「あ、あれは、オークヒーロー・・・。そんなまさか、オークヒーローが20体だと」
1体だけでも相当な強さを誇っているオークヒーローの群れ
そいつらは歴戦の冒険者や、騎士たちを軽々と蹂躙していく
「皆さん離れてください! 魔導士たちの混合魔法で迎撃します!」
騎士団と冒険者の魔導士たちの魔力が高まってる。今までに見たことがないくらいに
「総員退避!」
ハール団長が声をあげて怪我人を運びながら引き上げる
「アストロ、ファンタズム」
全ての魔力を使ってしまうけど、今魔導士たちが撃てる最大限の広範囲上位魔法
天体魔法とも呼ばれていて、まるで星々の瞬きがそのまま落ちて来るかのような、美しくも恐ろしい魔法
その輝きがオークたちに一斉に落ちて行った
「あ、はぁ、直撃、やりました」
魔力がなくなって倒れ込む多くの魔導士たちを支えて皆が離脱
すさまじい土煙が上がっていて、オークたちが見えないのだが、声がしなくなったから倒せたのだろうか?
土煙が収まり始め、オークたちのいた場所をよく見ようと目を凝らしていると、突然何かが飛んできて私の胸を貫いた
「ぐふっ、こ、これは?」
胸に大きな穴が開いて、そこから血が吹き出るのが見える
「私の、心臓が・・・」
意識が遠くなり、確実に死が訪れる足音を聞いた
そこで完全に意識が消えた
「フォウさん! 駄目だ血が止まらない!」
大きな体なためひこずって彼女を安全地帯にまで連れて来る
血が全然止まらず、魔導士の回復魔法でも全然傷口が塞がらない
このままじゃ、フォウさんは
「どきなさい。私が見ます」
「あなたは、リップさん!」
魔物を見ても暴走していない? いや、必死に耐えているのか
彼女の通った後の怪我人は全員が回復させられている
「最上位回復魔法、フルヒール」
フォウさんの胸が塞がって・・・
「嘘、なんで? 私の魔法で回復しきれない! このままじゃフォウさんは」
「グフハハハ! 当たり前だ。私のスキルの一つ、回復不能を付与した石で貫いたのだからな」
「喋る、オーク!?」
そのオークは体毛が白く、神々しさまで感じた
他のオークと違い下秘めた笑みを浮かべることもなく、その顔は聖人のよう
「あなたは?」
「私はオークたちのリーダー、オークセイヴァーのカヴァロ。オークの未来のため、ヒト族には滅んでもらう。私の役目は、オークを救うことである!」
救世主、まさか魔物にも生まれるなんて
聖人、聖女、救世主、勇者はごくまれにヒト族に生まれ、人々を、世界を救う者とされている
ならば魔物に生まれたモノの使命は、人々の蹂躙と、世界の破壊
「大人しく攫われておけ、その娘はもったいないが、これは戦争でもある。犠牲は致し方ないことであろう」
今の俺では勝てない。相手は圧倒的な強さを持っている
幸いにも女性は丁重に扱いそうな雰囲気。ここはまだ息のあるフォウさんのためにも一旦引くのが吉なのでは?
「あきらめないで下さい団長!」
キールが駆け付けて俺の前に飛び出して、槍を構える
「ああそうだなキール」
「敵の殲滅なら任せてくださいな」
リップが修道服を脱ぎ、かなり際どい格好になって立っている
「恐らくそのオークを倒せば・・・。私も戦います。鮮血のリップと謡われた実力、見せてやるわこのクソ豚がぁあああ!!」
「おい行くぞ男ども! こいつブチ殺す」
「は、はい」
リップは空間収納からギザギザとしたのこぎりのような剣を取り出して構えた
「おいクソ豚ぁ、ズタズタに切り刻んで文字通り豚のエサにしてやんよぉ」
「せ、性格変わりすぎでしょうこの人! 怖いんですけど!」
「黙ってろクソ野郎! おら合わせろや! 牙流剣術、牙牙牙(ガガガ)ァアアア!!」
「き、騎士流剣術、双雷連撃!」
見たことのない剣術。あの動き、まるで獣のようだ
「ぐむ、ほほお、私の体に傷をつけるか。お前はいい母体になりそうだ。是非とも私の嫁にしたい」
「ああ!!?? ブチ殺す!」
二人の攻撃を難なく受け止めて反撃してくるカヴァロ
「動きが単調だな」
「ウオラァアア! 疑疑牙牙(ギギガガ)ァアア!!」
ザザザンと音が響いて、カヴァロの肉が裂ける
「グムゥ! 救世スキル、安寧!」
ふわりとした優しい魔力がカヴァロや、周りで魔導士たちの魔法によって倒れていたオークたちを包み込む
すると傷口が回復し、戦闘不能になっていたオークたちは立ち上がって来た
「皆の者、手を出すでないぞ。この人間どもは私がやる。トワイライトエンド」
まばゆい光が周囲を包み込む
目がなれるとそこには、腹を腕で貫かれて宙ぶらりんになっているキールと、殴られて地面に倒れているリップさんの姿が・・・
「まだだ! この! 剣術奥義! 狼王爪(ろうおうそう)!」
俺の中で最も強い攻撃のはずだった、カヴァロはキールを放るとその腕であっさりと防いでしまった
「な!? 冗談だろう?」
俺はカヴァロのたった一撃のパンチで飛ばされ、骨を粉々に砕かれて動けなくなった
