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第32話

 しばらくぶりにレナが家を訪れてくれたんだが、どうやら俺に会わせたい人達がいるらしい

 一人は鬼人族の大柄の女性

 背は高いが体は引き締まっていて、かなりの強者って雰囲気だな

 険しい顔をしてはいるが、俺を見てぎこちなく微笑んでくれていることから、優しい女性なんだろう

 それにものすごく美人だ

 その後ろにいたのは人懐っこい顔の人間族の男性で、ナイフを腰にさしている

 短髪で背は俺と同じくらいかな

 その横に修道女のような女性

 ニコニコしているが、なんだか怒らせてはいけないような気配を感じる

 俺はレナ達を招き入れて、席に座ってもらった

 それぞれ席に着くと、俺は焼いていた菓子と、紅茶をふるまった

 そんな彼らの横にトテトテとやってきて、当然のように着席して菓子を食べ始めるファンファン

 可愛いなこいつ本当に

 お行儀もかなり良くなっていて、レナ以外はそんなファンファンを不思議そうに眺めていた

「あの、この子は?」

「ああ、俺の娘、みたいなものかな? ファンファン、挨拶して」

「お、分かった! オレはファンファン! カズマの嫁だぞ!」

「な! こんな幼女を! 犯罪者じゃないですか!」

「違います! この子が勝手に言ってるだけで、この子は俺が保護してる小鬼族の子です!」

「でも嫁だぞ。将来結婚するんだ」

「ま、まあ成長してから結婚するなら、自由ですか。それまで決して手は出してはいけませんよ」

「だから出さないって。ところで、あなた達は?」

「む、紹介が遅れてすまない。私は王都のギルドマスター、フォウだ。見ての通り鬼人だな。それにしても小鬼族とは珍しいな。もっと東の方の国に住んでいるものだと思っていたが」

「私はアリア。冒険者で、教会のシスターも務めています。愛称はリップなので、リップと呼んでください」

「俺はこのリップのお目付け役、ギルド職員のビーンだ。君のおかげで王都は救われたと聞いている。ありがとう」

「いえ、俺のおかげだなんてとんでもない。俺は武器を提供したぐらいですし、それすら全然役に立ってなかったんですから」

 本当に俺は何もできていない

 レナ達の力があったからこその勝利だったんだからな


 その後ファンファンは人気者になっていた

 可愛らしい見た目と人懐っこさ

 当然だろう。みんなのアイドルになれる素質があるんだからな、うちの子

 一番気に入っているのはリップさんなんだが、彼女の相性、というか二つ名を聞いて内心ドキドキしていた

 魔物を必ず殲滅することから、鮮血のリップ

 魔物の血で染まる赤い唇

 怖い、怖すぎる

 もしファンファンが元々ゴブリンだったって知られるとどうなっていたか分からない

 だが今は立派な亜人種の小鬼族だ

 リップさんの魔物センサーには反応しなかったらしい

 しばらく話をしていると、牛たちの世話をしていたアネモネが帰って来た

「あら、お客様ですか? 初めまして、ミノタウロス族のアネモネです」

「な、なななななななな、なんですかそのいかがわしい恰好は! 女性がそのように、そんな、ああもう! これを着なさい! そんなに大きく胸をはだけさせて! 恥じらいを持ちなさい恥じらいを!」

 またリップさんが叫び出した

 そして魔法の袋と思われるマジックアイテムから女性用の服を取り出すと、アネモネに渡した

「まぁ、ありがとうございます。早速着てみますね」

 一方のんびりとアネモネはその服を受け取って、奥の部屋で着替えて来た

「カズマさんと言いましたか? 女性を何だと思っているのですかあなたは! あのような恰好をさせて」

 あれ? 俺なんかものすごく怒られてる

 あの格好は彼女が動きやすいから勝手にやってるだけなんだが・・・

 説明する暇も与えられず、俺はただただそのお叱りを一身に受けた


 その後服を着替えて戻って来たアネモネ

 これは、中々に可愛いな

 セーターのような上着と、清楚なロングスカート

 彼女にとても良く似合っているが、胸がパツパツなため、さっきより強調されていて余計にいかがわしく感じるのは俺だけだろうか?

