商業都市マルデン、冒険者ギルド
隣国のメイガ王国からたまたま来ていた元Aランク冒険者にして、王都メイガのギルドマスター、ニイ・フタツ
虎の獣人で、虎獣人にしてはかなり小柄な160センチという身長
自分の背よりも長いハルバートを得物として戦う
勇猛で優しい性格で、弱い民を守るために動ける人物だ
「そんな!? ではそのオーク共はもうすでに近くまで来ているというのですか先輩!」
「すでにメイガ王国にも早馬で伝令が行っている頃だろうが・・・」
「確実に、間に合いませんね」
私はメイガのギルド長として赴任してからまだ日が浅い
そのため冒険者の先輩であるマルデン支部ギルド長のウノ・ドースさんに享受を受けるため来ていたんだけど
そこでたまたま起こってしまったオークの群れによる襲撃
まだ街にまで到着してはいないものの、事態は相当深刻
「アラン、すぐに住民の避難のために領主様に連絡を!」
「はい!」
さすが先輩、判断が早い、けど
「状況はかなりまずい。国が亡びる瀬戸際といってもいい」
私はハルバートに手をかける
かつて倒した竜種、フレローサのミスリル並みの硬さの鱗から出来たレジェンドクラスのハルバートで、名前をそのままフレローサ
刺し貫いたものを芯まで凍らせたり、周囲に氷の柱を出したりできる
私の長年の相棒
オーク程度なら数百体でも屠って見せるけど、率いているのはSランクらしき特殊個体
私一人でどうにかなるとは思えない
当然先輩も出るだろうけど、それでも元Aランク二人
この街にいるBランク冒険者やAランク全員が束になって勝てるかは分からない
手詰まりかも
「呆けている場合じゃない。今は少しでも街の人々を逃がすことに集中するんだ」
幸いなのはこの商業都市マルデンは国境に近くて、メイガまで徒歩で一日か二日ほど
急げば十分彼らを逃がす時間はありそう
「マスター! 報告完了しました!」
「領主様はなんと?」
「一人でも多くの人々を逃がすために私兵も動かすとのことです。すぐに避難誘導を始めましょう」
「ああ、行くぞニイ」
「はい先輩!」
先輩の後に続いて私は人々の避難誘導を開始した
レナ達と共に王都へとやって来たわけだが
本当に俺も戦うのか?
いや、俺はあくまで後方支援で、ポーションや武器、防具を作って彼らに提供する
工房はこちらにもあるらしい
「カズマさん、こっちです。ギルドの工房を使ってください」
「ああ、ありがとう。そうだ、今俺の家にあったありったけのポーションと武具を持って来た。これを渡してくれ。まあ俺のつくったものがそこまで役に立つとは思えないけど、こんなポーションでもないよりはましだ」
「そんなことありません! カズマさんの作るものはこの街の一流の生産者でも作り出せない特別なものです! あなたは、あなた自身の力をもっと信じてください!」
「はは、そう言ってもらえるとなんだかすくわれる気分だよ。よし、張り切って作るから、ジャンジャン持って行ってくれ!」
俺はレナのおかげで少し自信が湧き、ギルドの工房へと入った
「よくぞ来てくれたカズマさん! すでに炉に火はくべてある。錬金設備も、薬剤の調合設備もなんでも使ってくれ!」
急に大きな声がしたと思ったらフォウさんが立っていた
設備の周りには俺の手伝いとしてギルド付きの錬金術師やら鍛冶師やらが複数人俺を歓迎するように出迎えてくれた
「では始めます」
俺はまず鍛冶設備で武器を打ち始めた
「では団長、私達はそれぞれの街へ援護に向かいます」
「ああ頼んだ。お前たちの実力なら、もしかしたら街の危機も防げるかもしれんが・・・」
「団長?」
「いや、死んでくれるなよ」
「はい、でも私達は、この国を守る騎士です。人々を守るため、この命を全力で燃やします!」
レナはそういうと、俺に手を振り出て行った
「あの、もしかしてレナ達はそれぞれ別の街の援軍として出かけるんですか?」
「ああ、レナ、ミリア、フィルの三人は現在騎士団の最高戦力といっても過言じゃない。あの三人なら、やってくれると信じているよ」
「そう、ですか」
俺は未だに胸騒ぎが収まらないのを感じた
今回のオークの襲撃はやはり何者かの手が加わっているに違いない
そんな強化されたオークに、本当に勝てるんだろうか?
考えても仕方がない。俺は今、俺のできることをしないとな!
「な、なんて速さだ」
「人の技、なのかこれは?」
「見ろ、もう一振り完成したぞ・・・。嘘だろう、いきなりレジェンドの武器を・・・」
「なっ!? 同時並行で盾まで。こちらもレジェンドだ」
見ていた鍛冶師や錬金術師たちが口々に感嘆し、賞賛するが、カズマはもはや誰の声も聞こえていない
目には火が宿り、まるで何かに操られるかのような動きだった
鍛冶スキル→アメノマヒトツ
その後わずか一時間でこの街の冒険者や騎士たちに十分いきわたるほどの武器や防具が作り上げられ、カズマは倒れ込んだ
「カズマさん!」
レナが彼を抱え起こそうとするより早く、カズマは立ち上がった
「まだ、だ」
彼は薬剤調合の設備の前の椅子に座り、ポーションの調合を始めた
「なんと、見たこともない調合方法だぞ」
「あれは、中級ポーションなのか? いやちがう、あれはフルポーションじゃあないか!」
「こっちはエリクサー、だと? どこの賢者だこの方は!」
カズマの眼には緑の光が宿っている
先ほどと同じくスキルによって動かされていた
薬学スキル→オオナムジ
その後鍛冶の時よりも早く、相当量のポーションが作り出された
周りがあっけに取られて言葉を失っている中、彼はそのまま倒れ、気を失ってしまった
まさかここでも発揮されるとは思わなんだが、カズマめ、今度は意識を保ったままじゃった
本人はまるで自分のスキルのことについては気づいておらんようじゃな
すでにスキルは元に戻っておるが、あの速さでポーションや武具を作り出す者などドワーフでもおるまい
現にドワーフの鍛冶師が目をひん剥いて驚いておるわ
やはりカズマには神が宿っておる
知らぬ神じゃが、このスキル名に何か秘密があると見ておる
まあ今はそういう問題じゃないのぉ
カズマが気を病むのはわしとしてもいただけん
この街はカズマの支援があるんじゃからして、わしは他の街に向かっとると言うオーク共でも殲滅して来るとしようかのぉ
あのレナとかいう小娘、カズマのお気に入りのようじゃしな
そっと抜け出し、森まで戻るとわしは元の姿に戻り、気配や姿を消して飛び立った