オークの行軍が始まった頃、カズマ宅
今日は天気が悪い
まるで何か嫌な気配を運んできているかのような不気味な風
ルカもファンファンも、アネモネも、みんながみんな一様に浮かぬ顔をしていた
「大丈夫かファンファン、アネモネ」
「なんか嫌な感じする。これは、オレのいた洞窟に、あいつが来た時と、同じ感じ。死の気配」
「私もどことなく、胸騒ぎがします」
ルカは毛と耳をそばだてて、警戒している
風はやがて暴風になり、大雨が降り始め、嵐が来た
この家は強化用の薬液をかけているのでこの程度の嵐なら問題ないはず
まあ俺が作ったものだから絶対じゃないけど、この暴風雨でも家が揺れないことから、成功していることは分かった
そんな嵐の中、突然ルカが扉に備え付けてある猫用扉から飛び出し、外に出て行ってしまった
「ルカ!」
俺たちは慌てて出て行ったルカを追う
ルカはまるでついて来いとばかりに先導し、俺たちを案内した
やって来たのは以前オークヒーローを罠にかけた広場
そこには巨大で肌の黒いオークが立っていた
オークヒーローとは違う
そんな生易しいものじゃない
こいつは、レナやファンファンでも無理だ
桁が違いすぎる
震える空気、雨すらもこの魔物を避けているような気がする
「なんだ、ここにいるのは雑魚だけか。人の気配がしたから来てみたものの、外れだったようだ」
「何だお前! オレのつがいに危害を加えるって言うなら、殺す!」
ファンファンは大剣を抜いて斬りかかる
「やめろファンファン!」
ファンファンの大剣は直撃した
避けるそぶりすら見せなかったオーク
その必要すらなかったのか。肩に当たった剣は、まるで鉄でも穿ったかのような音をたてる
肩には傷一つできていない
オークはファンファンを掴むと、そのまま握る
「ガッ! ああああああああああああ!!」
バキバキと骨を砕かれ、血反吐を吐きだすファンファン
「ファンファン!」
オークはファンファンを地面に投げつける
辛うじて生きてはいるものの、全身の骨を砕かれ、彼女はぴくぴくと痙攣している
すぐに助け出そうとしたが、それをアネモネが止めた
「私が戦います。その間にファンファンを」
「ありがとうアネモネ!」
今のアネモネは恐らくファンファンと同じくらいの実力だ
体が大きいとはいえ、彼女はまだヒト型になったばかり
人型での戦い方をまだ理解しきれていない
案の定大斧の攻撃は大振りすぎて簡単に弾かれ、アネモネは蹴り飛ばされた
木にたたきつけられたアネモネは大斧を取り落とすが、それでも立ち上がってオークの動きを止めるためにタックルした
「ぐふっ、は、早く、ファンファンを」
俺は倒れて今にも死にそうなファンファンを担いで下がる
「力は、まぁまぁ強いみたいだが、ミノタウロスか? それにしては弱い」
オークは彼女をまた蹴り飛ばす
内臓をやられたのか、彼女もまた血を吐き出して倒れた
そこに迫るオークの足
踏みつぶす気だ
だが彼女は立ち上がってその足を受け止めると、思いっきり投げ飛ばした
「てりゃああああ!!」
ゴボォと血反吐を吐きながら自分の倍、6メートルはあるオークは尻もちをついて倒れた
「く、ははは、力を見誤ったか? お前ただのミノタウロスじゃあないだろう? いいな、お前は連れて帰ろう。ミンティ様の役に立つかもしれん」
力尽き、気絶したアネモネを一瞥し、こちらに向くオーク
「こっちは・・・。はっ! カスもカス。なんだこのゴミスキルの数々は。生活スキルのみだと? レベルは10だが、ハハハハ! それで戦えるわけがない。にもかかわらずその剣、かなりの業物だろう? なるほど、鍛冶スキルはかなり有用だ。お前も連れて行くとしよう。だがそっちのチビはいらん」
迫ってくるオーク
俺は身がすくみ動けない
このままじゃ、ファンファンが、俺の大事な家族が
俺は過去を思い出す
前世では両親は事故で死んだ
車に突っ込まれて、俺をかばう形で亡くなった
現世での両親もまた、魔物から俺をかばって亡くなった
家族はもういない。そして失うのが怖くて作ることもしなかった
そんな俺にまた家族が出来たんだ。失いたくない
そこで俺の意識は途切れてしまった
ふむ、二人共瀕死の重傷
放っておけば死ぬな
このオークは見たことのない種だな
わしの眼によると、オークハンターか
なるほどなるほど、このオークは特殊個体と言うわけだな
そして、人工的に作られた個体じゃろう
明らかに手が加わっておる
身体強化も異常なほどであるにも関わらず、体にその筋力が収まっておる
普通なら皮膚が裂け、死んでおっただろうが、一体何が関わっておる?
魔族の気配はないが・・・
おっと考えておる場合ではないな。カズマが今にも殺されそうじゃ
全く世話の焼ける。わしの正体はまだ明かす気はなかったんじゃが、こやつを殺されるわけにはいかないからのう
わしは半分ほど戻った力のおかげで少しの間だけ竜に戻ることができる
あの程度のオークならそれで一瞬よ
竜に戻ろうとしたがそこでわしは体の震えを感じた
なんじゃ、これは、いったいナニがいる?
かつての勇者と同等か、それ以上の力
それがわしの後ろで膨張するのを感じた
オークの力にあてられてうずくまっていたカズマが立ち上がっている
意識が戻ったのか?
いや意識はない
わしはやつのスキルを視た
すると生活スキルが変化していく
料理スキル→イワカムツカリ
何じゃこのスキルは
見たことのない名のスキル
効果を見ようにもただスキルの名前が見えるだけで、何もわからぬ
なんじゃ、一体何が起こっておる
立ち上がったカズマは標準の定まっていない目でオークを見据える
そして体がぶれたかと思うと、わしの視界から消え、オークの目の前に現れた
「三舞下ろし」
おかしい、奴に戦闘スキルは皆無のはず
それなのになぜ技を
手に持つのは剣ではなく、長めの包丁
それを使い、一瞬でオークの両手を肩から切り飛ばすと、また視界から消えた
次に現れたのは痛みで叫び出す直前のオークの背後
「世毘羅祈(せびらき)」
オークはカズマによって背中から切り裂かれ、綺麗に肉と骨、内臓へと下処理された
これは、料理スキルなのか?
わからぬ、何もわからぬ
一体こやつは、なんなのじゃ!?
オークを倒すと、カズマは再び意識を失った