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第24話

 翌日のこと

 朝から元気よくでかけて行ったファンファン

 今日はそんなファンファンを追いかけて、行動を見ようと思う

 初めてのお使いではないけれど、彼女が普段どんなことをしているのか気になったからな

「フンフンフーン」

 楽しそうに鼻歌を歌っているが、メロディーは滅茶苦茶だ

 一体何の歌なんだろう?

 ルカもぴったりと横を歩いている

 仲が良くて微笑ましいな

「んにゅあ!」

「お、これはいいもの! ルカ、よくやったぞ」

 道に何かが落ちている

 それを拾うファンファン

 手元を見てみると、それは木の枝だった

 それをブンブン振り回して素振り心地を確認しているようだ

「いい、いいぞ! ルカはいつもお手柄、いい子いい子」

「にゃーん」

 か、可愛すぎるんですけどうちの子達!

 その木を振り回したり、地面に絵を描いたりして、完全に子供の行動をとっている

 まあ年齢的には十代前半、今の小鬼族という種族なら十分子供か

 ゴブリンだった場合なら成人済みだがな

「にゃっ!」

「・・・。そこ、いるな」

 突然ファンファンはこっちを見てそう言った

 やばい、つけてるのがばれたか

 でもまあ悪いことしてるわけじゃないし、このまま普通に出て行くか

「出てこないなら、オレの剣で、首をはねる」

 ヤバいこと言ってるからすぐに出て行・・・

 俺の横にあった木の後ろから、大きな猪魔物が飛び出した

 ぜ、全然気づかなかったぁ

 どうやら猪魔物は俺に気づいていなかったらしい

 俺、そこまで弱いのか・・・。弱すぎて存在感ないんだろうなぁ


 カズマは自身が弱いため猪の魔物から隠れれたのだと自信を嘲笑していたが、それは間違いであった

 この魔物は猪の王と呼ばれる最上位個体、ロードファングという魔物だった

 気配察知に優れ、何者もその鼻による追跡から逃れることはできないとされている魔物だ

 カズマが弱いのではなく、彼が持つ生活スキルの一つ、狩人のスキル、その中の気配遮断が、もはや誰にも気づかれないほどに研ぎ澄まされていたからだ

 それ故に、ルカですら彼を目視で確認するしか術はなく、一度見失えば再度発見するのも容易ではない

 ただ、カズマはルカにばれてもいいと思っているからか、あまり視界から消えるようなことはなかった


 猪魔物はそのままファンファンに突撃していったが、素早く背中から大剣を抜いた彼女は、突進を避けつつ胴を断った

 なんて鮮やかな太刀筋

 断面もきれいで、彼女の剣術による技術の高さがうかがえる

 ファンファンがあの剣のスキルを解放するまでもない相手だったか

「ニッシッシ! ごっはんーごっはんー」

 ファンファンは手早く猪を解体すると、火魔法で火を起こして、肉を焼いて食べ始めた

 なんだ、散歩途中でも食べてたのかあの子

 まあ育ちざかりだから仕方ないな

 それにしても魔法も使えるようになってるのか

 ホント、子供の成長速度には驚かされる

 すっかり食べ終わったようだ・・・

 いやあの小さな体のどこに入ったんだよ! 自分の5倍以上はあったぞ!

 思わずそう突っ込みそうになるのをぐっとこらえる

 あ、よく見ると腹が思いっきり膨れてるな

 それでも軽やかに歩いてる

 強靭だな、肉体も、胃袋も

 ファンファンはしばらく歩くと木陰へと走って行った

 何事かと急いで追いかけて姿を確認すると、しゃがみ込んでしまった

 もしかして調子が悪いのか?と、心配して見ていると、俺が着せたパンツを降ろして・・・

 俺はすぐに何をするのか理解して慌ててその場から去った

 しばらくしてすっきりした顔をしたファンファンが木陰から出て来る

 ボコっと膨れていたお腹も引っ込んでいた

 恐ろしいほどの消化の速さだ

 そして何かを見つけたのか走り出すファンファン

「ルカ、あそこ、花畑ある!」

 ああ、そういえばここは、なぜか花が咲き乱れる場所だったな

 太陽の光が降り注いでいて、たまに昼寝しに来るのにちょうどいいんだよな

 ここにはなぜか魔物が寄り付かないため、安心してごろ寝ができるんだ

「フフ、ルカ、いいものを作ってやろう」

 花畑に座り込むファンファン

 花を摘んでそれを器用に編み始めた

 花冠か。やっぱり女の子なんだな。ウキウキして作ってる

「ほら出来たぞ!」

 ファンファンはその冠をルカの頭に乗せる

「んな!」

 ルカは少しいやそうな顔をしていたが、フゥと息を吐いて、ヤレヤレと言った感じでそのままかぶっていた

 ルカ、お前は本当にいい子だな

 しばらく花畑でそうやって花冠を作ったり、匂いを嗅いだり、密を舐めたりしながら過ごし、また立ち上がってルカと共に歩きだした

「よし、いたぞルカ」

「んにゃ!」

 何かを見つけたらしいファンファン

 その先にいたのは、オークだ

 しかもただのオークではなくハイオークという上位種

 この前のオークヒーローに比べると劣るが、それでも十分強い

 俺なんか一太刀も浴びせることができないままにやられるだろう

 そんな相手にひるみもしないファンファンとルカ

「ルカ、いつも通り、だぞ!」

「んに!」

 大剣を抜くファンファン

 それに気づいたハイオークは、持っていた大きな斧を構えてファンファンに突撃してきた

「ブグォオオオオオ!!」

 雄たけびを上げ、滅茶苦茶に斧を振り回すハイオーク

 そんな攻撃は喰らわないとばかりに軽々と斧攻撃を避ける

 そこにルカが噛みついて驚き、体勢を崩したハイオーク

「うまいぞルカ! 大剣術、飛び燕!」

 大剣の剣圧に魔力を乗せて、近距離から中距離を切りつけるスキルだ

 確か相当な技術がいるスキルだが、そんなものまで使えるのかこの子は

 だが、ハイークの皮膚は固く、深い傷は負ったものの致命傷には至っていない

「ブムォオオオオ!」

 背中を深く斬られたハイオークは、怒って斧を思いっきり地面に打ち付けた

 なんと地面が砕け、ファンファンはその場に倒れ込んでしまった

 そこを狙ってまた斧が振り下ろされる

 まずい!

 すぐに助けようと飛び出したが、ルカがハイオークに再び噛みついて、ハイオークは斧を取り落としてしまった

「ありがとうルカ! 行くぞ! 大剣術奥義、大車輪!」

 ぐっと体をそらし、飛び上がって大回転

 丸鋸のようにオークの体を切り裂いて、真っ二つにしてしまった

 凄い連携だ。ファンファンもルカも、コンビネーションがしっかりと出来ている

 俺が大剣に組み込んだスキルを使うところは見れなかったが、ファンファンならこの先もこの森で生活できていけるなと改めて思った

 俺は再び物陰に隠れ、オークの死体を軽々持ち上げて、帰路につくファンファンとルカを見送った

 おっと、先に帰っておかないとな

 俺は別ルートの近道を使って家へと帰った


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