北方都市レナンド
海に面した都市で、海産資源が豊富なこの街は、潮風の街とも呼ばれている
冒険者ギルドレナンド支部
全く、なんでこんな街にオークの群れが攻めて来てんのよ!
男ばっかで女っけもないし、いたとしても海賊みたいに屈強な女ばっかって言うのに(私以外はね)
この街のギルドマスターとして派遣されて3年
街の人達とも打ち解けて来て、屈強な男たちに言い寄られることもあるけど、人々は温かいし住みやすい街
がさつだけど、皆気の良い連中なのよ
彼らがオークに殺されるところなんて見たくない
ここは海辺の町だから冒険者は少なくて、街の防衛戦力はもっぱら海の男たちになっちゃう
私はこれでも一応暴風雨のトレスって通り名でAランク冒険者として活躍してきた
トレス・サンミー、それが私の名前
厳しいギルドマスター試験を潜り抜けて、ようやく落ち着いて危険のない職場に来れたって言うのに
でも、私は戦いたくない訳じゃない
この街を守るためなら命を賭して戦う
その覚悟はある
だけど、戦力が圧倒的に足りない
他の街もオークが迫って来てるから救援は望めない
どうしたら、どうしたらこの街を守れるの?
「姉御! オークの群れがもうすぐそこまで迫ってきてやす! どうしやすか!?」
「私も出る。いい? まず船を用意して戦えない者を全員乗せなさい。戦える男どもは全員出撃。それから、私が攫われても助けに来ないこと。私はこの街の人達が一番大事。みんなが逃げる準備が整ったら戦いから引いて逃げなさい。私が最後の防衛ラインになるからその隙にね」
「し、しかしそれじゃあ姉御が」
「私に構わないこと! いざとなったら魔力を暴走させて自爆して道ずれにしてやるわよ」
「あ、姉御・・・」
そりゃ怖いわよ。私まだ23よ?
恋人だっていないのに死にたくないわよ
でも、大切な人達が死ぬのはもっといや
街を、守るんだ!
私は立ち上がって、報告に来てくれたギルド職員のマストに行くように指示して、長年愛用していた大杖を掴み、鞭を腰に下げて立ち上がる
世界樹の枯れ枝から作られた大杖、イヴ
金華蛇の鱗から作られた蛇鞭(じゃべん)ディープバイン
それぞれ魔力の伝導率が高くて、魔法の力を底上げしてくれる
鞭の方は属性魔法を乗せてそのまま攻撃できる
オーク共に私がなぜ暴風雨って呼ばれてるか見せつけてやろうじゃない
「遅れて申し訳ありません。王都から支援に来ました、騎士のフィルです」
ギルドの扉が開いてやってきたのは、この街にいない騎士
フィルと名乗る、私のもろタイプなインテリ系イケメンくんだった
「え、王都が、この街に騎士を派遣してくれたの!?」
「はい、国の一大事です。団長も国王も救援の支援をしてくれています。人出は、足りませんが・・・」
確かに彼含めて18人の騎士たち
それでも、心強かった
「ありがとうございます! ではともに、街を守りましょう!」
フィルくんに一目ぼれしてしまった私は、良い所を見せようと張り切った
外に出て、街への唯一の道である峠からオークが見えた
リーダーは恐らく真っ白なオーク
見たことのない色のオークね
私は鞭を構えて、しならせて大地を打った
すると大地が隆起してオークたちを襲う
上空に吹っ飛ばされたオークたちを魔法で追撃
「ヘルタイフーン」
隆起した地面から岩を風で浮かばせて、激しい岩の嵐にオークたちを飲み込ませた
「やりますね! では私も! 槍術、応龍撃!」
高く飛び上がって、上空から私の嵐に向かって槍を投げ入れる
槍はその嵐の中を巧みに動いて、まだ息のあるオークを貫いて行った
「すごい、なんて洗練された槍術なの」
多くのオークが(シャレじゃない)私とフィルくんの連携技で倒れる中、フィルくんの槍をいとも簡単に捕らえたオークがいた
あの白いオークだ
「ほぉ、ヒト族にも我とまともにやり合えそうな者がいたか」
「オークが、しゃべった!?」
「我はオークプレデター。この街を蹂躙しに来たわけだが、そこの男、お前とそこの鞭女、お前たちは連れ帰る。ミンティ様への手見上げ、そして我の妻としてふさわしい」
「誰がなるかってね!」
「あなた、かなり強いですね。二人がかりで行かせてもらいますよ」
「無論」
このオーク、鑑定レベルの低い私でも分かるくらいに強い
おそらくSランクに近い実力
でも恐れることはない
フィルくんだって、仲間たちだっているんだもの
