も国も、無事この危機を乗り越えたようです」
「乗り越えた? あれだけ被害があったのに、どうやって?」
「なんでも黒い竜が助けてくれたみたいです。ダークドラゴンという噂ですが、わたしの知識ですと、ダークドラゴンは天災です。人を助けるはずはありませんから、恐らく聖竜や神竜の類だと思います」
「竜が・・・」
黒い竜と言えばダークドラゴンだ
だが、伝承では最悪の限りを尽くした邪悪な竜だって聞くし、多分別の竜なんだろうな
偶然なのかそれとも、この国を守護しているというアルビオナ様なのか
それは分からないが、とにかくよかった
翌日
俺は気絶するまでのことを思い出していた
レナ達と共に王都へ向かって、武具とポーションを大量に提供したのは覚えている
その後、戦力にならないと思いつつも戦いの場へ向かった
そこまでは覚えている
多分最初のオークに吹っ飛ばされでもして気絶したんだろう
その間に竜が助けてくれた
多分それで間違いないだろう
まだ少し、いや、色々と納得はできていないけど、疲れた、なぜか途方もなく疲れて体がずっと重い
今はただただ休もう
幸いアネモネもファンファンも元気に動いてくれてる
ファンファンに料理は無理だったので、アネモネに作ってもらってるが、彼女、料理がめちゃくちゃうまかった
それとラナだが、この子の身の振り方を本当に考えないとな
ラナのことを考えていると扉がコンコンと叩かれた
「どうぞ、開いてるよ」
「カズマさん! もう具合は大丈夫ですか?」
「レナ、いやそれがまだ体が重くてあまり動けないんだ」
「そうですか・・・。あ! 今日は私がご飯作りますね」
「いいのか? 助かるけど」
「はい! これでも自炊はしてますからね。料理は得意なんです! あ、それとは別の話になるんですけど、実は王様から特別報奨が出てまして」
「え!? 俺に?」
「そりゃそうですよ。国が亡ぼレベルの厄災を防いだ陰の功労者なんですから」
「でも俺、武具とポーションを作って、戦いに出て気絶してただけなんだけど」
「何言ってるんですか、その武具とポーションが大きいんじゃないですか! カズマさんのおかげでほとんど死傷者がいなかったんです。あれだけのことがあってこれは奇跡ですよ」
そう言われ、俺は救われた思いだった
俺でも、役に立てるんだな
「取りあえず、報奨の品はこっちの倉庫に置いておきますね」
「ああ頼むよ」
レナはそう言ってこの部屋の隣にある倉庫に荷物を置きに行ってくれた
ドガッという音がしたが、一体王様は何を下さったんだ・・・
その日はレナに食事を作ってもらい、夕食の最中はアネモネがレナに料理のレシピを聞いたり、ファンファンとラナの口についた食べかすを、アネモネとレナそれぞれが拭き取ったり、和気あいあいと過ごして終わった
それとなくラナのことを相談したら、冒険者ギルドで孤児の引き取りや、ギルド経営の孤児院のあっせんなどもしてくれるらしい
でも俺が求めてるのは、ラナの親なんだよなぁ
この子はまだ小さいし、それこそ人間で言う5歳くらいか
まだまだ親が必要な年ごろだ
ファンファンはゴブリンのころから独り立ちし、ゴブリン内ではすでに成人していたからな
だが完全に群れで行動していたラナは甘えたい頃だろう
現にコボルトのころは赤ん坊を除くと一番年下だったらしいし、狩りの仕方もまだ教わってなかったくらいだ
どうにか親になれる人を探してもらえないか、レナがギルドに聞いてくれるらしい
本当に彼女には感謝しかないよ
数日後、フォウさんがうちまで来た
要件はラナのことだろう
「オークの件ではまだギルド側からの報酬が出ていなかったな。君は一応冒険者の資格を持っていると聞く」
「ええ、でも何年も依頼をこなしていないので、失効してると思いますが」
「見せてくれないか?」
