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第44話

 商業都市マルデン


「ニイ! そっちだ!」

「はい先輩! 槍術、春風!」

 避難誘導を終えた私達は冒険者と共に門を守っていた

 まだ戦いが始まったばかりだって言うのにすでに押され始めてて、冒険者達の顔にも恐怖の色が見え始めている

 それでも私と先輩は、あきらめるわけにはいかない

 この街は孤児だった私を拾って育ててくれた第二の故郷

 ここには私が育った孤児院がある

 孤児院の先生はアルビオナ教会の神父様で、名前をオアスさん

 子供達がまっすぐ育って行けるのは彼が孤児院で子供達を温かく見守り育んでくれているおかげ

 私の幼馴染も現在孤児院で働いてる

 私にとって大切な場所

 それをオークなんかに壊させたりしない

 私を捕まえようと迫る腕をかいくぐってハルバートで斬り飛ばしていく

 虎獣人だけど体が小さいのがコンプレックスだった

 それを先輩は長所だとこの小さな体を使った戦い方を教えてくれた

 大好きな先輩の護る街

 絶対にこの門は通さな

 ドグシャァッ

 私は何かに押しつぶされ、動けなくなった

 体に激痛が走ってる

 足が全く動かない

 薄れそうな意識の中自分の体を見ると、腰から下が潰れて内臓らしきものがはみ出ていた

「ニイ! そんな」

「ゴフッ、せ、ん、ぱい」

「しゃべるな!」

 口から真っ赤な鮮血がドバドバと出てうまく話せない

 あ、だめ、意識が消えそう

 私を踏みつぶしたのは他のオークの5倍はある巨大オーク

 周りにいた冒険者を吹き飛ばし、踏みつぶし、門を破壊しようと動いている

「わ、私の、ことは、いいか、ら、街を、守って」

 先輩は悔しそうに目をギュッとつむり、私をそっと寝かせると

「あいつらを殲滅してすぐ戻る! だから、絶対死ぬな!」

「ま、か、せて、大丈夫、そうそう、死んだり、して、やんない、か、ら」

 先輩は巨大オークの背中に飛び上がって、剣で刺し続けて巨大オークを一体倒した

 けど、すぐに横にいた別の巨大オークに掴まって、地面にたたきつけられた

「あ、せんぱ、い」

 動かなくなった先輩

「今回復しますわ!」

 泣きそうになる中、突如後ろで声がする

 貴族令嬢のような話し方

 振り向くと見知らぬ魔導士の女の子が立っていた

 私は痛みも忘れ、聖女のような彼女に見入った

「騎士団魔法部隊の増援、27名到着いたしましたわ! 見せてくださいまし!」

 その子は先輩の体に触れる

「これなら、ハイヒール!!」

 みるみると血色がよくなって、折れていた骨が治って行く

「これでしばらく安静にしていれば治ります。申し遅れました。わたくしミリアと申します。あなたもかなりの重傷ですわね。わたくしがいてよかったですわ」

 私のへしゃぎ潰れた下半身がみるみる治って行った

 あれほど意識を失いそうになった痛みまでもがもはやない

「すごい、教会で高位の神官に回復してもらう時みたい」

 昔大けがをしてかかったことがあるけど、その時に頼んだ神官に勝るほどの回復魔法

 この子、すごい

 その時、上空で何かの鳴き声が大きく高く響いた

 それは気高い竜の咆哮

 私の目に映ったのは真っ黒で、全てを闇に包み込みそうな巨大な竜だった

 竜はその場にいたオークを引き裂いて噛み砕いて、踏みつぶして、一歩的に蹂躙していった

「あ、はは、竜まで出て来て、もう、だめ、かも・・・」

 恐怖で怯える中、竜は突然魔法を私達に放った

「ひっ!?」

「何ですのこれは!?」

 まばゆい光が引くと、まだミリアちゃんが回復していなかった冒険者や騎士たちが立ちあがってる

「動ける?」

 ほとんど死にそうになっていた人たちが不思議そうに自分の体を見ている

「どういうこと? 何で竜が、私達を助けてくれてるの?」

 これは紛れもなく、今オークを襲っている竜からの回復魔法だった

 竜は冒険者達を守るようにオークを攻撃して、傷ついた者に回復魔法をかけている

「ニイ! これは一体」

 ミリアちゃんと一緒に先輩もこっちに来る

「分かりません。何が起きているのか、こんな、こんなことって・・・。もしかして、あれがかつて勇者ランスを導いた神竜、アルビオナ様、なのでしょうか?」

「アルビオナ様ですの!? あれが・・・。いわれてみればなんと神々しいお姿なのでしょう」

「そうかもしれない。あの竜は俺たちを守ってくれている。間違いなくアルビオナ様だ!」

 先輩のその声で冒険者たちから歓声が上がる

「うおおおおお!! アルビオナ様ぁああ!!」

「アルビオナ様ありがとうございます!!」

 その歓声を聞きつけた竜が戻ってきた

「その忌々しい名前を口にするでないバカヒト族どもがぁ!! ブレスで消し飛ばすぞ! わしはル、じゃなかった。ダークドラゴンじゃ! お前らの味方でも何でもないわ! ただわしが支配しようとしているお前たちを、こんな豚どもに蹂躙されるのが癪だっただけじゃ! 分かったら街にすっこんでおけ! オーク共はわしが殲滅してやる。他の街にきてるやつもな! 王都の方はわしの部下が守るから心配するでない!」

 なんだろう、伝承と違う気がする

「先輩、ダークドラゴンの伝承ってどう書かれてましたっけ?」

「ああ、ヒトも魔物も関係なく殺戮する悪の中の悪と聞いていたが・・・」

 言動からもまるで私達を守るためだけに来たみたいな感じ

 しかも他の街も守るから心配するなってもうそれは守護竜じゃないの

「と、ともかく危機は去ったが、あの口ぶりだと別の問題が出そうだな」

「ですよね、ダークドラゴンの復活と脅威。この国だけの問題じゃないですもの。うちの国でも、それどころか世界中が大騒ぎになりそうですよ」

 ダークドラゴンの復活と言う大問題だけど、それよりも今は生き残り、街が守られたことを喜ばないとね


 援護に着たはずのミリアは、ただただ竜によるオークの蹂躙にあっけに取られて立ちすくんでいた

 ちなみにこの街を襲っていたオークたちのリーダー、オークレイダーは、名乗りを上げることもできず、最初にルカによって噛み砕かれ、絶命していた


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