ここは、どこ?
ラナは、なんでこんなところにいるんだっけ?
体が重いし、頭がすごく痛い
ラナは周りを見回した
そこには、友達やお姉ちゃん、父ちゃん母ちゃんの死体が転がっていた
みんな傷はないけど、血を吐いて死んでいる
そんな、なんで?
ラナは自分の口元にも血がついているのに気づいてそれを腕でぬぐった
いつもなら毛のふわっとした感触があるはずなのに、ムニッとした感触
じっと手を見る
あれ? なにこれ、人間族の手?
ラナは傍に落ちていた鉄の斧で自分の顔を見てみる
「なに、これ、これが、ラナ?」
ラナの姿はコボルトから人間族のような見た目に変わっていた
痛む頭に何かが浮かんでくる
種族、犬妖精クーシー希少種
知らない種族にラナはなっていた
「ラナ、どうなったの? 誰か教えて、誰か助けて」
ラナはお姉ちゃんや父ちゃん母ちゃんの死体を見る
みんな優しかった
お姉ちゃんはいつもラナの知らないことを教えてくれて、ラナを可愛がってくれていた
父ちゃんと母ちゃんもそうだ
そんな三人が皆死んじゃって、どうすればいいのかも、何をしたらいいのかも分からない
ラナたちコボルトは魔物だ。ヒト族に狩られて死んじゃうのはよくあること
凄く悲しい、すごく、すごく悲しいけど、強い者が生き残るから仕方ない
途方に暮れている中、優しい匂いが漂って来た
ラナはその中から一番優しくて、一番力強い匂いをたどって歩き出した
匂いを辿って日も暮れ始めた頃、優しい匂いが強くなってきて、ラナは少し小走り気味にそこを目指した
目についたのは、ヒト族が作ったかのような小屋
その中にすごく強くて優しい匂いと、なんか変な匂いと、牛、それと、猫のような猫じゃない何かの匂いがする
ラナはふらふらしながらその小屋の前まで来て、扉を開こうとして、そこで眠っちゃった
朝起きてから朝食の支度をし、ファンファン達と食べていると、扉からガダンという大きな音がした
驚いて扉を開くと、裸の犬獣人の少女が倒れ込んできた
「お、おい大丈夫か!?」
俺はすぐに空間収納から大きな布を取り出して、少女の体を包んでベッドに寝かせた
「アネモネ、そこの扉から赤いポーションを持ってきてくれ」
「はい~」
アネモネが俺の作った中級ポーションを持ってくる
「ほら、飲めるか?」
少女の口に瓶口を当てて飲ませると、少女はパチリと目を覚ましてポーションを奪い、一気に飲み切った
「ケプッ! あ、ありがとう! おいしい、これ美味しいね!」
少女は笑顔になる
それにしてもなんで犬獣人がここへ?
この辺りでは獣人は鬼人と同じくらい少ない
俺も子供のころ以来久しぶりに見たくらいだ
「あれ? ここどこ? ラナなんでこんなとこいるの?」
「いやお前が倒れてたんだろう。とりあえず腹も減ってるだろう。それと、臭いから風呂でも入るか?」
「お風呂、行水? ラナお風呂きらーい」
「気持ちいいぞ! 一緒に入ろう!」
ファンファンが少女を風呂へと無理やり連れて行き、入浴させた
ちょうど朝食の最中だったから彼女の分も用意して風呂上りを待つ
俺はあの獣人に合いそうな服を取り出し(ファンファンに作っておいたもの)、尻尾が出る穴を開けて置いておく
数分後、すっかり綺麗になった獣人の少女が風呂から出て来る
二人共服を着ていなかったので、アネモネに手伝ってもらって服を着せた
着せてから分かったが、この少女かなりの美少女だ
毛は白く、日のあたりかげんでは銀色に輝いて見える
珍しい獣人なのかもしれないな
「さて、まずはご飯を食べろ。そのあと君について聞かせてくれ」
「あ、ありがとう! あちきはラナ! コボルトの、あ、今は違った。犬妖精のラナ!」
少女は獣人じゃなかった
犬妖精? 聞いたこともない
名前は始めから自分で言っていたが、とりあえずはラナに用意した朝食を食べるように言って、みんなで一緒に朝食を食べ始めた
朝食を食べ終わってからラナの話を聞く
「ラナは元コボルトでね! 仲間のコボルトがみんな死んじゃったから、優しい匂いを辿ってここに来たの!」
色々はしょりすぎて分からん!
けど、どうやらこの子はコボルトから進化したらしい
コボルトって犬妖精?ってのに進化するのか
魔物の進化なんて俺にはわからないからどうなのか知らないけどな
「ラナたちね、なんか変な薬もらってね、それ飲んだら、皆死んじゃって、ラナだけ、生き残っちゃった。そしたら、そしたらね。こうなっちゃったの」
薬で、進化!?
「その、薬を飲ませた奴ってのはどんな奴だったんだ?」
「わかんない、顔見えなかった。でもコボルトと同じくらいの大きさだった!」
コボルトと同じくらいの大きさとなると、人間族の子供くらいか
ずいぶん小さいな
ちなみにラナはファンファンより少し低いくらいの背の高さだ
「ラナ、これからどうしたらいい? 群れのボス、死んじゃったし、どうすればいいか分かんない」
途方に暮れた顔でうなだれるラナ
はぁ、乗り掛かった舟じゃあないけど、仕方ない
「ここで暮らすか? 仕事は手伝ってもらうが」
「いいの!?」
「ああ、そのくらいの余裕はあるからな」
「カズマ! つがいはオレだけ! こいつは駄目!」
「いやお前とつがいになった覚えはないんだが・・・。大丈夫だファンファン。妹が出来たと思え」
「妹、オレ姉妹とかいなかったから、そっか、ならいいぞ!」
頭いいのか単純なのか分からないなこいつ
でもまあもしかしたら、変な薬をばらまいてるやつの手掛かりがつかめるかもしれない
この子は優しい匂いを辿ってここまで来たって言ってたし、目の前でその何者かに会ったってことは、匂いを覚えているかもしれないしな
俺はこの新しい家族を迎え、また普段の生活に戻る
コボルトは、失敗、全部だめだった
適応したのも、大したことない
知能の大幅な向上は、見られない
失敗、新しい魔人は、生まれない
オークの成功だけで、喜んでられない
もっと人型魔物で、試さないと
ミンティはニタァと笑い、オークの動向を監視しつつ次の獲物を探して森を彷徨った