「はい」
俺は一応身分証明にも使える冒険者賞を常に携帯している
冒険者としての資格は失効していても、身分証明書としては使えるんだよな
ポケットからカードを取り出し、フォウさんに渡す
「ふむ、ランクはF・・・。最下級だが、一応ゴブリンやウルフも退治しているみたいだな。それで、確かに失効しているようだ。こちらで手続して資格をもう一度有してもらおう。その方がこちらも君を支援しやすいからな」
「ありがとうございます!」
「国を救ってくれたんだからこのくらいはさせてくれ。それとほら、これは君に対する報酬だ。CランクからAランクの魔物の魔石だ」
袋を取り出して渡してくれるフォウさん。その袋の中には大小さまざまな魔石が入っていた
「ありがとうございます!」
これでまた新しい武器が製造できそうだ
ただ、今まで使って来た魔石で最高ランクのものは、オークヒーローのCランクのものだ
あのオークヒーロー、Bランクはありそうだったけど、出て来た魔石はCランクだったんだよなぁ
まあ改造?されてたらしいし、元々の素体はオークだから、本来ならEランク
Cランクの魔石が出ただけでも驚きだ
「それとだな、。その少女、ラナと言ったか? ラナのことなんだが」
「はい!」
ギルド経営の施設に行くにしろ、教会の施設に行くにしろ、俺とは離れることになる
ラナには一応説明したが、幼いためかあまり理解できていないようだ
ファンファンにべっとりと懐いているため、あまり引き離したくはないが、俺が引き取っても、この子を守れる自信がないんだ
「この子は私が引き取ることになった」
「え!?」
「私はかつての戦いで子が産めない体になった。結婚しようとも考えていないが、子供は好きだ」
まあ子供好きなのは見ていれば分かる。ファンファンにあれだけ猫なで声で話てればいやでも分かる
だがありがたい
彼女はファンファンに会いによく来てくれるし、ギルドマスターならこの子を育てる余裕も十分にある
彼女の仕事中はギルド内で受付嬢に見てもらえるみたいだし、安心だ
「ラナ、こっちに来てくれないか」
「はい!」
素直でいい子だ。きっと受付嬢たちにも愛されるだろう
「実はな、ラナはこれからこのお姉さんの娘になるんだ」
「ラナ、この家出て行くの?」
「ああそうだ。私が今日からお母さんだ」
「お母さん?」
ラナはじっとフォウさんを見つめる
「ど、どうかな私は? 君のお眼鏡にかなうかな?」
「分かった! ラナこの人と行く! でも、ちょっとだけここにも来ていい? ファンファンお姉ちゃんに会いに」
「そこは大丈夫だ。私もファンファンに会いに来るから、その時一緒に来ればいい」
「ほんと!?」
尻尾を振るラナ
どうやらフォウさんのことは気に入ったらしく、さっそく彼女の膝の上にちょこんと座っていた
「では私が今日から君のお母さんだ。ママでもお母さんでも、隙に呼んでほしい。むしろ呼んでほしい!」
「うん! じゃあママ?」
「ふぉおおおお!」
興奮するフォウさん
元々コボルトだった彼女は、本来の両親以外にも群れで育てられている。そのため他の人が母親になるということをすんなり受け入れられたんだろう
フォウさんなら安心してこの子を任せれる
少し寂しくはなるが、ここから街まではそう遠くないし、いつでも会えるのがいい
「オレもまた会いに行くぞ! オレも将来冒険者になるからな!」
そう言えばファンファンに冒険者について聞かれた時に色々話してやったら、目を輝かせていたな
この子の強さならいい冒険者になれるだろうな
と言うわけで、俺は特別待遇のような冒険者、つまり依頼を受けなくても抹消されない冒険者として登録され(たまにギルドから鍛冶や薬剤作成の依頼は来るかもしれないとのこと)、ラナは無事フォウさんの娘となったのだった