「それでカズマさんはどうしてこのような場所で暮らしているのですか? 街にくればいいのに」

「ああそれは、俺は静かな場所が好きなんです。それに、街に行くと冒険者がいるでしょう? 俺は挫折したので、見てるとなんかこう、辛くなってくるんです」

「あ・・・。すみません。余計なことを聞いてしまいました」

 別に謝らなくてもいいんだけどな

 俺はもう吹っ切れてるし

 いや辛くなるんだから吹っ切れてはないか

 でも諦めはもうついてるし、今はこの生活が俺の将に合ってるって分かったから幸せなんだよな

 ファンファンやアネモネって娘と同居人もできたし

 それから和気あいあいと言った感じで話し、俺の鍛造技術についても聞かれ、魔石を使った技術についても話した

 他言しないと約束もしてくれたし、ギルドマスターもいるんだから大丈夫だろうとの判断だ

 まあもし騒がれたらどっかに移動すればいいだけだ


 私はそこまで鑑定レベルも高くないが、彼に会って驚くことばかりだった

 まず作物だ

 私の鑑定レベルでも分かる伝説上のものばかり

 家の中は簡素で、街にある一般家庭と同じくらいだな

 私達が席についた直ぐ後、奥の部屋に通じる扉が開き、小さな女の子が現れた

 額の角の特徴から恐らく小鬼族だろう

 なんと、なんと可愛い子なんだ

 小さい、椅子にちょこんと座ってる、人懐っこい、キラキラした目

 とてつもなく可愛い

 あ、リップが抱っこしてしまった

 私も、私も抱っこしたい

「あ、あ、あ」

 私がまごまごしていると、なんとファンファンと呼ばれる小さなマイフェアレディが私の膝に乗って来てくれた

「お前、俺と同じ角があるな! 仲間仲間!」

「あ、あ、あ」

 可愛すぎて声が出なかったが、頭を撫でると嬉しそうに目を細めていた

「良かったなファンファン、可愛がってもらえて」

「オレ、可愛い?」

 ファンファンは私を見上げてそう聞いてきた

「ああ! とてつもなく可愛い! 連れて帰りたいくらいだ!」

「それは駄目だ。オレはカズマの妻だから、カズマのそばにいる!」

 ハッ、何を言ってるんだ私は

 リップのことを言ってられないほど暴走していたかもしれない

 だが、なぜここに小鬼族がいるのだろうか?

 まあ大方親に捨てられたか、あるいわ・・・

 小鬼族が住む東の方では争いが絶えないと聞くし、両親を失って彷徨っていたのだろう

 カズマと言う男はこの子を娘のように可愛がっているらしい

 それは見たら分かる

 彼はこの子に親としての愛を注いでいる

 子供が不幸なのはいたたまれない

 この子は良い人に巡り合えたのだろうな

 私は立場上人を見る目はあると思う

 彼は私の見たところ、とてつもないお人好しで、誰にでも優しいが、自分に自信がないと見た

 これだけの高い技術を持っていながらこの自信のなさはなぜだ?

 レナたちに与えた剣も、ただの剣と言ってのけるところから、相当な自信家なのかもと思ったが、言葉の節々に自分を信じれない、自身の無さが垣間見える

 人とあまり関わり合わないことから自分の価値を知らないと見た

 だがそれを分からせ、周知させれば今の彼の平穏はなくなるだろう

 そうか、そのための他言無用か

 優しく穏やかなカズマの平穏を守ろうという、レナ達騎士団の優しさなのだろうな

「ありがとう、話を聞けて良かった。よければこれからも来てもいいだろうか? もちろんファンファンと遊ぶだけだ」

「ああ、それは構いませんよ。ファンファンも喜びます」

 許しが出てよかった

 その時玄関の扉が開いてとにかく大きな女性が家に入って来た

 私もなかなかのものだと自負していたが、なるほど、ミノタウロス族の女性だったか

 彼女はアネモネと言うらしく、おっとりとした性格のようだな

 ミノタウロス族は西の方に住む種族で、小鬼族と同じくこの辺りにいるのはかなり珍しい

 珍しいがいないわけではない

 何度か牛乳を売りに王都にも来ているしな

 彼女たちがつくる牛乳は栄養価も高く、絶品らしい

 アネモネはどうやらここで牛の世話と護衛をしている住み込みの従業員のようなもののようだ

 確かに彼の戦闘力はほとんどないに等しい

 これではゴブリンにも負けるかもしれない

 だがミノタウロス族のような戦いに特化した種族が彼を守っているなら大丈夫だろう

 あまりにも覇気がないからギルドから人をよこそうかと思っていたところだった

 なぜ護衛を出そうかと思ったのか

 それは彼の生活スキルの異常さだ

 レベル10だというのは分かったが、この中で一番鑑定レベルの高いリップが耳打ちで教えてくれた

 彼のレベルは10どころではないかもしれないとのことだ

 スキルのレベルは10が最大のはず

 それ以上は上がることはない

 そんな話は過去一度も確認されていないんだ

 それが、彼のスキルレベルの横には見たことのないマークのようなものがついているらしい

 私の鑑定ではそこまで見えないが、あの作物や農具を見ればその限界突破したスキルレベルもうなづける

 彼の農具は、リップの見たところ、幻想クラスかそれ以上の神話クラスにも達しているのかもしれないとのことだ

 神話レベルは遺跡や高難易度ダンジョンで極々稀に見つかる過去の遺物

 現代作れる者は世界でも数人だろう

 しかもその数人も100回に1回作れればいい方だ

 それを彼は複数作り出している

 あまりにも非常識な生活スキルの数々だ

 一体何者なんだ?

 一見しただけでは本当にただの青年にしか見えないが、必ず何か秘密があるはずだ

 ファンファンに会いに来るというのは本音ではあるが、ここに来る目的は彼の観察も含めている

 一度レベル10の鑑定スキルを持った誰かに一緒に来てもらい、彼のスキルを見てもらってもいいかもしれないかもな

 いや、やはりあまり他の者にはふれまわるべきではないか

 私達は彼にお礼を言うと、私はファンファンにまた来ると言って頭を撫で、彼女に見送られながら帰路についた


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