それに向かって鞭をしならせたその時、オークが手に持った大剣を地面にたたきつけた
「え!?」
真空の刃が一瞬にして私達の間を駆け抜ける
避けきれなかった人たちが手や足を斬り飛ばされて地面に倒れ、もがき苦しんでる
「ふむ、初撃は避けたか」
あの速さ、今はたまたまだけど、なんども避けれるものじゃない
「レイドディザスター」
今度は大剣を横に薙ぐプレデター
そこから真っ黒な靄が出て、靄が死体になったオークたちに覆いかぶさる
すると死んだはずのオークたちがむくりと起きあがって来た
「ひっ、ゾンビ!?」
「そのようですね・・・」
「我は無敵の軍勢を作り出すことができる。大人しく我に従った方が身のためだぞ」
恐らくこちら側の死体も操る死霊術系のスキルなんだと思う
そうなると、死体が増えれば増えるほど、あいつに有利に
悩んでいると、突然そのゾンビたちが炎に包まれて、ただの焼きオークになってしまった
「は?」
「あえ?」
「んあ?」
「なっ!?」
私とマスト、フィルくん、そして屈強な海の男たち含め、プレデターまでもが目の前で起きた出来事に頭がついて行かず、そのまま思考停止していた
しばらくして再起動すると、今しがた起こったことを理解して空を見上げた
そこには優雅に空を飛ぶ真っ黒な竜の姿があった
「黒い、竜?」
「なんでやすかあれ、なんであんなのがオークをわざわざ殲滅に来たんすか?」
「私が分かるわけないじゃない! なによもう! 街を守るって意気込んだ私の気持ち返してよ!」
「俺に言わないで下さいってぇ姉御ぉ」
「と、ともかく、あの白いオーク一人になりました! 好機です!」
フィルくんが槍でプレデターを攻撃しようとすると、プレデターは竜に掴まれ空高く飛んでいった
「やめろ! 放せ! なぜこんなところに竜が!」
竜はそのまま上空でプレデターを引き裂き、喰らった
戦いはあっけないほどすぐに終わって、フィルくんも報告のために帰って行っちゃった
それからしばらくオークたちの焼けこげた死体を見て回ったけど、生き残りは無し
取りあえず死体は食料になるから持ち帰るとして、あとは他支部への報告よねぇ
竜が助けてくれたなんて報告、言っても信じてもらえないかもしてないけど、事実だからしょうがない
あ、フォウさんなら信じてくれるはず
あの人は私のお姉ちゃんみたいなもんだしね
「トレスの姉御、俺竜って初めて見たでやすよ」
「私は一回見たわよ。冒険者してた頃にね。まあ遠くから飛んでるとこ見ただけだけど、あれ襲われてたら今こうしてギルマスなんてできてなかったわ」
「ハハ、姉御がビビるってよっぽどっすね」
「なによそれ、舐めてんの? あと姉御ってのやめて! マスト私より一回り以上年上でしょう!」
「いやぁだってその性格、思わず姉御って言いたくなるから仕方ないんすよ」
「このアホ!」
「いてっ」
ゲシッと足を蹴ってフンスと鼻をならし、私はオークの死体回収作業に戻った
これ、街の食料何か月分だろう?
まぁいつも魚ばっかだから、街の人達も喜んでくれるよねぇ
久しぶりのオーク肉に喜びながら、死体と魔石を分けて空間収納に回収していった
冒険者時代から使ってるこの空間収納のマジックアイテム
昔の遺跡で見つけたものだけど、容量は大きいし、種類ごとに分かれるし、まさしく国宝レベルの代物
現代でこんなの作れる人ってエルフの数人くらい
それも数十年に一回できるかできないかってレベルの大秘宝
私は運が良かった
古代遺跡にはときたまこういう秘宝が眠ってたりするから驚きよね
昔の人達ってこういうのバカバカ作り出してたのかしら?
全ての死体を回収し終えて、私はギルドに戻って報告書を作成
私はこの事件の後処理もあるから、マストに報告書と書簡を持って行ってもらうことにした
「じゃあ行ってきやすね姉・・・、ギルマス」
「はいよろしい、行ってらっしゃい、気を付けてね」
また姉御って言おうとしたから睨んでおいた
マストはすごくいい人だけど、私を姉御姉御って言うのが玉に傷ね
さて、報告書、あれでいいと思うけど、信じてくれるかなぁ?
フィルは帰りの道中、竜のことを思い出していた
「あれは間違いなく伝承にあるダークドラゴンです・・・。一体なぜ今復活し、私達を助けるかのような動きを見せたのでしょう?」
疑問は尽きないが、ひとまずは王都への報告のため、帰路を急いだ