「さて、お前たちは一緒に来てもらおうか」
リップを担いだカヴァロは俺とキールとリップを部下に託して、自身は街へと足を進めていってしまった
そこからは悲惨で、男性は戦闘不能にされ、女性は攫われて行った
カズマさんの寄こしてくれたファンファンちゃんも、アネモネさんまでも、オーク数体を倒すのがやっとだったみたいで、カヴァロには何もできずに・・・
戦える者は全滅してしまった
俺は戦いが始まったことを理解した
大きな音がここまで響いてくる
「ラナ、怖いよぉ」
その音を聞いてまだ幼いラナは怯えていた
「レナ、ファンファン、アネモネ・・・。皆無事だろうか?」
心臓がとんでもない速さで脈打っている
痛いほどに
「だめだ。こんなところにいたんじゃ、俺は、また駄目になってしまう。レナ達が、俺を頼ってくれた。たとえ役に立たなかろうと、俺はここで戦わなきゃダメなんだ」
震える足を奮い立たせて、剣を杖のようにして立ち上がる
この剣は特に強い魔石がついているわけじゃあない俺の護身用の剣だ
そしてもう一つ、なぜか俺は包丁も腰に下げた
本当に何故だかわからないが、これが必要だと思ったんだ
「ラナ、隠れているんだ。俺も行ってくる」
恐怖で震えているラナの頭をそっと撫でて、俺はギルドを飛び出した
すでに一般市民の避難は済んでいるため、周りに人の姿はない
街を駆け抜け、俺は戦場となっている峠を目指して走った
峠について俺が目にしたものは、すでに全滅している騎士たちと冒険者の姿だった
そんな彼らを回収していくオークたち
「コイツ、死んでる? 持ッテイク、ノカ?」
「救世主様ノ、命令、持ッテク」
なんだよ、なんだよそれ、まるで人々の死体を、モノのように
騎士の女性の顔から生気が一切感じられず、確実に死んでいるのが分かった
彼女の腹にはぽっかりと穴が開いている
「う、ああ、俺は、また、また守れずに! 俺は、俺が弱いから、俺のせいで! レナ達と約束したはずなのに、俺は、俺は!」
体が、熱い
視界がぼやける
何も見えないけど、何かが視える
✕✕✕スキル、限定解放
イザナミ
他の街のオーク共を殲滅してからカズマや王都の様子を見るため戻って来たのじゃが、なんじゃ、カズマが戦って・・・
あれは、なんじゃ? あれは断じてカズマではない! あの優しいカズマがあのように禍々しいオーラを
「生死反転、反魂ノ法」
カズマの口から勝手に言葉が流れ出ておる
左腕から黒いドロドロした何かがあふれ出して、それが女の死体を担ぐオークに向かって行き、オークたちは苦しんで倒れおった
そしてその黒いドロドロが女騎士の全身を包み込むと、体がビクンビクンと動き、彼女はカッと目を見開き、呼吸をし、生命活動を再起動した
「う、あ? ぐ、アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
カズマが頭を抱えて苦しむ
「ほぅ、まだ戦える者が・・・、貴様、なんだそれは! なんなのだその、禍々しい力は!!」
「カズマ、一体何が起こっておるんじゃ・・・。またスキルが、変わりおった」
カズマのスキルを視ておるが、文字がぶれ、✕✕✕スキルという訳の分からないものと、生活スキルの変化が視えた
料理スキル→イワカムツカリ
カズマは右腕で包丁を握ると、真っ白なオークを見据える
「異鳥斬り(いちょうぎり)」
白いオークは油断せず、隙もなかったはずじゃ
気づいた時には、白いオークの右腕がバラバラになって地面に落ちておった
「アレは、なんじゃ?」
「お前は、なんだ!?」
白いオークとほぼ同時に疑問を口に出していた
「沫刃(まつば)おろし」
続いて攻撃しようとしてきた黒いオークを骨と身に分けて切り裂く
「ばかな、強化されたオークヒーロー三体を一撃でだと!?」
治療スキル→スクナビコナ
カズマは次に倒れていて、まだ息のある騎士や冒険者を指定し、その全員を一気に回復させた
何人かピクリとも動かないのを見て、死んでいるのかと思ったが、辛うじて呼吸をしていたため今のスキルが上手く作用したようじゃな
カズマが今使うスキルはどれもこれも知らないものばかりじゃ
なのに使い方は、まるで何年も使って来たかのように、手に取るように理解して使っておるようじゃ
農業スキル→代替え、オオクニヌシ
代替え? おおくにぬし?
代替えの意味も分からなかったが、カズマはこのスキルでオークたちを全て捕捉した
「猛リシ大地」
地面が大きく揺れ、白いオーク以外が地面に空いた穴に吸い込まれる
そして穴はスッと閉じた
「わ、私の、仲間が、オークの、未来が、皆消え、た」
愕然としておる白いオーク
無言で包丁を構えるカズマ
「叛月(はんげつ)斬り」
白いオークを斬り伏せ、カズマはその場に倒れて動けなくなった
何だったんじゃあやつのあの力は
前見たときのものより強力な、死者蘇生すら叶えてしまう謎の力
いや、今は考えるのはやめよう、ひとまずの危機は、去ったんじゃからな