ラナを迎え、この家も少し手狭になって来たから、増築することにした
この子についてはいずれレナ達に相談して引き取り手を探してもらおうかとも思ってる
なのに増築ってのも変な話だがな
まあ元々色々と拡張する予定だったからちょうどいい
木はそのためにこの前切って乾かしておいたものが大量にあるから、それで十分足りるだろう
俺は筋力を上昇させる防具を着て大きな丸太を担いで家の横に置く
ファンファンとアネモネも手伝ってくれるから助かるな
ラナはまだ来たばかりだし、小さいから道具を持ってきたり渡したりって簡単な手伝いをしてもらった
そして半日が経った頃、一回り家が大きくなった
思ったよりも速くできたな
ラナの部屋も作ったし、客間も増築しておいた
一応ファンファンの部屋も作ってあるんだが、こいつは俺と寝たがるからあまり意味がなかったかもしれないな
「よーし、皆ありがとう、晩御飯にするか」
少し前にルカとファンファンが取って来てくれたハイオークの肉を角煮にした
これはハッカクに似たスパイスをアネモネが見つけてくれたおかげで出来た料理
やっぱりこの香りがないとなぁ
酒や醤油なんかは俺の料理人スキルのおかげで順調にできてる
味噌なんかももうすぐ作れそうだ
そうすればオーク肉で豚汁なんかもいいかもな
「まぁ! ふわとろですこれ」
「美味しいぞ! ご飯によく合う!」
「ラナ、こんなの初めて」
三者三葉の反応は俺を満たしてくれる
一人がいいと思ってたけど、あれなし。やっぱり家族がいるっていいな
・・・ラナはかなり幼い印象だ
恐らく人間でいうところの5才くらいだろう
まだまだ親が必要な年ごろだが、もうすでに独り立ちできていたファンファンとは違って彼女には甘えられる大人が必要だ
俺ではだめだろう
母性のある、地母神のような女性が必要かもしれないな
レナに、それとなく聞いてみるか
ラナの行く末を考えつつ、俺はとりあえず就寝した
「報告です! シェーリー東、魔の森よりオークの大群が出現。率いているのは見たこともないオークです」
早朝騎士団にそんな報告が入った
私は驚きながらも報告を聞く
「それだけではありません、副都や周辺の街にもオークの大群が向かってきているとの報告です。現在冒険者と協力して最大限の戦力を整えているところですが、あまりにもオークの数が多く、特殊個体も確認されているため、このままでは、シュエリア王国は、滅亡、します」
ハール団長も、キール副団長も、私達も、みんな一様に絶望的な表情を浮かべていた
一難去ってまた一難どころの話じゃない
ゴブリンですら街が滅びるレベルだったって言うのに、オークの大群
国存亡の危機
すぐにハール団長は動き始めて、国王様に謁見する準備を整え始めた
多分周辺国への救難を要請するためだと思う
ただ、今からじゃとても間に合いそうにない
森から出て来たって言うのに発見が遅れたから
一体何でここまで接近に気づかれなかったのかな?
多分だけど、ファンファンたちゴブリンを進化させた何者かが裏で手を回してるんだと思う
ゴブリン襲撃事件の時も空間が裂けてそこから増援が来てたもの
きっと街の近くに転送したんだわ
「レナ、フィル、ミリア。君たちはカズマさんにありったけのポーションや武器を売ってくれないか交渉してきてくれないか? 国存亡の危機だ。国王様も出し惜しみはしないだろう」
「分かりました!」
そうだ。カズマさんの武器やポーションがあれば、もしかしたら何とかなるかもしれない
後払いになっちゃうけど、カズマさんならきっと
「彼に頼るばかりで心苦しいですね。私達にもっと力があれば」
「そうですわね。わたくしも魔法の腕は上がっているとはいえ、まだまだですわ。この戦い、勝たなければ生き残れません。全力全霊を持って挑みますわよ!」
私達はすぐに街を発って、カズマさんの元へと急いだ
私の風魔法で三人とも速度を上げたから、一時間も経たずに到着
扉を叩いて出てきたのは、見たことのない美しい毛並みの獣人の少女だった
「お姉さん誰? ご主人様のつがい?」
ご主人、様・・・
これはカズマさんにちょっと問い詰めないといけないかもしれない
眉間にしわを寄せながら私は扉を大きく開いて中に入り、ファンファンのコップに水を注いでいるカズマさんをひっとらえると、椅子に座らせて彼女について吐かせた
「なるほど、この子もファンファンと同じ・・・。てかご主人様って呼ばせてるんですか!? こんな幼女に! 何考えてるんですか!」
「いや俺は呼ばせてないって。勝手に呼んでるだけで。ファンファンと同じだよ」
「あ」
そっか、そうだよね。カズマさんがそんな変態なわけないもんね
元々魔物だから人と間隔が少し違うんだ
もっとよく考えて動かないと
そして私達はここに来た理由をカズマさんに告げた
なんでこうも問題が起こるんだ
ゴブリンの襲撃があってからまだそんなに経ってないって言うのに、今度は特殊個体が率いるオークの群れ群れ群れ
一つの群れに一個体特殊なオークがいるらしい
王都に向けて進軍しているのはオークセイヴァーという今まで確認されたことのない種
副都にはオークサバイバー、その他の街にはオークレイダー、オークプレデターが向かっているらしい
商業都市であるマルデンに向かうプレデターは、名前からして略奪者的な性質を持っているんだろう
マルデンの近くには国境があり、同盟国のメイガ王国がある
恐らくだが、そちらに協力を求めるはずだが、仲がいい国同士とはいえすぐに救援をよこせるわけじゃない
この距離だとその前に街は襲われて壊滅するだろう
俺は考えたが、武器やポーションを渡す以外に考えが回らなかった
「王都なら近くですね。私達も向かいましょうか?旦那様」
「オレもいくぞ! レナはオレの恩人だからな! 助けるぞ!」
「あ、ラナは、戦い、苦手で、探索なら」
ラナはまだ進化したばかりだし、幼いからともかく、二人なら十分戦力になるだろうし、アネモネには驚異的な回復魔法がある
俺は少し考えた結果、二人を送り出すことにした
そりゃ心配だけど、戦力にならない俺より、二人に任せた方がレナ達の生存力も上がるだろう
「にゃっ! にゅあにゃにゃ!!」
その時ルカが何かを訴え始めた
「何だルカ。ご飯ならもう食べただろう」
「にゅあっ! にゃにゃにゃ!」
ルカは台所に行き、俺の一番お気に入りの包丁を持って来た
「? なんで包丁なんか」
「にゅ!」
ルカはさらに俺がいつも出掛ける時に着ている防具も持ってくる
「にゃにゃにゃ!」
「俺に戦えって言ってるのか? でも俺は・・・」
「にゅあ!」
ルカはまるで俺なら大丈夫だと言わんばかりに背中を押す
今まで俺は戦っても負けて来た
仲間からも見放され、一人で戦おうにもゴブリンすらまともに倒せない
そんな俺が戦いの場に出てどうしろって言うんだ
だがそれでもルカは俺を奮い立たせる
「俺も行く」
自分でも信じられないが、その言葉が俺の口から飛び出した
「本当ですかカズマさん! 心強いです!」
そうだ、戦闘面では役立たずだけど、俺には錬金や鍛冶でポーションや武器を作り出すスキルがある
それならなんとか役に立てるはずだ
「戦えないけど、その他サポートならできる。行こう!」
こうして俺たちは、特に俺は数年ぶりに街に行くことになった