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第34話

 赤の山


 くそ、なに、なんで、なんなのよ

 私は荒れていた

 せっかく作ったオークの先兵が何かに消された

 王都の様子、見に行ってもらってた、のに

「荒れてるわねミンティ」

「アロエラ、そりゃそう、だって研究が進まないん、だもの」

「先兵が消されたって言ってたけど、そんな弱い子を使ってたわけじゃないんでしょう?」

「うん、Aランクはあるし、頭もよかった。でも一瞬だった。何にやられたかは、わからない」

 アロエラは私の頭を優しく、撫でてくれた

「大丈夫だってミンティ! お前はできる奴だって! そう落ち込むな。きっと成功するって」

 アロエラの横にいつの間にか立っていた一つ目の、クーミーン

 臭いはきついけど、私の親友

 二人共、落ち込む私を、慰めてくれる

「オレガ様も期待してるわ。ほら顔を上げて。きっと成功するわよ」

 オークでの街の崩壊が目的じゃない

 その先、人間達を素体に、新たな魔物を作る

 私達の目的は、その魔物を強化して、再び、世界に戦争を仕掛けることだ

 遥かな昔

 私達は一度滅んだ

 私も、アロエラも、クーミーンも、その他の仲間も

 みんなみんな、死んだ、消えた

 私達の主、オレガ様も、滅ぼされた

 勇者ランス、それが私達を滅ぼした、敵の名前

 神の槍は死なないはずの、私達のこと如く、魂の核すら砕いて、殺して見せた

 そう、皆死んだ。そのはずなのに

「ねえ、私達、なんで蘇れたのかな?」

「はっはっは! そんなのオレガ様が蘇らせてくれたに決まってるだろう!」

「ええ、オレガ様に不可能はないですもの」

 確かにそうかもしれない

 オレガ様は全知全能

 あの方が私達を甦らせてくれた

 勇者がいないこの未来に

 でも、本当にそう?

 死にゆく私の目には、核を砕かれて、消滅していくオレガ様がはっきりと映った

 アロエラもクーミーンも、私より、先に死んだから見ていない

 私は、はっきりと、オレガ様が核を砕かれたのを見た

 忘れるわけがない

 じゃあいったいなぜ?

 魔王オレガ様と、魔王軍を、復活させたのは、誰?


 考えても分からない

 今は、ヒト族への復讐のため、強力な兵を作るだけ

 全ては、私達を愛し慈しみ、魔族を虐げて来た、ヒト族に反旗を翻し、私達を保護してくれた、愛しい、愛しい、魔王オレガ様のために


 私は研究室に戻ると、実験体として連れて来たオークたちを、見回す

 だいたいは、オークヒーローになる

 オークセイヴァーは一体しか、生まれなかった

 やっぱり素質が、大事なのかも

 ゴブリンは失敗だった

 薬品投与は簡単でいい、けど、強い個体はやっぱりできない

 そう言えば、一匹だけ黒化した個体が、いたけど、あれはどこへ行った、かな?

