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第27話

 森の中は入り組んでいて、同じように見える場所が点在してて迷いやすい

 もう何年もここに住む俺は慣れたもんだけど、ファンファンは日が浅い

 それなのに毎日森の中を駆けまわってちゃんと帰ってくるのは、ルカという案内役がいるからだ

 ルカは猫らしくやはり帰巣本能に優れていて、どれだけ遠くに行ってもちゃんと帰ってくるんだ

 我が愛猫ながらとんでもなく賢いと思う

 俺の言ってることも理解してるし、なんなら本当は猫じゃないんじゃないかとすら思う時もあるが、やっぱり可愛い猫なんだよなぁ

 さてファンファンはちゃんとレッドホーンを捕まえてこれるんだろうか?

 レッドホーンの脅威度はCで、ベテラン冒険者なら少し苦労するが倒せる相手だ

 動きも単調で読みやすく、頭部に生えた真っ赤な一本角で追突してきたり、たまに火を吐く

 とても牛っぽくないが一応牛の魔物だ

 ちなみに縄張りを荒らしたりしなければ大人しいため、討伐対象になるのは群れからはぐれて街道などに出た個体くらいだ

 レッドホーンが飼育されているという話は、どこかの田舎ならあると聞いたことがあるが、この辺りじゃ飼育はされていないな


「ルカ、レッドホーンの匂いわかるか?」

「にゃん」

 お、ルカが匂いを辿って案内してるな

 この一人と一匹、中々に良いコンビだ

「んにゃ!」

「そっちだな、行こう!」

 ルカの案内で茂みの中へ入って行く二人

 まいったな、音を出すとばれるから茂みには入れない

 俺は何かこういう時のために道具を持ってきてなかったとバッグの中を探る

「お、これは」

 少し前にゴーストスパイダーという魔物からとった糸で作った大きな布が出て来た

 ゴーストスパイダーは自分の体を透明の糸で覆い、姿を完全に消してしまう特殊な魔物なんだが、ファンファンが取って来たんだよな

 ルカがこの魔物を連れていけっていうから持って来た。とか言ってたな

 俺じゃ絶対に倒せないどころか、捕食されるであろう魔物

 それをまさか倒して持ってくるとは思わなかった

 腹を裂いて糸を取り出し、それでこの布が出来たってわけだ

 案の定被ると姿を隠せるんだ

 透明になれる大風呂敷、って感じだな

 それを被って二人の後ろをついて行く

 便利なことに、この糸で作った布には音を消す効果もあるらしい

 まぁゴーストスパイダーの特性もそうだから、それが効果として付与されているんだろうな

 魔石を組み込めばもっと強い効果がつくかもしれないが、倒すときに魔石を割ってしまったらしいからしょうがない

 二人の後ろをついて歩くこと20分

 道中には蛇型の魔物のウォロースネークやら、狼魔物のウッドウルフも出てきたが、今更Eランクの魔物であるこれらが敵であるはずがない

 ファンファンはあっさりと魔物たちを倒しながらルカの後をトテトテ歩いた

 まぁこれらの魔物なら、一匹程度なら俺でも倒せるからな

「にゃにゃ!」

 ルカが何かを発見して鳴いた

「お、見つけたか?」

「にゃ!」

 ルカの目線の先にいるのは、まぎれもなくレッドホーン

 ただ、オス、なんだよなぁ

 オスとメスの見分け方の違いは単純で、角のあるなしだ

 こいつは角があるからオスで間違いない

「こいつオスだぞ。肉はうまいらしいから倒して持って帰るか!」

「にゃ」

 角を突き立てようと突進してきたレッドホーンを難なくよけ、一瞬で大剣を抜くとそのまま振り下ろして首をおとした

 今、抜くとこ見えなかったな

 ハハ、とんでもない剣術の使い手だようちの子

「よし、収納っと。次はメスで頼むぞルカ」

「にゃん!」

 どうやらこの辺りはレッドホーンの縄張りのようだ

 あ、しまった

 乳牛一匹だけじゃ牛乳は作れない

 雄牛も一緒に連れて帰らないと

 しまったー、伝え忘れてた!

 こんな初歩的なミスをするなんて

 だがそれも杞憂だった

「オスとメス、両方いないとお乳は出ない。オスも連れて帰ろっかルカ」

「なーん!」

 おお、偉いぞファンファン! そうか、いろんな本を読んでたって言ってたな・・・

 何の本読んだ?

 ま、まあそこは気にしないでおくか

 ファンファン達は順調に雄牛の方も捕獲

 強さを認めた相手には大人しくなる特性があるのか? ファンファンに大人しく従っているな

 これは面白い発見かもしれない

 一応書き留めておこう

「お、あれはメスだな! 角がないぞ」

「にゃ!」

 ファンファンが見つけたメス、確かにメスなんだが、なんだあのでかさは

 え、メスってあんなでかかったっけ?

 いやいやいやいや、オスと変わらない大きさだったはず

 それが、なんだこれ、数倍はあるじゃないか!

「よーし、これはいっぱいお乳を出してくれそうだぞ! 倒すぞおおお!」

 やる気満々のファンファンだが、通常でもCランクあるレッドホーン

 それがこの大きさ・・・、あ! 体毛の色も通常種と違って黒に近い赤だ!

 まいったな、変異種じゃないか

 大丈夫かファンファン、危なくなったら逃げてくれ

 仮にクイーンレッドホーンとでも名付けようか

 この特殊個体は足で地面を蹴り、完全に戦闘態勢だ

 そして口からいきなり炎を吐き出した

「うわちちちちち」

 後ろに大きく飛んで引くと、ファンファンは大剣を抜いた

「ふふふん、カズマにもらったこの剣、ついに本領発揮だな!」

 俺がはめ込んでおいたレッドホーンの魔石が光る

「テリャアアア!!」

 大剣の刀身が炎に包まれた

 そしてクイーンの炎を切り裂いて消してしまった

 おお、打ち消したのか

「ふふふん、レッド、スラッシュ!!」

 これは、オリジナル剣技か?

 見たことない剣技だ

 真っ赤に熱せられた刀身が美しく光る

 そして真っ赤な剣撃がクイーンに激突する

「ブモオオオオオオオ!!」

 クイーンはその剣撃に抗って前に進んだ

 どうやらファンファンはクイーンを捕獲しようと、殺さないよう手加減しているらしい

「ヌアアアアア!!」

 ファンファンも意地で剣撃によって押し返す

 お互い一歩も引かなかったが、その時ルカがクイーンの足に噛みついた

「ブモォオオオオ!!」

 驚いたクイーンの体勢が崩れ、剣撃がまともに頭に直撃した

「ブ、ブギィ」

 倒れるクイーン

「ふふふん、強かったなお前! ほれ、一緒に来てくれ! 良いところに連れて行くぞ! 仲間も一緒でいいぞ! たくさん食べ物があるぞ!」

 起きあがり、ブモォと優しく泣いたクイーン

 こうしてレッドホーンどころか、そのクイーンらしき特殊個体プラス、群れまで手に入れ、ルカとファンファンはその場でお弁当を食べたあとに無事帰還した

 そして俺はレッドホーン達をあらかじめ作っておいた牛舎(念のため大きく作っておいた)に入れ、レッドホーン達が好んで食べる草を干したもの(これも栽培しておいた。成長が早くて助かったよ)を与えて、ファンファンと夕食を取った


 翌朝、ファンファンショック再び・・・


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