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第25話

 カズマがファンファンの行動に微笑んでいる頃、副都パルメにて

 冒険者ギルドパルメ支部


 パルメ支部のギルドマスターであるシンク・イツカミは王都でのゴブリン襲撃事件の報告を受けていた

 シンクは人間族の男性で、元Aランクの冒険者でもあった

 背の高さは178センチ、筋肉はしなやかで、技術によってAランクに上り詰めた男だ

 双剣を使った戦闘術が得意で、素早さにかけては、とある国の忍という特殊な職業の者達に匹敵するという


 ふぅ、どうやら王都でのゴブリンの群れ襲撃事件は一応の解決を見たようだ

 俺は王都から報告に来てくれたギルド職員のビーンを見る

 ビーンは元々俺の冒険者仲間だから、気を許せるんだよな

「まあなんだ、復興支援は上手くいってるようだな。まさか大量のゴブリンが王都に攻め入るとは、よく凌いだものだ」

「そりゃ当然ですよシンクさん。あそこにゃハール騎士団長もいるし、フォウさんもいるでしょう。それにAランクも何人かいたはずでしょ」

 俺はハァとため息をつく

「ビーン、お前は報告書に目を通したのか?」

「あ、いや、最後のとこくらいしか」

「ちゃんと目を通せ。ゴブリンたちはあの森から出て来た。ここ何年か、あの森では通常種よりも強い魔物が出現しているのは知っているな?」

「ええまあ、有名ですからね。でもゴブリンっすよ?」

「だから、報告書を読め」

「えっと」

 ビーンが報告書に目を通し始めた

「こ、これって、ゴブリンタイタン!? そんなものがなぜ。しかも、倒したのは騎士団期待のルーキー二人と、少し先輩の一人・・・。タイタン三体なんて街一個が滅びるクラスっすよ? とても三人で、しかも新人が倒せるクラスじゃない」

「まあ、それほどに強いんだろうその三人は」

「これ、調査に行った方がよくないすか?」

「そう言うと思ってな、もう頼んである。リップにな」

「リップ!? 鮮血の唇じゃないすか! あのやべえやつで大丈夫なんすか!?」

「確かにリップは危険だが、あれは魔物に対して絶対に殺すって精神性が働くだけだ。普段は優秀な諜報部員だよ」

「はぁ、問題起こしても知らないっすからね?」

「ならお前がついて行ってやれよ」

「・・・。そうさせてもらいますよ。あれを止めれるかは分かりませんがね」

 ビーンはそう言って部屋を出て行った

 恐らくリップのいる教会の方へ向かったのだろう

 この街にはアルビオナ教会という、竜の女神アルビオナを祀る教会がある

 竜神教という神竜をご神体としているのだが、この女神はかつて勇者ランスにダークドラゴンを討つための力を与えたのだという

 そしてその地がここだった

 本来なら副都ではなく王都であったが、数百年前のちょっと問題ある王が、あっちの方が景色がいいとかで王都を移したんだとか

 まあ俺には関わり合いのないことだからどうでもいいが


 リップを探すため、俺は教会に来た

「お、いたいた。おーいリップー」

 熱心に神竜の像の前で祈りをささげる修道女

 彼女こそ、鮮血のリップで、Aランク冒険者という実力者

 一見すると人のよさそうな、まさに聖女と言った印象で、とても争いごとなどできるような感じじゃぁないが、それは油断を誘うための擬態だと俺ぁ思ってる

 ふだんは目を細めていて、それが本当に優しい印象を与えている

 長いピンクの髪を修道着で隠し、スタイルは抜群で男性人気も高い

 ただこの人は、魔物とみるとその顔が返り血で染まるほどに殴り続け、真っ赤な口紅を塗ったようになる

 そのため鮮血のリップ

 リップ、唇、これは呼称で、本来の名前はアリア・ナーズベル

 皆リップと呼ぶし、本人もその呼称を気に入っているため誰も本名で呼ぶ者はいない

「あらあら、ビーンさん、どうかされましたか? もしかしてぇ、魔物、ですか? 魔物、なんですね!」

「い、いやぁ違う違う違う。今回は諜報だ。いや、まあ諜報と言っても聞き取り調査だな」

「ああ、ギルドマスターが言っていたやつですねぇ。これから向かうのですか?」

「いや、明日の早朝だな。いいかリップ、あっちはまだ復興中だ。我を忘れないようにな」

 リップは首を傾げ、不思議そうな顔をする

「私、我を忘れたことなんてありませんよ? あいつらが、魔物がいるからただ、ただ殺してるだけです。魔物は、私の可愛い妹たちを奪ったあいつらは、殲滅しないといけませんからねぇ」

 うぐ、フフフと笑うあの笑顔が怖いんだよなぁ


 翌朝、再び教会に来た

 リップは支度をしてきますと言って教会の奥、修道女たちが暮らすスペースへと引っ込んだ

 そう、彼女はその恰好だけではなく、冒険者と修道女を兼任しているのだ

 彼女の戦闘スタイルは格闘術とヒーリング

 一応ヒーラーとしての役目があるが、魔物を倒す実感を味わうために拳での格闘術に重きを置いているらしい

 そして諜報部員としての顔も持ち合わせている

 普段の優しくはかなげな雰囲気と、その美貌を最大限に生かしているというわけだ

 数分後、修道着から冒険者用の軽装に着替えて出て来るリップ

「お待たせしましたー」

「その恰好、もう少しなんとかならんかね?」

「なりませーん、これ諜報に便利なんですー」

 口調も変わってる

 大きな胸を強調したかのようなデザインの服で目のやり場に困るが、彼女は気にも留めず先に行ってしまった

 はぁ、何も問題が起きなきゃいいんだが

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