 まあ黒化したとはいえ、かなり弱かった

 あれでは使えない

 死んだにしろ、逃げたにしろ、あれならヒト族の冒険者あたりに、駆除されて終わり、だろう

 台に寝かせているオークの体を、切り開き、私は新技術、魔石を埋め込んでの、強化を始めた

 1匹目

 私が作った、魔石を埋め込んで、傷口を縫う

 すぐに傷口が塞がった

 魔石の力をうまく取り込んだ、みたい

 超再生の魔石

 一匹目は成功


 2匹目

 真っ赤な魔石を、埋め込む

 埋め込んだとたん体が燃え上がった

 死んでしまった

 失敗


 3匹目

 白い魔石を埋め込む

 体が光るけど、それだけ

 失敗


 4匹目

 別の白い魔石を埋め込む

 オークはカッと目を開いて、拘束を引きちぎって、立ち上がって私を見た

「ぶぐ、ぐげげげげ」

 私を見て、下品に笑ってる

 やっぱりオークは、あのセイヴァー以外は下品で嫌い

 私を襲おうとしたから、首をおとした

 失敗


 5匹目

 目玉のような魔石を埋め込む

 魔眼を与える魔石

 オークの額に目ができる

 成功

 でも魔眼のスキルが、相手を少しの間痺れさせるだけ

 結果失敗


 6匹目

 失敗


 7匹目

 成功


 8匹目

 失敗


 用意していた8匹中、成功は2匹だけ

 超再生のスキル持ちと、爆破のスキルを持ったオーク

 爆破スキルを持ったオークは、オークヒーローとは、別の進化をした、みたい

 二体ともオークセイヴァー同様体色の白化

 オークレイダー、オークサバイバーと、名付ける

 侵略者、生存者という名に、ふさわしい実力

 セイヴァーのお付きに、する

「ありがとうございますミンティ様! 我らこの身を粉にして、あなた様のために尽くします!」

 知能も著しく向上

 この2体なら、セイヴァーのいい部下に、なる

 オークヒーローでは、やっぱり、知能面に、問題があるもの

 レイダーたちにセイヴァーの親衛隊になるよう、指示して、その日の研究と実験は、終わり

 死体を、片付けて、私は自室へと戻った

「お疲れ様ミンティ」

 アロエラが、私の部屋で、飲み物を用意してくれていた

「ありがとう、アロエラ」

 彼女の入れた紅茶、これがまた飲める

 至福の時

 この幸せは、もう誰にも奪わせない

 ヒト族を、殲滅したら、魔族の平和な世界が、訪れる

 オレガ様の理想のために、私達は、何としても、この戦争に勝たなくちゃいけない

 ここの所気を張り詰めすぎてたためか、紅茶がすごく身に染みた

 こころが、晴れやかになる

 アロエラ、本当に、好き

 いつか彼女に、思いを告げたいな


 月が怪しく輝き、虫の声すら響かなくなった静謐な夜

 あまりにも静かすぎた

 その中で蠢く大量のオークたち

 王の椅子に座り、担がれて指示を出すオークセイヴァー

 オークたちの救世主にして帝王

 全てのオークが彼を崇め、神のように奉る

 その脅威度はSランクに近いAランク

 いくつかの街が滅び、下手をすれば国が亡ぶレベルだ

 その大群が、シュエリア王国王都、シェーリーに向けて進軍してきていた

 オークたちが殲滅しようとしているのはシェーリーだけではない

 その脅威は王国全土へと広がろうとしていた

 副都や主要都市へ向けてはオークレイダー、オークサバイバー、オークプレデターが率いる軍が向かっている

 オークセイヴァーの軍だけでも十分国を亡ぼすレベルであるにもかかわらず、その軍が4軍

 たとえ国の戦闘準備が万全であろうとも、生存を諦め、他国へ危険を知らせるのが精いっぱいだろう

「フハ、フハハハハハ! ミンティ様のために! 全ては、あのお方に捧げるために! さぁ進めオークたちよ! オークセイヴァー、バーグの力を分け与えてあるのだ! 全てを壊し、蹂躙しつくせ! 女どもを攫え! 男はミンティ様の捧げものにしろ!」

 オークセイヴァー、救世主たるバーグの能力は配下の強化と、強化した配下が多ければ多いほど自身の力が上がるという、救世の理(ことわり)

 仲間を鼓舞し、自身もその声援にこたえる救世主にふさわしい力であった

 この力が正義に燃えるヒト族のものであったなら、かつてダークドラゴンを倒した勇者ランスのように、絶対的な力を示して人々を導いていただろう

 だがこの力は災悪へと渡った

 正確に言えば渡ったのではなく、意図的に作られた

 これは創り出した科学者ミンティにとっても驚くべきことであり、それ故に彼女のお気に入りでもあった

 ミンティの作り出した進化薬と言う薬には、適合する者が稀にいることが判明しており、このバーグはその一人であった

 そして、ゴブリンだったファンファンもその一人だったのだろう

 ただ彼女の場合、カズマによる強化もなされたため、急激な進化に繋がった

「王都までどのくらいだ?」

「ブギ、も、スコシ、デス」

「ふむ、各自戦闘態勢はしっかり整えておくのだ。王都にはあのゴブリンの大群を打ち破った実力者がいると聞く」

 油断しないように部下達に注意を促し、素早く行軍し、その脅威は王都やシュエリア王国の各地へと迫っていた


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